1999年8月号
特集

●●第7回総会シンポジウムより●●
「『元気な生協』 の条件を探る」

去る6月27、 28日、 くらしと協同の研究所の総会と記念シンポジウム、 分科会がコープイン京都で開催された。 27日は総会と記念シンポジウムが、 28日は4つの分科会 (第1分科会 「元気な地域づくりの事例に学ぶ」、 第2分科会 「新しい発想と要求に立って 『福祉を創る』」、 第3分科会 「共同購入の事業革新とコミュニケーション」、 第4分科会 「組合員調査活動のあり方と生協運動への貢献」) が開かれた。 本特集では、 「元気な生協」 をテーマに、 川口清史さん (立命館大学教授、 当研究所副所長) のコーディネートで行なわれた総会記念シンポジウムの内容について報告する。 こういう状況だからこそ、 元気でありたいというメッセージが込められている。



「元気な生協」 をテーマに学び合おう
コーディネーター 川口清史さん (立命館大学教授、 当研究所副所長)


研究所のシンポジウムも今回で7回目となった。 第1回目はスウェーデンからベーク氏を招いて 「日本型生協は生き残れるか」 というテーマで行なった。 ベーク氏はすでにそのとき、 ヨーロッパはかつて組合員が生協に参加し、 生協事業もそれにこたえるものであったが、 成熟していくなかで組合員の生協離れ、 大型化による経営効率の追求による危機が進行していったことを指摘していた。 今日、 日本の生協もまた経営危機や不祥事などの危機がいっそう進行してきている。 ベーク氏の提起を再度検討する必要があるのだが、 しかし一方でそういう中でも新しい発展をしている生協がある。 今回のシンポジウムのテーマは 「 『元気な生協』 の条件を探る」 である。 こういう厳しい状況だからこそ、 互いに学び合うことが大事だと思う。 組合員、 職員、 トップも元気、 その元気を参加者で分かち合いたい。



元気な店舗の秘密は?
   報告 上仮屋貞美さん (コープおきなわ専務理事)


コープおきなわの設立は、 23年前で共同購入事業から始まった。 店舗をもったのが94年、 今年の2月で5店舗目になる。 今日は、 比較的元気な店舗事業について話したい。
店舗の職員は店をつくる時から、 店の設計、 パートの採用・教育まで全て関わっている。 自分たちのお店だから何とか元気にしたいという思いがある。 開発部門が立地を探して店舗運営部と議論して場所を決める。 これで店舗運営部の意志が入る。 出店する時は、 早い時期から担当を決め、 地域調査を徹底して行う。 自分の足で地域を歩き、 その中でどんな店にするか、 何が必要か発見する。 例えばペットなら犬と猫が半々ではない。 犬が一番多くその次は観賞魚だった。 それによって売場が変わる。 ほかには洗濯物を見て回りながら、 どんな人たちがその地域に住んでいるのか調査する。 当然競合店の調査も行う。 レジの後ろに一日中立って、 どんな人がどの位、 何を買うのか調査した。 また、 共同購入の組合員の声をしっかりと聞いた。 ただ、 組織率が20%なので、 組合員の声だけに頼らないようにした。 共同購入の組合員のためにお店をつくるのではなく、 共同購入を利用できない人たちのためにお店をつくる。
これらの調査を受けて、 店の大きさ、 コンセプト、 職員の人数、 組合員の拡大数などを決める。 部門リーダーが、 自分のパートナーとなるパートを採用する。 教育は1~2ヶ月かけて既存店で行う。 仲間づくりは組合員と行う。 店舗準備委員会をオープンの1年前から立ち上げて、 レイアウトや商品構成を考える。
職員の教育は1号店のときからコープこうべにお世話になっていて、 コモテックにも積極的に参加している。 徹底して勉強させないと店舗経営は成り立たない。 私は27才のときに長崎で専務をやり、 32才で沖縄に来た。 今の27才や32才の人たちに何をさせているか、 100%力が発揮できることをさせているか、 押さえ込んでいないか。 その力を解き放つために教育は大切である。
ひとつひとつの店に自主性を持たせている。 店長には好きにしていいと言っている。 地域にいい豆腐があればそれを入れたらいい。 外国人が多い地域では、 輸入物をたくさん並べる。 本部は店に情報を流すが、 店が判断している。
店舗の日報を情報システム (Lotus Notes) に載せていて、 誰もが見ることができる。 それをほかの店がみて、 自分たちの店で活かす。 コープ首里は、 学校の運動会のときに通常の3倍売る。 パートや職員が運動会に行って、 みんながつくっているお弁当を見て回る。 それを次の運動会のときに売場で活かす。 そのことを情報システムでみたほかの店も、 それを活かしている。 組合員も自分たちの地域でどういう料理をつくるのかパートと一緒に話し合う。 そうすることで 「生協に行くと必要な商品がある」 と人が集まってくる。



