1999年4月号
人モノ地域2


家庭的な介護を目指して
介護ハウスうえもり


今年1月、 「宅老所・グループホーム全国ネットワーク」 が設立された。 いま、 小規模・家庭的介護が注目を集めている。 その数は600を越える。 しかし、 そのような施設がまだ知られていない頃から普通にくらせる介護に挑戦されてきた、山崎さわ江さん (「介護ハウスうえもり」 施設長) にお話をうかがった。 京都府与謝郡加悦町にある 「介護ハウスうえもり」 (以下 「うえもり」 と略す) は、 織物業をしている山崎さんの実家を増改築して作られた施設である。


開設の経緯
「うえもり」 が開設されたのは、 1995年1月20日。 それまで山崎さんは、 特別養護老人ホームや老人保健施設で働いていた。 しかし、 自分達の仕事はお年寄りと関わることなのに、 その他の仕事が忙しくて、 お年寄りに何か言われた時に 「ちょっと待って」 と言わなければすごせなかったことに矛盾を感じていた。 そこで 「自分にも何かできないかな」 と思い、 加悦町の実家に空き部屋が多くあったこともあり 「自由契約制民間小規模型の介護施設」 (民間の老人ホーム) 開設を決意した。
開設にあたり、 加悦町役場に相談に行ったが、 はじめは 「そんな施設聞いたこともない」 「民間で行うのはむずかしいのでは」 と返答された。 それでも当時の福祉課長に熱心に相談したところ 「とりあえずやってみてはどうですか」 といわれ、 独自で調べ 「給食施設」 として登録し、 「うえもり」 はスタートした。

その後の経過
開設当初は利用者もなく、 新聞広告や行政、 老人クラブまわりなどを行い利用者を募った。 時には京都市内まで足を運んだが、 遠いこともあり、 あまりいい反応を得なかった。 1年目は定員8名に対して3人の入居者で年を越すことになった。 利用者が増え始めたのは2年目の夏からで、 「この施設よかったよ」 と口コミで広がり、 次々と入居者が来るようになった。 民間であるため、 入居者の障害は様々で、 寝たきりから歩ける人までいる。 最近では、 行政からも入居の問い合わせがあり、 常時7~8名が入居している。

お年寄り本位の介護
「うえもり」 のコンセプトは 「普通のくらし」 である。 入居者たちはリハビリやレクリエーションの時間もなく、 気の向くままに暮らしている。 気候がよければ散歩に行ったり、 朝になって 「今日は中庭でお食事会をしよう」 と決まれば、 献立を変更しておにぎりを作る。 その他にも、 食事は温かく、 入浴は毎日、 お酒を飲みたい人は晩酌する。 小規模であることを最大限いかし、 フレキシブルに対応する。 入居者からも 「大きな施設より気配りが行き届いている」 と評価を得ている。 山崎さんは 「お年寄りさんのできないことをお手伝いするのが私たちの役目で、 できることはゆっくりでも自力でやってもらう。 あとは普通のくらしをするための影のお手伝い」 と語っている。

グループホームへの挑戦
「うえもり」 には、 併設してグループホーム 「ふれあい」 がある。 グループホームとは知的障害者や痴呆症状のお年寄りが共同生活をする場である。 グループホームは1997年度に国の補助制度ができた。 そこで、 「うえもり」 とは別にグループホーム開設を考えたが、 厚生省の基準では、 社会福祉法人または医療法人であることが必要であり、 民間で行っている 「うえもり」 では不可能だった。 そこで加悦町に持ちかけたところ 「社会福祉協議会に相談してはどうか」 といわれて、 町と社協が運営し、 「うえもり」 が建物とスタッフを提供することが決まり、 昨年1月1日に開設した。
グループホームというと、 みんなで食事を作るなどのわきあいあいとした共同生活を想像するが、 国の基準では軽度から中度の痴呆に対してだが、 重度の入居者もいるので、 現実の生活ではむずかしい。

今後に向けて
今後、 介護保険に向けて 「ふれあい」 を指定事業者にするかどうかという問題がある。 そもそも指定事業者になれるかどうか、 不明確な部分が多く、 行政との話し合いは続いている。 しかし、 申請は7月に迫っているため時間がない。 さらには、 よりよい介護をするためにスタッフを増やしていく課題など、 お年寄りが気楽に穏やかに生活していくための努力が続けられていている。