1999年4月号
くらし発見の旅
講演会 「ヨーロッパ福祉における非営利・協同組織の役割」
イタリアの社会的協同組合と、
ドイツの福祉国家の原動力
本誌48号では、 98年9月5日、 京都で開催された国際シンポジウムのスウェーデンの事例を報告した。
ひき続き今号では、 イタリアとドイツの事例を紹介する。
日本の協同組合運動にとってどういう意味を持つのか考えてみたい。
イタリア- 「コミュニティの共同利益」 を最大目的とする社会的協同組合の役割と活動
ジャンフランコ・マロッキー(イタリア社会的協同組合コンソーシアム研究センター)
イタリアでは60年代に社会的協同組合が生まれた。
当初はボランタリー団体で、 宗教的動機やヒューマニズム的動機の強い人々によって推進された。
70年代の終わりから80年代にかけて法制化の議論が始まり、
91年に法381号ができて社会的協同組合が法的に承認された。
80年代後半に1000だった組織は96年には3857になり、
この10年間に急速に増大している。
91年法381号によると、 社会的協同組合とは
「コミュニティの共同利益を市民の間で人間発達と社会的統合のために推進する企業」
であるとしている。 民間団体ではあるが公的団体と同じで、
社会的に様々なサービスを提供することを目的としている。
また社会的協同組合は、 メンバーのために最大限の経済利益を達成するという目的を持たない、
という点に他の協同組合と違う大きな特徴がある。
現在、 社会的協同組合で働いている人は約7万人、
その中の1万1千人はボランティア、 1万人以上は障害を持つ人々で構成されている。
各組合の平金収入は50万エキュ (約7千万円)
以下で、 サービスを受けている人は40万人ぐらいである。
社会的協同組合は、 法律によって2種類のタイプ―社会的弱者を対象に医療的、
保育的なサービスを提供する分野 (半数以上は老人ホームも経営)
Aタイプと、 社会的弱者を市場生産活動に再挿入させるBタイプ―で発展を遂げてきた。
Aタイプはそのほとんどがボランタリー組織として誕生し、
ニーズを個別化して新しいサービスを創り出してきた。
当初、 地方自治体は補助金の配分によって、 そうした社会的協同組合を支えたが、
後に契約関係に移行し、 今では福祉サービスについては入札が一般的になっている。
そうした経過の中で、 地方自治体と社会的協同組合が一緒にやってきた長年の関係は終わり、
いま福祉は、 公的機関、 第三セクター、 民間企業を問わず、
最善の経営結果を出すことが求められるようになってきている。
20年間、 このタイプの社会的協同組合は経済的に大きく成長したが、
その一方でコミュニティとの関係が弱まってきた。
この点を克服するため、 最近は福祉の出費に対する税の控除や新しいサービス援助を増やことを志向する自治体も出ている。
Bタイプの社会的協同組合は、 仕事と職業訓練の機会を社会的弱者
(身体障害者や麻薬患者、 精神障害者、 囚人、
病気や家族のない未成年者など) に提供することを目的としている。
農業、 工業、 商業、 サービス産業などいずれの企業活動も可能である。
ただそこで働く人の30%は社会的弱者でないといけないという条件があるが、
30%というのは、 心理的にも実際の仕事でも、
2人の健常者が1人の社会的弱者を助ける関係をつくることを意味している。
また、 労働市場から排除されている人々を、 もう一度労働市場に戻して働いてもらうのが
「社会的再挿入」 「労働再挿入」 である。 そして、
地方自治体は法律によって、 社会的協同組合に労働再挿入推進のための仕事
(緑地保全や公的施設の掃除など) を発注しなければならないことになっている。
このタイプの最近の特徴は、 その活動が法律にリストアップされていない新しい分野に広がってきていることである。
障害者だけでなく長期失業者や非熟練労働者、
中高年労働者へのサービス提供などである。 それを職業訓練、
再就職の斡旋、 社会的有用労働※ の推進と経営、
