1999年4月号
人モノ地域1
東カナダの地域社会-協同組合-大学
~協同組合の一つのありかたをさぐる~
今月は、 大西洋沿岸部東カナダの動向を紹介しよう。
ご登場願うのは、 トム・ウェッブさん。 セント・フランシスザビエル大学のエクステンション部門のディレクターである。
親しみやすく大らかな人柄は、 よきカナダ人の典型を連想させるのに十分だ。
問い:当研究所では、 トムさんとシドさんを招聘しようと計画中です。
そこでまず、 簡単な経歴をお聞かせ下さい。
トム:以前は、 連邦の地域開発担当の官僚たちのアドバイザーをしていました。
その間、 コープアトランティックにも関係するようになり、
政府と諸団体のコミュニケーションマネージャーなどを経て、
ここにきました。 要するに、 公-民の間に立つ仕事でした。
問い:コープアトランティックは、 京都生協にとっても、
商社の鮭の輸入でなじみ深いですね。 では、 現在の職場について、
説明して下さい。 独自の人道的な理念をもった大学だと聞いていますが・・。
トム:そのとおりです。 本来、 この大学は、 キリスト教聖職者を養成する所でした。
同時に、 開かれた大学として、 地域社会の改良・改善の蓄積は、
すでに20年頃からありました。 このような実績こそが、
大学がその活動領域を地域へ拡張して働きかけること、
つまりエクステンション部門の原点を示しています。
言い換えると、 深刻な社会問題に直面したとき、
宗教家・大学人としての情熱や使命に自ら応えようとした人たちは、
実社会と宗教・教育機関との掛け橋をつくり、
地域社会の改革に乗り出したわけです。 この視点は、
今も、 われわれの3つの使命の一つとして、 掲げられています。
そこで、 その有効な手段や方法として出てきたのが、
協同組合の考え方でした。 実践の中心になったのは、
二人の神父・大学人で、 彼らの献身は多くの実を結びました。
訪問者も絶えることがなく、 大不況期を通して大学は広く世間に知られるところとなります。
それは、 この地方の名前を取って 「アンティゴニシュ運動」
と呼ばれるようになりました。 以来、 合衆国も含め北米で広く協力関係が続いています。
現在、 大学と協同組合の連携は、 コープアトランティックが当部門に関して学長に助言するという形になっています。
問い:コープアトランティックの概況はどうでしょう。
トム:これは、 消費・住宅・農業・労働者協同組合など、
約160生協の卸協同組合で、 20万世帯余りをカバーし、
800人余りを雇用しています。 特に、 環境問題への姿勢が高く評価され、
各行政レベルで多くの賞を得てきました。 女性とマイノリティについて、
固有の雇用エクイティプログラムももっています。
全カナダの協同組合連合体も女性のネットワークをスポンサーしています。
問い:女性インタビュアーとしては、 後半をもっとお聞きしたいのですが、
紙数の関係上、 次の質問に進まないと・・。 でも、
女性やマイノリティ等、 非主流の立場の人々に対する協同組合の姿勢は、
協同組合の根源に関わる大事な主題です。 このテーマは、
来日されたときの目玉に取っておきましょうか。
日本の女性も、 学習を重視するばかりでなく、
たとえ御輿の担ぎ手がいなくても、 決然と自ら行動すべきでしょうね。
日本の女性政策は、 女性がボトムアップで押し上げてきたのではなく、
外圧に押されて官主導で終始したという説には、
それなりの説得力があるようです。 さて、 次の質問。
今、 エクステンション部門では、 どんなことをやっていますか。
トム:詳しく言うと日本で話すことがなくなるので、
項目だけにしましょう。
第一は、 天然ガス供給のプロジェクトです。
今、 そのファンドを募り事業化を進めるために、
ボランティアを始め、 エクステンション部門、
研究者などが動いています。 第二は、 第一次産業部門の生産物に付加価値をつける協同組合を考慮すること。
なぜだか、 わかりますよね?第三は、 コープマネジメント、
コープマーケティング等の教育プログラムの開発。
これは、 エクステンション部門で協同組合の支援をうけて進められており、
近い将来、 学生と協同組合のマネージャー以上を対象に、
本学で学べるようになるでしょう。 第四に、 私たちは全カナダの成人教育、
通信教育などの分野でも開拓の歴史を持ち、 今も多彩な教育の提供を行っています。
研究面では、 協同組合間の貿易を取り上げており、
今、 生活クラブ系を中心に先進例を調べているところです。
では、 また日本で・・。 大いに議論を楽しみましょう。
以上は、 関係資料をインタビュー形式に再構成したものである。(中嶋陽子)