1999年4月号
特集
共同購入の 「仕事」 としてのコミュニケーション
配達時のコミュニケーションはマネジメントが必要
共同購入を組合員と職員の関係性から分析する議論は、
これまであまり注目されていなかったといってよい。
しかし、 共同購入のこれまでの発展と今後の将来像を考えるとき、
この視点にもう少し重点をおくことが必要ではないだろうか。
本稿では、 まず前半で、 京都生協チームリーダー会議
(98年12月) での若林靖永さんの報告を要約する。
このなかで若林さんは、 「コミュニケーションを仕事としてマネジメントとせよ」
と提案している。
そして後半では、 この報告を受ける形でおこなわれた共同購入研究会
(99年3月) での討論を紹介する。 これは約2年前にくらしと協同の研究所の常設研究会として立ち上がり、
研究者と生協職員の参加で続けられているものである。
同研究会では、 組合員と担当者とのコミュニケーションのありかたに注目し、
アンケート調査やヒアリングなどを実施している。
<共同購入事業におけるコミュニケーションのマネジメント>
若林 靖永 (京都大学大学院経済学研究科助教授・くらしと協同の研究所研究委員会幹事)
歴史的に見たコミュニケーション
京都生協では、 御用聞きの形から共同購入に移行した。
このときの方針文書では、 組合員どうしのコミュニケーションを大事にし、
それが地域に生協を育てていく重要な取り組みである、
ということが強調されている。 組合員と職員のコミュニケーションについては、
とくに書かれていない。 しかし、 もともと御用聞きだったため、
組合員と職員のコミュニケーションは生協の活動・事業の原点であった。
その結びつきが生協を動かし、 組合員の期待に応えてきた。
また、 昔は共同購入のシステムが面倒であったため、
コミュニケーションをせざるをえなかった。 さらに当時は熱い時代の空気があり、
組合員と職員が声を掛けあっていた。 コミュニケーションは当然のこと、
原点であり、 スタートでもあった。
さて、 共同購入事業の歴史のひとつの特徴は、
組合員の負担をより少なく、 配達をより効率的にというシステム化の歴史であるということだ。
今では個人別注文制で、 さらには届けられた商品も個人別に分けられている生協もふえてきた。
利便性を高めるほど、 コミュニケーションの必然性は少なくなる。
しかしこのなかでも、 コミュニケーションは当然である、
前提であると位置づけられ、 積極的な政策が再確立されていない。
このため、 いまは意識的にどう位置づけていくかが求められており、
コミュニケーションをマネジメントの問題として扱う必要がでてきている。
さらに今日、 共同購入の組織率がたいへん高くなっている。
世代やライフステージの違いだけではなく、 ライフスタイルの異なる人たちが共同購入に参加している。
そこで、 カタログをつくることは容易ではなくなっている。
商品部の役割は大きいが、 支部で配達している担当者にも
「ズレをみつけて直す」 という重要な役割が課せられている。
そのためには組合員と接することが大切だ。 このように共同購入事業の革新という観点からも、
コミュニケーションが変わらないといけないし、
鍛える必要がある。
「まあまあ」 とれるコミュニケーション
コミュニケーションについて、 5つのパターンを紹介する。
1つめは一種の挨拶で、 気持ちいい挨拶やふだんの話ができること。
担当者の話を聞くと、 組合員とのコミュニケーションは
「まあまあとれている」 と多くが答えている。
その内容は、 挨拶をしたら返ってくるとか、 名前で呼ばれるなどであり、
これで組合員とはうまくいっていると思っていることが多い。
組合員と仲良しになるコミュニケーションはそれなりに築き上げられている。
しかし、 それだけでいいのだろうか。 組合員との関係を、
自らの働きがいや組合員の満足、 経営の成果にどう意識的に結びつけるのか。
そういう問題意識をもって、 仕事を組み立てる必要があるのではないか。
組合員とのコミュニケーションが 「まあまあとれている」
というレベルでいいのか、 これが1つめの切り口だ。
苦情やクレームにこたえる
2つめに 「苦情やクレームにこたえる」 ということで、
