1999年2月号
特集2 98年度第2回研究委員会 報告2

生協が福祉に取り組む意味

上掛 利博 (京都府立大学助教授、 くらしと協同の研究所研究委員会幹事)

公的介護保険の実施を目前に控え、 生協は具体的に何をどう考えたらよいのか、 どういう役割をはたすのか。 上掛利博さんは、 ビデオで具体例を紹介しながら報告。 その後熱心な討論が続いた。


地域での実践が行政を変える

福岡市にある宅老所 「よりあい」 や 「ベースキャンプ楽居」、 秋田県鷹巣町での取り組みから共通して学べることは、 安心して暮らしていける地域社会を地域住民の参加のなかでつくりあげたことである。
「よりあい」 では、 自分たちがこうしたいという思いが基本にあり、 地域の人たちが支える会をつくって支援している。 最初は物品販売からスタートし、 今では行政からの補助を受けられるようになったが、 それでもスタッフの給料は老人ホームに勤めていたときより下がった。 しかし、 やりがいがあるからやっている。 行政も、 こういうやり方が地域でできるなら、 大規模な老人ホームを何10億もかけて建てるよりはいいので支援しましょうと、 10年かけて認識が変わってきた。 また、 「ベースキャンプ楽居」 は、 1階が診療所、 2階がディケアセンター、 3階がグループホーム、 4、 5階がワンルームアパートになっている。 ここでは、 生協の 「くらしの助け合いの会」 と同じように、 介護される側とする側の区別をなくして、 生活者として考えて、 自分たちだったらどうしたいか、 されたいか、 という思いで始められた。 夫婦での同居も可能であり、 元気なお年寄りが自分の配偶者を支えながら、 必要な援助をうけて最後までくらすこともできる。 ディケアへ来た人たちの世話は、 上の階に住んでいる元気なお年寄りも参加して、 お互い助け合っている。

日生協はヘルパー業務へシフト
98年5月、 日生協は 「生協・福祉政策検討委員会答申書」 をまとめ、 全国の生協がヘルパー業務に進んでいく方向性を明確に示した。 また、 同年8月には、 「生協のあり方検討会」 報告書がでて、 厚生省はサービス供給業者として生協を位置づけた。 その委員の一人である栃本一三朗さん (上智大学助教授) は、 98年7月24日の 「生協の福祉政策セミナー」 で、 生協は1つのナショナルブランドで、 生協のネームバリューに対する期待を表明した。 確かに規模が大きくて、 経営が安定していることは大事だが、 規模は小さくても自分たちで地域社会をつくりあげていく、 自主的な住民参加型の福祉活動を活性化することが大切ではないだろうか。

ノーマライゼーションと新しい福祉の創造
ノーマライゼーションは、 福祉の考えを根本から変えてきた。 老人や障害を持った人たちが社会的弱者ではなく、 その人たちと一緒にくらせる社会が人間のための社会になるという発想の転換である。 人間の意識や社会の仕組みをそのように変えていく。 そうした福祉社会づくりに生協などの社会組織がどう貢献できるのか。 また、 福祉の活動を通じて人々の意識や社会を良くしていくことにつないでいけるのか。 これが今まさに問われていて、 その方向への運動を強めることなくしては、 単に民間組織が市場原理で参入すればうまくいくものでは絶対にない。
行政に対し公的福祉責任を果たせと繰り返し要求して施設ができたとしても、 4人部屋の老人ホームには入りたくない人が多い。 自分たちが入りたいものを工夫して創らないといけない。 批判することが大事なのではなくて、 こういうものも可能であるという代替案を示し、 住民と行政に支持をもとめることをしなければいけない。 そして、 新しい福祉づくりの運動を支援する政策のあり方を提起し、 世の中を変えていく必要がある。 そのために生協の活動は、 今後とも大きな役割を果たすことができる。

