1998年12月号
くらし発見の旅
講演会 「ヨーロッパ福祉における非営利・協同組織の役割」
協同組合発展に有効なCDA (協同組合開発機関)
いま日本でもヨーロッパでも非営利組織や協同組合が福祉の分野で大きく活動することが期待されている。
とくにヨーロッパでは、 近年この分野での協同組合の役割が増大しつつある。
協同経済研究会 (当研究所と生協総研の共同プロジェクト)
の主催で、 東京での国際リサーチ・フォーラムに続いて、
京都で講演会が開催された。 そこでは、 それぞれの国の特徴をふまえて、
協同組合・非営利組織がどのように活動をすすめているのかが議論された。
京都での講演の内容を紹介し、 ヨーロッパの事情に学びながら、
日本の協同組合や非営利組織のあり方、 その関係性などを考える一助としたい。
最初に協同経済研究会のメンバーである川口清史さん
(立命館大学教授・くらしと協同の研究所副所長)
から、 3人の演者の国の状況が簡単に紹介された。
ヨーロッパの新しい動き
スウェーデンは、 ご承知のように非常に高い水準の福祉国家を実現しているわけですが、
そのもとで今新しい協同組合が生まれてきて、
活発に活動し、 伸びてきています。 福祉国家でありながら福祉が協同組合によって担われているというのが、
重要なポイントです。
それからイタリアですが、 ここは日本と同じように福祉国家としては遅れた国でありますが、
日本と同じように財政危機が表面化し、 政府が福祉に金を出すという状況でなくなってきています。
そういうなかで人々が協同組合をつくり福祉の充実に動き出しているのです。
イタリアの場合は社会的協同組合、 新しいタイプの協同組合が生まれ成長しています。
次にドイツですが、 ドイツは協同組合という形とは少し違っています。
ドイツはもともと福祉国家ではありますが、 スウェーデンと違ってこの分野で非営利組織が大きな役目を果たしてきたという経過があります。
しかし最近になって、 これまでの伝統的な非営利組織とは違った自助的、
共助的組織が発展しています。 ドイツは日本にとっては介護保険のモデルになった国でもあります。
お招きした3人の方は、 近年のヨーロッパにおけるその分野の第一人者ばかりで、
ヨーロッパの最先端の状況と議論に接することができると思います。
(イタリアとドイツの報告内容は次号に掲載する)。
新しい福祉の生産
―― ヨハナン・ストルィヤン
スウェーデン セーダートン大学
スウェーデンの福祉システムは、 基本的に全ての人を対象にしているということに特徴があります。
そのためにたくさんの税金を払っているのです。
そういう意味で国家的な福祉といえます。 そして税金を高く払おうが低く払おうが同じようなサービスを受けるということです。
したがって国は福祉サービスの生産を独占している状況にあり、
それは福祉分野に政府以外の主体の参入が期待されていないということです。
しかし、 福祉の分野で新しい協同組合あるいは主体が生まれ、
事業経営することが始まっています。 運営資金は国から出ることになっていますから、
国の義務を他の主体が肩代わりしているという位置づけになりますが、
なぜそうなったのでしょうか。
その第1はサービスの質の問題です。 福祉国家が大きくなればなるほど組織が企業化されてきます。
しかし、 いま増加している中間層の人たちは、
企業的でない方向を望んでいるのです。 自らの事柄について参加あるいは管理をして、
自分たちの個性や違いを生かすようなものを求めるようになってきています。
第2には、 国が福祉の分野に競争をもちこみ、
市場に近いものにしていくといったことを考えていることがあります。
1992年にスウェーデンは保守党の政権になり、
そこでのイデオロギー的な理由、 選択の自由を広げるといったこともあって、
いろんな主体を福祉の市場に参入させてきています。
そうした動きと人々の新しいやり方を求めるということがあいまって、
福祉の分野で 「新しい福祉の生産」 が始まってきたわけです。
スウェーデンの場合、 協同組織は一般的にアソシエーションというように受けとられています。
