1999年2月号
ESSAY
自然の生命力に感謝し、 人間らしく生きる想いをさらに高めて
コープしずおか理事長 上田克己
私は国家総動員法公布の一九三八年、 岐阜県奥飛騨の山村
(現古川町) に生まれ、"吾が輩は山ザルである"を自認している。
少年時代、 冬は罠をかけて兎とり、 春になれば山菜とりや宮川のうなぎ、
渓谷での岩魚・山女釣り等、 自然の中に没頭し、
勉強などしたことがなく、 成績もクラスでビリ2だった。
それでも六○年安保の翌春に静大を卒業し、"世のため、
人のため"の思いで生協運動に専念してきた。
以降自然と触れ合う機会もあまりなく、 四○代を迎え、
専務理事の頃、 生協の経営状況に連動して胃が痛み始めた。
診療所の医者から 「活動家は一度胃潰瘍になると何本注射を打ってもなかなか完治しないよ。
薬を飲むより、 好きな趣味に熱中した方がいい」
と勧められ、 健全な生協運動のためにも健康づくりの意を得たりと、
約三○年ぶりに静岡での"山ザル"に戻った。
静岡県は山・谷・川あり海ありで自然に恵まれている。
その自然の豊かさ、 四季の変化、 たくましい生命力に感動し、
励まされ、 教えられている。 知らないうちに胃の心配も全くなくなり、
生協の経営も比較的健全に推移している。
少し前までは黒鯛 (チヌ) に熱中し毎週港に出掛け、
近年はあゆの餌釣りなど渓流に足を運んでいる。
東西に長い静岡県、 黒鯛の餌は浜名湖周辺はイソメ、
駿河湾内はサナギ・エビになるが、 みかん・ホーレン草でも釣れる。
その昔、 サナギは富士川・天竜川上流の製糸工場から、
みかんは清水周辺の缶詰工場から、 ホーレン草は収穫期の菜洗いの川から海に流れ出たものと思われる。
しかもこれらが流れ出た季節にその餌で良く釣れる。
あゆの餌釣りも東部はアミエビ、 中部はシラス、
西部はイカと地域によって違っている。 幾代も前の祖先の食性を今の魚も受け継いでいることに驚かされる。
生協も人間様の餌を中心に事業を行なっているが、
もっとそれぞれの地域ごとの食文化、 その国特有の自然と食生活を大切にしなければとの思いを強くさせられる。
多くの人々が自然志向を強めているが、 シーズン中の山川や海にもかつてのようにゴミは散乱していない。
環境・平和・くらし…人間らしく生きる自覚と行動が確実に高まっている。
その意識、 想いをさらに高め、 今年は明るい二一世紀を拓く変革の年としたい。