これはコミュニケーションのなかでいちばん目立つ部分だ。
組合員に聞くと、 担当者との関係で良かった話にも悪かった話にも多くでてくるのは苦情である。
マニュアルは整備されているのだが、 これが現状に適合しているかどうかを検討する必要がある。
組合員の反応としては、 職員がマニュアル通りに返品や返金したことにたいし、
とても助かった、 うれしかったという事例が多くある。
これはマニュアルがそれなりにうまく機能しているということでもある。
ところが、 否定的な反応もある。 たとえば卵の1つや2つ割れていても1回は言うがそれ以降は我慢して言わない。
また、 「ブリに何かが入っていた」 という組合員からの問いかけにたいし、
担当者は 「ブリはよくこういうことがあるんです」
と説明しただけだったので、 共同購入ではもう二度とブリは買わない、
という事例があった。 担当者はがんばって答えているのだろうが、
話が全然噛み合っていない。 配達された商品がよければ組合員のくらしのドラマがあるし、
反対に不良商品なら組合員の痛みがある。 それを受け止めているだろうか。
生協側の都合やマニュアルだけで問題を解決しようというのは正しくない。
そのやり方で7割は解決しているのだろうが、
何割かはそれで納得していない組合員がいる。
それを見きわめるのが、 担当者に大事なクレーム処理のポイントである。
クレーム処理でもうひとつ大切なことは、 二度と同じことを起こさないために、
どういう対策を立てるか、 ということだ。 新しい品質管理システムの工夫や改善が必要であり、
そこまでやって初めてクレーム処理が生協の事業を鍛えるきっかけになる。
改善されていくかどうか、 そこまで担当者は関心をもってほしい。
いまは、 組合員に謝ることによって、 結果として組合員と担当者にしわよせがいっているのではないだろうか。
攻めのコミュニケーション
3つめが、 特別供給促進 (供促) などの攻めのコミュニケーションだ。
攻めのコミュニケーションの考え方として、
セールストークを身につける必要がある。 たんに挨拶をする関係でモノが売れると思ったら大まちがいで、
1対1で踏み込んだ関係をつくらないと売れない。
特別供促は決して否定しない。 特別供促をやることで、
組合員との関係やコミュニケーションが鍛えられるからだ。
しかし、 たんなるセールストークだけでいいのか。
たとえば冷蔵庫であれば、 これまで冷蔵庫を使ってどんな感想や不満をもっているのか、
冷蔵庫を選ぶ基準は何か、 そういう組合員とのキャッチボールが繰り返されていくことが必要だ。
売ったら終わり、 ではいけない。
しかも、 そうして学んだことや組合員が気づいたことを、
組合員自身の言葉で広げていくことが、 いちばん生協らしいセールス方法だと思う。
組合員どうしのコミュニケーションを活発にすることで、
ヒット商品が生まれ得る。 これがいわゆる口コミで、
口コミは信頼性の高いコミュニケーションであることが知られている。
組合員のニーズを積極的に探究せよ
4つめに、 積極的に組合員のニーズを探究せよ、
ということである。
業務データを、 コンピュータシステムなどで活用することが必要だ。
またアンケートは、 生協にたいする信頼があるのでよく集まる。
一般的には、 アンケートに非協力的な傾向が強まっているので、
これは生協の武器になる。
そして、 「聴く活動」 がある。 聴く活動について問題だと感じるのは、
組合員は 「こうしてほしい」 という意見をあまり出していないことだ。
組合員はなぜ意見や感想を言わないのか。 その原因の多くは、
いままでの生協と組合員との関係の歴史、 思い入れにあるのではないか。
意見を言って、 それが実現してうれしかったという感動、
喜びを体験している組合員は決して多くないのではないだろうか。
一人ひとりの組合員の満足をもっと追求し、
共同購入事業そのものが革新されていくためには、
担当者が組合員のくらしに思いや関心をよせていなければならない。
一人ひとりの客=個客というのが、 最近のマーケティングのフレーズのひとつである。
個客に関する情報を積み上げていって、 組合員に近づいていく必要がある。
そうしないと、 ヘヴィユーザー、 つまりベテラン組合員の意見は聴き届けられるかもしれないが、