 こういうくらしをおくりたいという思いから
  報告 村井早苗さん (ちばコープサポネーター)


1990年に千葉県の2つの生協が合併してちばコープが設立されたが、 以前から組合員の声で成り立っている運動をめざしていた。 そして、 合併後の1992年、 ちばコープのめざすものをみんなでつくろうと呼びかけて、 アンケートを実施した。 「どんな生協になってほしいですか」 という質問で、 一番多かった答えは 「大きなお店がほしい」 だった。 その願いに向けて3年間いろんな事業をしてきた。 そして1995年に 「これからの5年間をどうしていくか」 再度調査をすることになったが、 ここで発想が変わったと思う。 アンケート内容を 「生協に何を求めるか」 ではなく 「みんなのくらしで今何を大切にしていきたいか」 にした。 返ってきた答えは多種多様で、 関心のあることは健康や家族、 ほしいものはゆとりや時間、 大切にしたいものは家族、 健康、 時間だった。 これを支部長、 理事、 ブロックリーダーなど総勢100名強が全員集まって読みあった。 その中で感じたことや気づいたことなどを出し合って、 ちばコープの長期ビジョンをつくっていった。 記述式のアンケートを読んで、 組合員のくらしが丸ごと見えてきた。 そうすると、 職員、 組合員関係なく、 こういうくらしを送りたいという人たちの思いに、 どう応えていくか、 それが長期ビジョンだと気づいた。
また、 組合員活動と事業活動は車の両輪ともいわれているが、 組合員のくらしのなかで分けられるものではないことに気づいた。 組合員活動でも、 福祉や環境、 平和など課題別で区切っているが、 これもくらしのなかでは分けられない。 くらしそのものが活動で、 組合員活動は組合員によるくらしづくり活動だと気づいた。 そして、 組合員活動を 「組合員にとって生協というのはくらしと活動が別々にあるのではなく、 活動そのものが"くらし化"することである」 とまとめ、 そこでは家族のくらしや生協での関わりをそのまま語り合い、 響きあうことの中に発見や創造、 楽しさも生まれ、 それが自分づくりにもなり、 より豊かなくらしづくりへとつながっていく。 これが、 みんなの思いややっていてよかったことを見つけだした、 組合員活動について大切にしたいことだった。



組合員も職員も元気になれる3つの事例
   報告 伊藤幸弘さん (ちばコープ栄支部長)


今日は3つの事例を通して担当も組合員も元気になれる要因を報告したい。
1つ目は、 今年から全地区担当が毎週1つの商品をお勧めすることにしたことである。 その商品がどんなくらしに使われ、 組合員の思いはどこかを聞いて、 それを横につなげるようにした。 以前は安い、 おいしい、 ここが特徴です、 ということがメインの会話だったが、 今はこう使うといいとか、 こうすれば子供が喜ぶとかその商品が使われるシーンを話すことができて、 組合員がより共感しやすく、 対話が弾むようになった。
2つ目は、 新規加入の組合員に、 加入してどうだったかのアンケートやヒアリングを実施したことである。 組合員は 「スーパーで買い物をすると、 いつも同じような食材になっていたが、 以前よりもいろいろな種類の食品が食べられるようになったと主人に言われた」 「日曜日にスーパーに買いだめに行かなくてすむようになり、 休日にゆとりが持てて気分的にすごく楽」 などの感謝の言葉が集まってくると、 担当は 「これはいいことだからもっと他の人に知らせよう、 それが仲間づくりなのだ」 とその活動の意味がわかり非常に元気になっている。
3つ目は、 仲間づくりについてである。 仲間づくりが苦手な担当に別の担当が地図を見せながら組合員に聞いてみるのが一番だと言った。 地図を見せながら 「この人は小さい子供がいるのですか」 などと聞いていった。 それによって、 近くに住んでいる一人ひとりが見えてきて、 買い物に困っている人がわかってきた。 生協に加入して役立つことが見つかった。 そのことで今まで苦痛だった仲間づくりが楽しくなったとその担当は話している。 地域にはまだ私たちを待っている人がたくさんいる、 待たせているのは自分だと考えるようになった。
この3つには、 共通して大事にしている仕事の進め方、 スタイルの柱があった。 まず、 組合員のくらし、 声、 思いの事実を聞くことから始める。 次にこうしたらくらしに役立てる、 喜ばれる、 それをみんなで出し合う。 ここでなぜやるのかということを徹底して深く共有する。 次に行動する。 ここでは、 一人にさせない声を掛け合う関係を大事にし、 数値結果はみんなに見えるようにした。 日報には組合員との会話は自分の意志を入れないでそのまま会話を書くようにしている。 そこで、 気づきや本音、 感じ合いや認め合い、 まねする、 いい事例を広げる、 困ったときはみんなで知恵を寄せ合うのが大切。 最後に最も大事にしなければならないのは結果を味わうこと。 自分たちが計画したことが組合員や自分にとってどうだったか、 そこを大事にして、 発見したことを次につなげる。 この事実からの仕事化の確立で、 業績は確実に動いていると同時に、 担当も組合員のくらしを知り、 仲間とともに成長している。 その実感が元気になっていくことにつながっている。