非営利と営利のものがありますが、 一般的に協同組合と呼ばれているのは、
営利のアソシエーションです。 ここでは両方とも協同組合というふうに呼びますが、
その共通の基盤は所有する組合員が存在していることです。
それは民主的管理、 民主的な支配ということに関わって重要な意味をもちます。
福祉サービスの組織形態については誰がそのグループをつくっているかということに規定されます。
いちばん多いのは利用者組合で、 その優れた典型例は親の保育協同組合です。
これは、 公立保育所に入るのに2年も3年も待たなければいけないという事情がありますが、
主に、 子どもをただ預けるのではなく、 もっと子どもと一緒にいたい、
親も保育に参加をしたいという動機から出発しています。
およそ20人までの子どもを扱い、 親のグループが社団をつくってスタッフを雇います。
スタッフが子どもの保育をし、 親が運営管理にあたるところもあるし、
親も保育に参加するといった例もあります。 興味深いのはこの新しい協同組合においては利用者もまた単に管理だけでなくて、
自ら直接働く、 実際上サービスを担当するということです。
そして別のところで管理を握る一票をもつことです。
今スウェーデンでは、 こうした協同組合が草の根から広がってきていますが、
それぞれ地域で組織化されていったことに特徴があります。
地域には支援の環境や地理的なことも含め、 それぞれの事情や違いがあります。
地域レベルでつくり、 運営していくことは、 地域によって違いのある資源を動かしつき合わせて、
組織し運営していくということです。
スウェーデンでは基本的にお金は、 国や公共機関から出る、
税金が戻るという関係になっていますが、 できてまもない組織など、
例外的にそうでないこともあります。 その場合はサービスを受ける人がお金を払うこともあり、
そうした場合には無給のボランタリー労働も資源の一つということになります。
また、 地方自治体を動かしてお金をもってくるといった、
政治的な力というのもまた一つの資源と考えられます。
この点でとくに強調したいのは、 組合員も資源として動かしていることです。
また大事なことは支援組織のネットワークをつくることです。
ふつう地域の組織は、 地域にどんな資源があるかについては知っていますが、
それをどのように動かし、 また組み合わせていくかについてのノウハウがありません。
この点で、 CDA (協同組合開発機関) という組織がたいへん重要な役割を占めています。
現在CDAは全国レベルでできていますが、 最初は80年代に地域から生まれました。
それぞれの地域で支援者などを集めて1つの連合組織をつくりました。
地域の農協や生協、 時には自治体が支援の組織化に入っていったところもあります。
CDAの主な機能は、 協同組合設立への支援、
情報提供、 教育活動、 政府へのロビー活動などです。
情報提供の内容は協同組合に関するものと法制度、
助成金などに関するものです。 教育活動としてはマネジメントや経理会計なども含まれます。
活動分野は保育協同組合の設立支援から始まりますが、
今日では老人ホームや精神障害者の作業所、 身体障害者の自立生活といった社会サービス分野、
さらに過疎地の村おこしや都市での青年層の仕事おこしなど、
さまざまな分野での協同組合づくり支援に広がっています。
財政基盤は政府の助成をベースにプロジェクトごとの助成も受けています。
例えばマッチングファンド、 マッチングシステムといって、
CDAが寄付金を集めて何かの組織化を始め、
そこに公共機関から資金やそのほかの支援を得るといったこともあります。
無料や有料で公共機関のコンサルティングをすることもあります。
CDAは地域ごとに違う環境・条件のなかで協同組合を支援する役割をもっているのです。
…続…
なお当日の通訳は原陽一 (立命館大学教授)、
ラウラ・ぺーシェ (大阪外国語大学外国人講師)
の両氏にお願いした。 また誌面の制約等で大胆な絞り込みと要約、
必要な加筆を余儀なくされたが、 その点ご容赦願いたい。