1999年2月号
特集1 98年度第2回研究委員会 報告1
生協をとりまく厳しい状況に立ち向かうために
野村 秀和 (日本福祉大学教授・くらしと協同の研究所理事長)
98年12月23日、 くらしと協同の研究所第2回研究委員会が開かれた。 研究委員会では、 昨夏から秋にかけて実施した訪問調査をふまえ、 今日の生協の課題を論じた野村秀和さんと、 今日焦点となっている生協の福祉事業のあり方を深めようというビデオをまじえた上掛利博 (京都府立大学助教授・当研究所研究委員会幹事) さんの報告があった。 その2つの報告の中心点を紹介する。
いまの厳しさをどうみるか
今年度に入って、 生協の経営状況は全体としていっそう厳しいものとなっている。 これをきびしい経済環境のせいにするということもあるだろうが、 それは間違いである。 生協運営における弱さがこのきびしい情勢下で露呈してきているということだと思う。
各地を訪れて、 確かに生協は頑張っていることがよくわかった。 一定の成果が生まれ、 教訓とするモデルが見えてきている。 当面する課題は、 それを組合員、 職員ら単協全体の統一した意思としてまとめて、 全体の取り組みに、 全体の成果に結びつけることである。 徹底したリストラや対策をまとめる方向性が、 一人一人のパートを含む職員のエネルギーを引き出し、 やる気を引き出し、 組合員の大きな支持のなかで展開していくことが求められる。 その前提として、 これまでの 「負の遺産」 を徹底して自己分析して、 信頼を再生することも不可欠であろう。
このように生協陣営のなかにある 「努力」 と 「甘さ」 が混在している現実のなかで、 何が求められているのか、 それに対する基本的考え方をいくつか示したい。
供給過剰時代に立ち向かう現場力のアップ
生協事業のマネジメントにおいて重要な点は、 供給過剰時代にいま、 私たちはいるという認識であろう。 置いたら売れる、 あるいは、 値下げしたら売れるという状況はすでにない。 この問題に立ち向かう事業をつくりあげるには、 ミドルの幹部たちの育成、 人間としての成長、 柔軟な判断と同時に、 大状況、 小状況についての正確な判断ができる幹部集団をどう作り上げていくのか、 ここが問題である。
ところが、 以前には、 現場の職員は言われた通り、 マニュアル通りやりなさいと言われてきた。 それが最近になって、 現場の力を引き出すことが大事であると、 自分の頭で考えろと多くの生協で言っている。 その方向は間違っていないし、 大いにすすめるべきである。 しかし、 急にそう言われても、 現場の職員はとまどうのも実態で、 下手をすると、 トップに対する不信さえも出かねない。
したがって、 今日、 率直に状況や問題を共有し、 経営戦略、 長期的な方向性を確立し、 それを職員集団、 組合員組織との信頼関係を育みながらすすめていくことがきわめて重要になってきている。
「組合員主権」、 「組合員の声を聞く」、 それを絶えず言い続け、 部下の職員たちに指示している。 そのことは承知の上でなお、 「本当に組合員を信頼しているか」、 これを率直にたずねたい。 かたちだけでなく、 一時的でもなく、 実際に徹底され、 継続されなければ、 組合員も同じ不信感をふくらませていく。 このような信頼関係づくりをすすめながらの改革は、 時間がかかることを覚悟しなければならない。
最高のノウハウを追求して地域に根ざす
生協事業の方向は、 地域に根ざすことにおかなければならない。 しかも、 最高のノウハウを徹底的に追求するという姿勢、 これをなくしたら地域に根を張ることはできない。 供給過剰時代、 情報化時代の今日、 消費者・地域市民が選ぶのは、 明らかに最高のものである。 生協組織、 専従組織の側が、 最初からあきらめていたのでは、 組合員の信頼を裏切ることになる。 できないかもしれないが、 最高のノウハウを追求することが重要である。 そのためにどれだけの努力をしているのか、 それを実現するためにあと何が足りないのか、 足りないことを明らかにして、 それを組合員のエネルギーによって、 どう補強し、 強めていくのか。 ここの姿勢が不可欠である。
情報化時代の組合員組織づくり
さらに、 組合員の一人ひとりはインターネットなどは当たり前のこと、 アングラ情報も含めて相当な情報通である。 そして、 生協以外の供給能力や価格情報、 産地情報など、 さまざまなことも飛びかっている。