仕事の需給マッチングなど、 労働再挿入手段を通して行っている。
次に社会的協同組合の事業連合は、 一つは政府や政党、
労働組合に意見を出す代表団体といったもの。
もう一つは、 事業活動上の資源を単位協同組合が活用できるよう、
企業的な統合をめざしたもので、 管理や資本調達などについてのアドバイス、
民間機関や公的機関との取引交渉、 一般代理契約、
教育訓練などで各組合をサポートする役割をもっている。
現在、 多くの社会的協同組合は、 自らの組織の特徴を守るために規模拡大は望んでいないが、
連合会の役割は、 単位協同組合がその性格・特徴を変えずに大企業のような質の高いサービスを提供することと様々な便益を受けられるようにすることである。
※環境、 文化サービスといった分野で長期失業者を一年間、
国家費用で雇用できる。 公的機関以外には社会的協同組合だけができる。
ドイツ-新たな福祉ニーズに応える草の根非営利組識の台頭
アダルバート・エバース(ドイツ ギーセン大学
)
ドイツでも新しい社会の状況にみあい、 連帯的な運動をとおして、
人々のニーズにこたえようとする動きが出てきていて、
社会的に必要とされるサービスを提供する主要なセクターが4つある。
1つめは、 社会保険を提供するセクターである。
これは、 国家機関ではないが国の定めた法律のもとで活動をしている。
2つめは、 厳密な意味での協同組合運動・組織で、
労働組合及び社会民主党と密接な関係を持っているドイツにおける伝統的協同組合である。
この協同組合が最も強力だったのは住宅供給と消費財供給の分野で、
サービス分野にはあまり関心を寄せてこなかった。
3つめは、 非営利の福祉活動を行っている主体である。
それは6つあり、 その内の2つはドイツ国内のカトリックとプロテスタントのそれぞれの教会組織と密接につながった団体である。
これらの団体はドイツが福祉国家として成長するのと期を一にして成長を遂げてきた。
最初は、 経済的に苦しんでいる貧困層への援助から出発したが、
福祉制度が一般化するにしたがい守備範囲を広げていった。
したがって医療や高齢者介護、 保育、 障害者福祉の分野では50%を超えるサービスを提供しているところもある。
しかし、 その運営資金の90%程が国の運営する社会保険から還流してくるので、
今日では 「国家に準ずる機構」 と見られている。
そして、 こうした既存の大型の非営利組織とは別に、
1960年代末頃から地域レベルで草の根から出発した自助組織が生まれてきた。
これが4つめの主体である。 この新しい草の根グループの活動は、
保育やエイズ感染者への援助、 移民や都市の貧困層に対する援助など、
非常に広範囲にわったっている。
先ほど述べた3つめ、 非営利だが既存の大組織は、
国庫から補助金が流れてくる分野で活動していたため、
必ずしも国から補助の出ていなかったエイズ感染者への援助や移民への援助といった分野に空白が生まれていた。
そこへ草の根組織が入った。
発足後一定期間経つと、 市町村レベルの公的支援を受けられるとか、
エイズ感染者への援助に関わっている団体であれば社会保険機構からの資金が出る、
といったこともでてくる。 こうした公的資金は、
一種の公益法人 (社団) という形態をとって受ける免税措置とともに、
これら草の根組織の活動を安定させる重要な要素となっている。
また大部分の草の根組織は、 特定の宗派と繋がらない既存の連合組織の傘下に入っている。
こうした草の根組織は、 単純で小さな組織だが、
新しい社会的問題に、 新しい解決策 (サービス)
を提供しようとしている。 これらの領域では、
営利活動は志向しないが新しい分野を発見し、
そこで新しい形の事業活動を編み出していくという意味で、
非常に起業家的な精神と活動が求められている。
その点で協同組合の運動が残していったプラスの遺産を正当に継承すべきだと思う。
それは起業家的な精神や思考と、 社会的な公正さ、
社会的なニーズへの対応と方向付け、 これらを結合して事業活動を行っていくということである。