1998年12月号
書評2
それぞれの立場でそれぞれの役割をはたす
中松 裕 京都生協職員
『食の安全を守るのは誰か』
西川欣一
東京新聞出版局 1998年 1500円
「人と環境にやさしい食べ物」 をめざして、 高村勣組合長
(1988年当時) の提唱で始まったコープこうべのフードプランは、
今や100種以上の品目に広がっている。 そのフードプラン顧問を務める著者は本書の前書きで、
消費者が正しい選択をおこない、 今の社会の方向を変えるために、
食をとりまく現状と、 そこにいたる経過をわかりやすく伝えたい――としている。
そして、 自身の少年時代の体験や食べ物に関するエピソードなどもまじえ、
食をめぐる危機的状況とその克服をめざす取り組みについてのわかりやすい入門書が本書である。
読んでみての感想は、 第1に、 食をとりまく環境はさらにたいへんになっているのだということ。
農薬・添加物・抗生物質といった以前からの諸問題にくわえて、
環境ホルモンや遺伝子組み換え食品、 O-157や狂牛病など、
次々と新しい問題が登場してきている。
第2に、 そんな状況のなかでも、 食の安全をもとめて行動する人や組織があるのだということ。
本書ではそれがコープこうべや有機農業生産者の事例を中心に紹介されている。
ところで、 この原稿を書いている11月初旬現在、
野菜の相場は高騰が続いており、 流通大手は諸外国から緊急輸入した野菜をチラシの目玉商品にしているが、
独自の安全基準をもつ生協には、 このやり方はできない。
安全を犠牲にするのは論外だが、 一方で今の時期に安価をもとめる組合員の願いに応えきれていないむずかしさも痛感する。
また、 以前に研修で参加したコープこうべの地区別総代会議で、
ある総代が 「最近、 コープこうべで輸入食品が増えているのは問題ではないか」
と発言したところ、 別の総代が 「コープこうべ以外では輸入品は怖くて買えない。
安くて安全な輸入品を増やしてほしい」 と反論していたのを思い出す。
食べるものだけに、 味・価格・安全性といった各要素のバランスをどうとるのか、
供給する側も複数の選択肢をそろえる必要がある。
本書のタイトルからも想像がつくように、 現状と経過を知ったうえで安全を守るのは、
読者である 「あなた」 なのだというのが、 本書の結びとなっている。
読者の立場でもできることはさまざまだが、 冒頭にあげた高村勣さんは
「組織のトップ」 という立場で、 食の安全を守る役割を実践されたのである。
京都生協としても10月末よりこだわり農産物の新ブランド
「ふぁーむねっと」 をスタートさせた。 組織も個人も、
それぞれの立場でそれぞれの役割を果たす。 それらの積み重ねとつながりが、
世論を変え、 状況を変えていくための、 結局は近道なのではないかと、
本書を通じて感じた。