1998年12月号
人モノ地域1
ICAアジア太平洋地域女性フォーラム開催
12ヵ国、 130人で共同宣言をまとめる
日生協関西地連ジェンダーフォーラム懇談会代表 仲宗根 迪子
10月25日~28日、 ICAアジア太平洋地域女性フォーラムに参加するためソウルに行った。
実は最初参加することに躊躇した。 韓国は高校時代の親友の母国であり、
隣国であるのにあまり知らない。 なにより、 日本と韓国との過去の関係を考えたとき、
いいかげんな知識と中途半端な罪悪感をもって行ってもいいのだろうかという、
とまどいがあった。 しかし、 チャンスはチャレンジであり、
チェンジでもある。
行動課題と提言を策定
今回の女性フォーラムは歴史のなかでひとつの大きな意味をもっていた。
92年のICA東京大会の際、 ICAの運営は地域を中心に進められることが提案された。
それ以降、 95年マンチェスター100年記念総会以外はそれぞれ地域総会で進められ、
また生協委員会等も各地域で開催されるようになった。
しかし、 アジアでは女性問題は自主的な会議として運営されていて、
ネットワークを広げ6年かけて、 やっとアジア太平洋地域の女性委員会がうみだされたのだ。
今回はそれを記念して女性フォーラムが開催された。
経済も生協も発展途上にあるアジア地域で女性委員会を立ち上げるために、
ラハイア・バヘランさん (マレーシア全国協同組合連合会副会長、
マレーシア上院議員、 ICA理事) や立川百恵さん
(日生協理事、 元日生協女性評議会議長、 コープえひめ理事長)
を初め、 各国の女性リーダーの奮闘があったが、
アジア太平洋地域事務局にジェンダー担当職員を派遣した日本生協連の支援も大きい。
参加者は12カ国130人で、 日本からは生協連50数名、
JAと全漁連から10数名であった。 参加者全員で地域総会にむけての宣言と10項目の提言をまとめるという大作業をした。
英語、 韓国語、 日本語のそれぞれのグループにわかれ、
男女共同参画にむけての行動課題をだしあった。
女性の参画の場を増やす、 そのための教育・訓練の保証、
法や定款・規約を男女平等推進のために改定、
情報を発信しネットワークを図る、 などが主な内容である。
先進国、 途上国を問わず、 女性がぶつかっている壁の厚さは共通であることを実感したが、
日本の男性にはこのことをぜひ認識してもらいたいと強く思った。
またフォーラム参加のためにきていた台湾の代表者が出席を拒否されるという、
緊張した国際問題もあった。
女性たち自らの生協づくり
今回のもうひとつの目的は韓国の生協との交流である。
韓国の生協の誕生は80年代初めである。 軍事政権下での民主化運動のうねりのなかで散発的に生協がうまれたが、
集会禁止があり、 主婦を組織することはむずかしかった。
87年の民主化宣言でようやく陽のあたる場所で活動できるようになる。
しかし、 生協法がないなど法的基盤がなく、 任意団体か社団法人である。
97年現在77生協と中央会があり、 組合員71000人、
事業高38億円、 出資金3.6億円、 職員340人である。
交流した韓国女性民友会は、 生協というより社団法人の女性運動団体で、
活動のひとつとして共同購入事業をしている。
男女平等や働く権利をもとめて政治参加し、 性暴力のカウンセリング、
職業訓練、 子どもの環境学校などの活動をしている。
専業主婦を"社会主婦"にすべく社会主婦大会を開催、
社会主婦大賞を選考している。 生協部門では輸入自由化のなかで安全な食品や農産物、
環境に配慮した商品を供給している。
韓国は70年代から急速に経済が発展した。 産業育成、
都市近代化、 貿易自由化のなか、 大きな変化にたいして不安をもったエリート層の女性たちが民主化の動きとともに生協づくりを始めた。
経済が破綻したいま、 法の保護もなく、 経営基盤も規模も小さい生協にとって厳しい時代である。
運動を大衆化していくにも壁にぶつかるだろう。
懸案になっていた生協法が、 金大中大統領の指示もあって制定に動きだしたと聞いた。
生協が社会に認知され、 発展していくことを願わずにいられない。
歴史教科書を共同編集することから
さて、 韓国に行って、 最初の私の気の重さはいくぶん軽くなった。
罪の意識が薄くなったのではなく、 考える方向がみえたためだ。
戦後50年を過ぎても日本と韓国の間でわだかまりが残っている。
いまだに残る在日韓国人への差別意識や従軍慰安婦問題、
そして私自身にもある日本がしたことの罪悪感。
なぜだろう。 韓国に行くことに躊躇したわけを、
私なりに探りたかった。
ひとつの手がかりとして、 韓国では日本との関係を歴史としてどのように教育しているか知りたかった。
参加メンバーに韓国通の生活クラブ生協事業連合国際対策事務局丸山茂樹さんがおられ、
『韓国の教科書のなかの日本と日本人』 (伊学準監修、
筒井真樹子訳、 一光社刊) を見せていただいた。
そこには民族の誇りで溢れ、 植民地時代の日本の悪政が記載されており、
私の一般的知識と認識の違う面もあった。
日本の教科書にたいして中国や韓国からクレームがかかるが、
歴史的事実にかんして互いに違う教育を続けることの危うさを感じる。
ドイツとポーランドは教科書編集にあたって共同して作業すると聞いた。
日本と韓国や中国もそうした機会が必要ではないか。
日本は島国なのでとくだん民族意識を感じることはないし、
軍国主義への反動からナショナリズムにたいして警戒感がある。
しかし、 大陸と地続きの韓国では、 民族は国の、
また人々のルーツとして意識下に生き続けているし、
民族の誇りが教育されているのだろう。
韓国とのわだかまりは国を荒らし、 人を殺し傷つけ、
名前と言葉を奪ったことへの日本としてのけじめが、
韓国民の同意を得ていないこともあるが、 なにより民族の誇りを傷つけたことにたいして、
日本人が鈍感だからではないか。 新しい関係を築こうとするとき、
過去の関係を正確に認識しあい、 互いを尊重しながら共有点をみつけることで築いていかなければならない。
なにより知り合い、 ふれ合う、 いわゆる 「民際交流」
の重要さを実感した。 協同組合の定義と価値は、
まさにそのためにある。