ライトユーザー、 つまり現状ではそこそこしか利用していないという組合員の意見は聞き届けられない。
一人ひとりの声に応える努力をすることで、 共同購入事業がいままで弱かったところを見直すきっかけになるのではないか。
忘れられない感動を
5つめは、 忘れられない感動を組合員にどれだけ与えられるか、
ということだ。
どこかの店を利用してサービスしてもらって嬉しかった、
という体験は誰にでもある。 同じようなことを組合員にしてあげることで、
生協のファンをつくり、 経営成果に結びつけていく。
コミュニケーションが感動をよぶことになれば、
実にすばらしい。
ただし、 共同購入でのこのような事例は、 ゼロではないがたくさんではない。
ひとつのチームで1週間に1~2件の良い話があっても、
まだ足りない。 50件でも100件でも良い事例があって、
やっとそれで組合員の信頼も広がる。 攻めるなら攻める、
聴くなら聴くで、 山ほどやらないといけない。
もっと量にこだわる、 そのことで共同購入の事業はもっと鍛えられるはずだ。
仕事としてのコミュニケーション
コミュニケーションは仕事である。 したがって、
鍛えていかなければならない。 鍛えていくためには、
目標や手段、 点検、 報告、 成果の分析や総括、
評価などが必要で、 これはマネジメントの基本だ。
マネジメントの基本にコミュニケーションをのせていくことで、
支部のミーティングも変わっていく 。
マネジメントは、 目標をやりきらねばならない。
政策や基準、 目標を設定し、 日々の活動を点検していくことが必要である。
そのためにどうがんばるか、 工夫しなければならない。
やった人は褒めて、 やっていない人は叱らないといけない。
これらがきちんとやれて、 初めてマネジメントとなる。
コミュニケーションをマネジメントの土俵にのせるためには、
現状のコミュニケーションを率直に見つめる必要がある。
現状をつかまえず、 現場の実感から離れて方針をつくっても、
現実のコミュニケーションは育たない。 ボトムアップでひとつずつ課題を設定していくことが求められている。
共同購入研究会における討論より
コミュニケーションをとりづらい班
A:コミュニケーションができない班でどうしたらいいか、
有効なアイディアがなくて行き詰まっている。
また、 自分が疲れたときや調子が悪いときなど、
会話せずに終わる場合がある。 これは、 コミュニケーションが仕事だという意識や動機づけがないためだと思う。
仕事として考えれば、 欠かさずに取り組まないといけない。
B:以前やったことがあるが、 配達時にわざと商品を不足で配達し、
あとで持っていく。 こうしてコミュニケーションのきっかけをつくり、
それで仲良くなったことがある。
いろいろな担当者を見ているが、 生協の商品のよさをきちんと伝えようとしている人が成果をあげているように思われる。
ただ、 担当している組合員をひとりひとり把握している人は少ないのではないか。
つかんでいるつもりでも、 ノートまで取っている担当者は稀だ。
優等生の担当者でなくとも、 一定程度は成果をあげられる仕組みづくりが必要ではないか。
C:担当者の頃は、 商品をおろしたあとの短い時間で、
組合員とできるだけ多くの会話をすることを大事にしていた。
今から考えると、 そのときどきの課題の話や雑談など、
何でもいいから組合員と話をして、 それでコミュニケーションは完璧にできていると思っていた。
しかし、 コミュニケーションの中身をもっと分析的に見ていく必要性を感じる。
また、 生協全体として、 コミュニケーションをどう伸ばしていくかというビジョンや展望が示されていないため、
担当者は悩んでしまう。 大きな方向性をはっきり示すことが必要ではないか。
特別供給促進の評価と課題
D:個人的には、 なぜ生協に入って冷蔵庫などの家電製品を売らなければいけないのか、
疑問に思うこともある。 しかし、 利用を結集するということではコープ商品と同じ意味がある。
また生協の経営状況が決してよくないため、 特別供促はどうしても必要だ。
ただ、 その商品の質や価格に納得ができず、
組合員がほんとうに満足するかどうか自信がなければ、
担当者は自分に言い聞かせてでも訴えることになる。