情報化が一国の権力をも揺るがす力を既に持っていることは、 歴史が証明している。 ましてや、 くらしに密着した生活必需品、 特に食料品の日常的供給に責任を持って担当している生協の場合、 買い物の中心が主婦であり、 その情報について最も強い関心と興味を持ち、 しかも行動的である。 そのような消費者を組合員組織として擁している。 これは大変な力であると同時に、 そこで不信任されたときの手厳しいしっぺ返しは大変厳しいものがある。
情報化時代の組合員組織のあり方を、 上から考えるのではなく、 客観的な条件のなかで、 トップとして組合員組織の動きや気持ち、 今は小さくとも将来大きくなる内容を持っているのか、 今は大きいが新しい情報提供のなかで急速にしぼんでいくものなのか、 このへんの所をしっかりとつかむことが大事である。 単に機関会議の決定だけしか見ない、 そこだけ乗り切ればよい、 そんな問題ではない。
店舗投資の判断能力
店舗事業の赤字構造の主要因である小型店のスクラップについての意思決定は、 生協戦線全体ではできあがりつつある。 組合員との合意には時間がかかるが、 各地で少しずつすすめられている。
大型店の方も必ずしもうまくいっていないところが少なくない。 これからの時代はSSMだという主張が80年代末から続けられ、 各地で出店がすすめられた。 出店立地の判断の甘さや店舗運営力量の低さ、 人材育成の遅れ、 大店法規制緩和に伴う競合の激化などにより、 大型店であっても採算分岐点を割る利用人数、 供給高になってしまい、 巨額の赤字をつくりだしているところがある。 大型店出店も一歩間違えると、 過剰投資の持つ不良資産化となりかねない。 これまでの経営悪化のケースでは、 誰の目にも明らかになってからでは遅すぎる。 大型設備投資、 過剰投資などに対する批判的なチェック能力を、 どれだけトップとして、 理事会として持つのか。 研究者集団が、 そのためにどれだけサポートできるのか、 が問われている。
店舗事業の赤字構造の主要因である小型店のスクラップについての意思決定は、 生協戦線全体ではできあがりつつある。 組合員との合意には時間がかかるが、 各地で少しずつすすめられている。
大型店の方も必ずしもうまくいっていないところが少なくない。 これからの時代はSSMだという主張が80年代末から続けられ、 各地で出店がすすめられた。 出店立地の判断の甘さや店舗運営力量の低さ、 人材育成の遅れ、 大店法規制緩和に伴う競合の激化などにより、 大型店であっても採算分岐点を割る利用人数、 供給高になってしまい、 巨額の赤字をつくりだしているところがある。 大型店出店も一歩間違えると、 過剰投資の持つ不良資産化となりかねない。 これまでの経営悪化のケースでは、 誰の目にも明らかになってからでは遅すぎる。 大型設備投資、 過剰投資などに対する批判的なチェック能力を、 どれだけトップとして、 理事会として持つのか。 研究者集団が、 そのためにどれだけサポートできるのか、 が問われている。
「当たり前」 の課題を克服し黒字へ
生協運動を官僚化させずに生き生きとリフレッシュさせていく役割を、 トップは持っている。 その場合、 今日の情報化時代、 供給過剰時代の現実のなかで、 組合員一人ひとりの行動が、 実に生き生きと様々な個々のネットワークをつかって展開されていく、 それを充分に把握し、 それを大きく包み込む、 そういう方向性を戦略的視点と同時に業務展開をすること。 現場職員の力が発揮されるために、 幹部集団がビジョンや方針を共有して、 信頼づくりをすすめながら改革を行なうこと。 これらの 「当たり前」 のことをやり抜くことを通じて、 実体として黒字経営にすることを希望したい。 決算処理で小手先の黒字づくりではなく、 生協として組合員、 職員と経営の厳しさを共有化してともに立ち向かうことで、 しっかりとした黒字体質づくりをすすめてほしい。
以上の報告についての参加者の意見を紹介する。
研究所はこれまでも各地の訪問調査をすすめてきたが、 その後不祥事、 経営悪化が発覚したところが少なくない。 生協運営の実態をつかまえるという点で改善すべき点があるのではないか。 なぜこうした事態が起こったか、 より突っ込んだ分析が必要である。
指摘のあった生協がいま直面している課題について、 実際にどのように一つひとつ解決していくのか、 その政策化についても、 いっそう研究所が貢献することが期待される。 地域に根を下ろすというのをどのように具体化するか、 私たちはもっと前進する必要があるのではないか。 研究所がどういう提案をするか、 責任があると思う。