 地域に徹底して根ざす存在に
   報告 山中洋さん (生協共立社専務理事)


共立社は九つの地域生協の連邦運営で成り立っている。 それぞれの地域に理事会や監査もあり、 地域の人たちは、 それぞれの生協を個称で呼んでいる。
元気の源は、 組合員と常勤職員のエネルギーで、 それは地域に根ざしたとき生まれると思う。 共立社は地域の概念を 「歴史的共属感で結ばれた市を中心とした周辺郡部を含めたエリア」 としてとらえ、 そこに根ざした生協をめざしている。 歴史的にある共通の生産、 生活文化を土台としたくらしがあり、 ここに生きていくための要求や願い、 協同組合のエネルギーが存在していると考えている。
昨年、 由利生協が7億円の負債で自己破産した。 そこで働いていた職員7名と組合員50名が、 再び自分たちの地域に生協を、 と願って準備会を発足した。 そして、 共立社に支援要請があり、 具体的に支援する事になる。 2ヶ月で約200班と1000名の会員を組織して共同購入がスタートしたが、 利用結集が高く、 NETを3%~5%出している。 これは、 自分たちの地域に自分たちの生協をつくりたいというエネルギーがあったからできた。
新庄市の商店街の中心にあったダイエーが2月に全面撤退した。 ダイエーができたときに小売店は全部撤退したので、 近くの住民は食料品を買うところがなくなり、 商店街の人通りが半減してしまった。 そこで、 市民が出店要請署名を3000名集め市へ提出した。 市長と相談し、 出店に協力し、 今は商店街の人と組合員、 常勤職員が一緒に組合員拡大をしている。 7月30日にダイエーの看板が 「こぴあ」 に変わることになった。 組合員と一緒に汗を流し、 地域のよりどころに生協がなっていくと、 生協に対する社会的な期待や共感も大きくなる。 こういう取り組みは組合員も職員も元気になれる。
消費税導入以来、 毎月1日と15日は消費税運動の日と位置づけ、 緊急割り戻しをしてきた。 イトーヨーカ堂やダイエーもそれを最近行っている。 理事会でそれを議論したら 「ビッグには運動がない、 だから運動を全面に出そう」 となった。 そして、 徹底的に地域に出て 「消費税を3%に戻せ、 生協に結集していただきたい」 と訴えてきた。 さらに消費税運動の日の2日前から、 パートも職員も 「消費税反対」 のゼッケンをつけて仕事をして、 組合員と一緒に運動を展開してきた。 1日と15日は組合員の結集が高く、 地域のくらしを守る運動と事業を一体に押し進め、 そこに職員と組合員の確信を作り出している。



 元気の源は外にあるのではない
   コメンテーター 田井修司さん (立命館大学教授、 当研究所研究委員)