以上の報告に対して参加者から意見があった。 その一部を紹介する。

組合員活動と生協本体の役割の理論化を
生協が高齢者福祉にとりかかろうとしても、 一方で経営環境が厳しくリスクがある。 しかも組合員の組織に依拠しながら具体的な事業を進めていくと非常に手間がかかって、 なかなか足が踏み出せない。 これが実態ではないか。 組合員みんなが関心は持っているが、 みんながいま切実でもない課題に生協はどう関わるのか。
また、 生協本体の役割と、 組合員活動は、 論理の次元が違う。 生協本体としては、 組合員活動をどう支援するか、 応援するために何をするべきかであり、 組合員活動と分けて議論しなければならない。 そこの理論化が必要である。

具体的な提案が必要
いまの報告は、 組合員活動としての取り組みが少数でも一定の意味をもつ可能性があるという点では非常に示唆深いし、 介護保険制度があろうとなかろうと、 高齢社会では当然やらなきゃならない問題として一般性をもっている。 しかし、 介護保険制度という新しい保険制度をめざした動きの中ではどうか。 いまは、 どういう事業や取り組みが可能で、 どこから手がけられるのか、 どういうことをやっていかなければならないのか。 特別養護老人ホーム (以下特養と略す) などとても手が届かないが、 この程度だったらできるという具体的提言が必要である。

特養を共有財産として
ならコープやコープこうべ、 生活クラブが特養を持ったことを、 関西なら関西の生協の資産と位置づけて、 それをどう利用するか、 という発想が必要である。 いろいろな施設と事業をネットワーク化しないと、 単体では効率が悪いし、 利用者のニーズに合わない。 特養と老人保健施設、 デイサービス、 デイケア、 そして在宅ケアなど、 さまざまなサービスメニューがあり、 それが連動することで経営が成り立っていく。 それをネットワーク化していくのが、 大規模生協の強みとして考えなければいけない。 コープこうべやならコープの特養をセンターとして、 関西全体で位置づけることが大切である。
そのさいにネットワーク化する時の主体を、 できるかぎり組合員活動や組合員の事業におく。 組合員は、 福祉に対する情熱も、 能力も、 エネルギーもあるので、 それをどう活性化させるかが大事である。

大規模生協の支援の形
今後、 小規模の協同組合が生まれてくる可能性がある。 その新しい協同組合と大規模生協がうまく組織のなかでドッキングする形にすることがいいのではないか。 大規模生協の強みは、 行政や他団体との間でかなり大きな発言権を持っていること。 これが新しく生まれてきた組合員を中心とした事業活動に対する支援の仕組みとして、 重要な意味をもってくる。 組合員が事業を始めるために必要なノウハウを提供したり、 資金的な支援をするために行政からとってくるなど、 支援本部のような形で、 大規模生協が機能することが現実的ではないか。

専門家との連携と評価
生協の既存の共同購入や店舗が、 高齢社会のなかでの福祉サービスや医療サービスと連携しながら、 くらし続けられる地域をどうつくっていくのか、 これまでつくってきたものをどう活かすのかが大切である。 つないでいくことが大きな課題で、 自分のところだけで絵を描くのではなく、 医療や福祉関係者と一緒に絵を描いて、 地域そのものを変えていくという形でやらないといけないのではないか。
また、 介護保険のサービスの量と質について情報をもつ必要がある。 介護保険は選べることがキーワードだが、 利用者は選ぶための情報をもっていない。 生協には地域全域をカバーする組合員組織があるので、 自分の地域ではどういう福祉サービスが利用でき、 その質はどうかを調べて情報として共有し発信する。 そうすれば、 消費生協として単なるサービス供給者だけではない貢献ができるのではないか。

トップの役割
自助を励ます制度として、 家事援助や食事サービスを位置づける必要がある。 2級ヘルパーだけでは安心して老いることはできない。 家事援助を事業化することもふくめて、 家事援助の位置づけを明確にする。 そして、 配食などの 「食」 に関する分野での事業化をすすめる。 入口は家事援助や食事サービスで、 そこを通じてさまざまな援助や生協の他の事業ともつないでいく。 また、 グループホームやデイサービスなども検討する必要がある。
そして、 トップは、 生協が福祉事業をやることの意味は何かをトップ自身の言葉で語ることが必要。 実際に何をやるかと同時に、 自分の生協にとって福祉事業を行うことのトータルな意味は何かという点をぜひ深めていただきたい。