商品部やメーカーが現場に足を運ぶなど、 担当者がほんとうに組合員に訴えたいと思うような態勢づくりが生協内部で必要となる。
E:世の中のセールスマンたちも、 自分たちが売る商品について、
ほんとうに納得しきれていないことが多い。 逆に、
そこが突破できると、 驚くような成果があがる場合がある。
たとえば最近よく売れている家庭用の浄水器具は、
ほんとうにいいと信仰している人たちをセールスマンに雇っており、
売る側が熱心に訴える。 したがって、 ある商品を売る場合、
事前のプロセスをどれだけ大事にしているかが成果を決める。
F:達成すべき目標が困難なとき、 困惑を覚える。
むろん、 目標数値の根拠はそれなりに出されている。
たとえば洗濯機のときは、 一般に10年で買い換えるといったデータから、
自分の地域で何台売れるはずといった試算をおこなって目標を出している。
ただし、 その商品をお薦めできる組合員の対象数が目標数値よりも少ないときに悩んでしまう。
目標に対して対象がほんとうに少ないのか、 それとも自分が思いこんでいるだけなのか。
もう少し適切な目標数値を設定できる方法はないだろうか。
G:目標を決めると、 必ず100%やってくる人がいる。
そういう人は多くの情報を持って、 特別供促の始まる3週間ほど前から対象者を決めている。
そこまで段取りをつけているため、 目標が達成できる。
しかし、 目標を達成できた要因にどうしても目が行きがちなので、
全体としての計算根拠は正しかったか、 セールスのやり方は問題なかったか、
というふり返りは必ずしもできていない。 ひとつのとりくみが終了したあとは、
次につながるような総括が求められる。
職員は組合員活動に関わるべきか
H:担当者が組合員活動へ参加するかどうかは、
基本的には支部にまかされている。 担当者が積極的に参加している支部もあるが、
全体としては関心度が薄く、 業務課題が優先されてしまう傾向がある。
また組合員のほうでも、 担当者の関わりについての見方は必ずしも一致していないが、
もっと関わってほしいという願いをもっている人も少なくない。
配達以外に組合員との接点があると、 組合員の目線で考えるきっかけになる。
事業の革新にとっても、 大きな意味がある。
I:担当者としては、 組合員活動に関与しなくとも一向に構わない。
また、 1週間のサイクルのなかで、 組合員活動に業務として関わることも非常に困難になっている。
ただし、 担当者が組合員活動の事務局を担っていたころは、
委員の選出などで、 配達が終わってから組合員宅を訪問したりした。
そういった時の会話から、 家族構成や生活シーンがよく分かることが少なくなかった。
そんなとき、 ほんとうにコミュニケーションがとれている、
と実感したものだ。
J:担当者の組合員活動への関与が事業革新につながるのなら、
理事会や本部が直接につながったらいいと思う。
なぜ、 そこに現場の担当者が介在する必要があるのか。
担当者の成長の場は、 配達のなかで得られるのではないか。
担当者は配達をきちんとやることが仕事の中心で、
そこを見ないと、 これまで組合員活動と業務系を分離してきた経緯を無視することになる。
担当者が事業革新に関わる上での取り組み方には、
他にもいろいろあると思う。
K:担当者を配達とセールスのプロとして考えるのであれば、
組合員活動へは参加しなくても構わない。 しかし、
特別な人だけに可能なコミュニケーションでなく、
みんなができるコミュニケーションを実現したいのであれば、
配達以外のつながりは重要だと思う。
ただ思うのは、 日頃組合員と一番接していて、
地域を理解できる担当者がまったく関わらないのもどうだろうか。
もちろん、 担当者が組合員活動のすべてを担う必要はない。
必要なら組合員活動をサポートする専任事務局をおくことも意味のあることだろう。
担当者が組合員活動にも結びつくことの意味は、
組合員活動をすすめる上で配達等で得た情報や担当者のスキルを生かすことができる点、
業務を進める上で組合員の知恵や力を借りることができる点、
配達以外に組合員と話をする機会を持つことで組合員や地域をより深く理解するきっかけになる点、
などがあると思うので、 単純に分離するのでいいのかなと思っている。