1999年4月号
視角
生協法の現代的弱点 (組合員の権利の側面から)
斎 藤 浩
1 理事会議事録の水準の高い開示へ
消費生活協同組合法は欠陥法である。
私は日生協からの依頼で、 消費生活協同組合法の検討をしたことがあるが、
これには欠陥があるので、 立法提案をする必要があると提案した。
情報公開こそが生協を強くするという確信からである。
ただ、 情報公開の質が問題である。
株式会社の場合、 商法260条の4にもとづき、
取締役会議事録を請求して、 仮に議事録が出てきたとしても、
経営の実態がわかるような情報が留まらないように経営陣は工夫していることが多い。
一生懸命やって取締役会の議事録をとってみたら、
何も書いてなかったという茶番が起こることがある。
株式会社の取締役会議事録と生協でほぼ同格なのが理事会議事録である。
商法260条の4類似の規定を生協法は当然もつべきである。
持つべきだが、 日本の企業経営者と生協が同じように運営したなら、
組合員にとっては肝心な情報はいっこうに得られず、
規定は効果を発揮しない。 組合員の権利として経営の実態がわかるような議事録になる規定を生協法に入れる必要がある。
また、 請求には組合員の何分の1以上というのではなく、
1人の組合員でもいつでも請求できるという規定にする。
2 開示請求権の根拠
開示請求権は現代的視点で理論的検討が加えられるべきである。
国と地方自治体の開示請求権は憲法の知る権利と、
納税者の権利との両方の考えが必要である。 それをおさえたうえで、
会社や生協の問題を考える。
会社についての開示請求権は、 株主の主権と企業社会論という観点が不可欠である。
以前は単に株主の権利といわれていたが、 企業は社会的な意味もあるので、
その面から開示請求権がいま論議されている。
企業社会論は現代日本において企業の果たしている公的役割から、
企業情報は株主ばかりでなく従業員、 地域住民、
消費者などの知る権利のためにあると論じられている。
つまり狭義の株主の利益のためだけでなく、 社会的責任追及のために株主になることも大いに是認されるのである。
社会的責任として企業の情報を公開することで、
企業がどんな運営をしているかを知ることになる。
それは社会には非常に意味があり、 それしかルートがないために高い株を買って株主代表訴訟を起こしたり、
情報公開するためだけに株主になることもある。
自分の金儲けのためだけ株主になるのではない。
社会的責任となると、 国や地方自治体と区別する理由はなくなる。
国民とか何々市の住民だというだけで情報公開請求は起こせるわけだから、
企業もその流れの中で捉えることができる。
3 生協における情報公開
国や地方自治体で情報公開法ができれば、 国民・住民であること自体が権利の主体であり、
国や地方自治体に請求できる。 また、 企業社会論との関係では、
生協は企業の対極に位置し、 企業が放棄しがちな安全、
環境などを重視し、 それらの延長線上にある平和などの理念を基本とし、
理想としては企業社会の負の要素を克服するためにあると捉えている。
しかし、 生協の範囲は組織された構成員中心であって、
現状においては企業社会を克服するまでの質と量をまだもっていない。
したがって、 生協の情報公開は、 国や地方自治体の条例よりも少し緩やかでもいいが、
利益追求だけを目的としている企業よりも広く認められなければならない。
そして、 他の企業の利益にならない範囲で積極的に公開するべきで、
組合員にプライバシー以外は全て公開すべきである。
いやしくも中心部分の利益温存のためであってはならない。
4 生協法の恥
次に、 商法第267条に株主代表訴訟の規定がある。
これは、 不正なことで蓄財した者は利得を会社に返せという手続きで、
社長などが会社の金を使い込んだり、 違法配当していると思えば、
株主1人で訴訟を起こせる。
同じような組織規定は、 株式会社のほか有限会社、
中小企業等協同組合法、 信用組合法、 商店街振興組合法、
保険業法、 生命保険法、 農業協同組合法、 林産業協同組合法などほとんどが代表訴訟的規定をもっているが、
消費生活協同組合法にだけはない。 生協は、 直接請求の視点が弱い。
これは、 悪いことをしないことが前提だからだろうが、
現実はそうではない。
組合員に徹底した情報公開と直接民主主義的権利を保障することで生協は強くなる。
日生協は立法提案を早急にすべきである。
さいとう ひろし
淀屋橋総合法律事務所弁護士