それぞれが個性を発揮して、 自分たちの地域で、 組合員と職員が一体感を持ってがんばっている姿が大事だと思った。
ちばコープで総代会後の理事会があった。 そこで、 はじめて総代会に参加した組合員が 「元気」 「輝き」 という言葉を聞いて抵抗を感じていたことについて議論になった。 それぞれの人が生協に関わってよかったと思っている中身をひとくくりにするのは好ましくない、 一人ひとりが感じる生協、 関わっていく生協、 それを大切に生協運動をしたいという結論になった。 以前は生協の中に取捨選択して、 地域やくらしが入れられていたが、 今は逆で、 地域という入れ物に生協が入り、 いろいろなことを積み重ねながら広がっていく、 浸透していくようになってきている。
コープおきなわは、 仕事が横のつながりで広がっている。 パート職員から地域の運動会がいつあるのか知り、 お弁当をのぞいて、 献立をお店で準備する。 それが隣の店にも広がる。 本部が店舗に指示・命令を出すのではなく、 店舗間で横に情報が流れ共有される体質を築いている。 それを支えているのは地域を知ることである。 自らの足で地域を知る。 地域の中にあるお店づくり、 そしていいところを広め合っている。
ちばコープでも同じようなことが起こっている。 共同購入や店舗で扱っている物販以外で、 組合員が困っていること、 あったらいいなと感じていること、 それらを地域の中で互いに支え合う形で事業化しようというヒューマンネットワーク事業が広がりつつある。 たとえば、 子育てに悩むお母さんたちが互いに励まし合い学ぶプログラムや、 ペットの預かりなどちょっとしたお手伝いを互いに提供する 「お互い様」 事業が開始されている。
共立社は古くから地域の中にある生協を一貫して模索してきた生協である。 今日、 多くの大企業で大きな本社を小さくしていき、 それよりも現場・第一線がそれぞれ中心になって調整を図るという組織変革がすすめられている。 共立社では、 それを先取りするように、 生協のあり方、 地域との関わり、 その関係を深めようと、 独自の連邦制を軸に生協づくりがすすめられている。 調整を行なう本部機能は不必要になっているわけではないが、 そういうことを大きな本部がやって地域に命令するのではなく、 地域で担っていく可能性を考えてほしい。
大きな本部が子細にわたって指示や命令がなされてそれをやるだけでは、 けっして職員や組合員が元気にならない。 大事なことは自分たちのいるその場で、 感じ取ること、 学び合うこと、 考え判断することである。 そうなれば、 解決すべきことは解決したいことであり、 やらなくてはならないことはやりたいことであり、 やれるという確信が持てることになるだろう。 そして実際にやって、 変わることでさらなる自信や確信を持つことになるだろう。
そのとき大切なのはトップメッセージである。 生協がどの方向を向くのか、 ここを語ることがイコール地域を語ることである。 3生協はそれぞれが地域におかれた固有性を活かしながら、 それを掘り下げ、 生協のあり方を深め続けるメッセージを繰り返し、 継続して、 いつも新鮮な気持ちや発見を伴ってなされている。 トップの役割は命令ではなく、 舵取りをすることなのであろう。



 成功の歴史にこそ学べ!
コメンテーター 増田大成さん (コープこうべ名誉理事、 当研究所副理事長)


1月末に行われた 「女性トップセミナー」 (当研究所主催) で言いたかったことは 「成功の歴史から学ぼう」 であった。 昨年12月にコープこうべと友好のあったドイツのドルトムント生協が倒産した。 1980年にレイドローが報告し、 15年後に今の協同組合基本原則ができた。 15年間何をしてきたのか。 ヨーロッパの失敗を見て、 失敗しないための原則を作ってきたが、 それは学び方がおかしいのではないか。 成功の事例から学ぶということが、 この時期必要なことだと考えている。
(当研究所の) 第1回記念シンポジウムのベーク報告をもう一度読み直してほしい。 今読むと 「なるほど」 と思える。 当時は右肩上がりだったが、 6年間で日本の生協は大きく変わった。 ベーク氏はすでに日本の生協が直面する危機を、 ヨーロッパがすでに直面してきた危機として語っている。
コープおきなわの職員の元気は、 教育の徹底でつくられてきた。 1号店をつくるとき、 12名預かってほしいと言われ 「いつ店舗はできるのか」 と聞いたら 「わからない」 という答えだった。 コモテックにも多くの人を送っている。 人材に一番多くの投資をしている。 それがコープおきなわの元気、 強さをつくっている。 ちばコープも同様である。 トップ養成ということで1年間に2名預かって、 コープこうべの常任理事と同じ行動をしてもらった。 トップが職員の育成にかけているところは、 性根が入っていると改めて痛感した。
ちばコープは組合員のエネルギーがすごい。 高橋理事長と 「生協は組合員の声"を"聴く、 活かす」 ではなく"で"の方がいいと話し合ってきた。 "を"はスーパーでもやるが"で"は生協でしかできない。 やるか、 やらないかの問題だが、 ちばコープはそれをやった。
持論になるが、 生協は最初仲間から始まり、 組織、 地域へと発展していく。 そして、 組織から地域へというときに、 多くの生協では 「生協の地域化」 はあるが、 共立社は 「地域の生協化」 をしてきた。 我々はそれを目標にしないといけない。 地域から生協を作り上げる、 そこに帰らないといけない。
ICAの基本的価値の中に、 それぞれの生協の理念を大切にしてください、 というのがある。 今日は3つの生協での成功事例がある。 みなさんの生協でも成功事例はたくさんあると思う。 それを法則化、 原則化し、 理念化して大事に守り続けることが大切だ。





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