1998年6月号
特集2


座談会 いまくらしにおこっていること
複々線で生きようよ
生協はあてがいぶちでない生活文化の創造をサポートできるか


くらしと協同の研究所では、 設立当初より 「くらしの研究」 が大きな課題になっていながら、 なかなか取り組めていない。 一方、 生活協同組合も業績不振が続き、 新たな地平を模索しているところが多い。 真に生活の協同が実現するのか、 いま大きな曲がり角であろう。
"くらし"の現局面をきりとり、 そのなかからどのような生活様式をつくりあげるべきなのか、 座談会を開催した。 参加者は兼田祐子さん (朱い実保育園=職員の運動から生まれた京都大学構内にある保育園の栄養士)、 藤井千秋さん (京都生協くらしと家計活動委員)、 田中恒子さん (大阪教育大学教授・くらしと協同の研究所研究委員) の3人、 司会は浜岡政好さん (佛教大学教授・くらしと協同の研究所研究委員会幹事) である。 "食"と"お金"というくらしのべースになるところで、 大きな地殻変動が起こっていること、 それに対して人間関係の"やせ細り"が話し合われた。


浜岡政好
今日はくらしのなかで起こっていることを出しあい、 その背後にあるものを考えていきたいと思います。 自己紹介からお願いします。

兼田祐子

私は栄養士です。 朱い実保育園で18年くらい給食の仕事をしながら、 3人の子育てをしました。 いま一息ついたところです。 保育園の仕事が非常に楽しい。

藤井千秋

京都生協のくらしと家計活動委員会の委員をしています。 小学校3年生を頭に子どもが4人います。 最初の子どもを産んだ後、 3年間の育児休業の間にポンポンと産んで復帰するつもりが、 バブルがはじけて、 お母さん社員は要らないといわれ、 退職しました。 専業主婦です。 2年前ホームヘルパーの資格を取りました。 5月からパートで農家の手伝いをします。

田中恒子

大阪教育大学で家庭科教育学を担当しています。 もともとは住居学です。 大学教育をつくること、 授業実践を創造することに相当な気概を持っています。

子どもの力といっしょに、 「コンビニが母親」 という世代の親業を支援します
浜岡
コンビニが冷蔵庫替わりどころか、 「コンビニは母親です」 という学生が最近いますが、 そんな世代が子育てに直面してどんな問題を抱えていますか。

兼田

朝なにも食べてこない子はほとんどいませんが、 ミックスジュースだけとか、 お菓子を食べてくるということもあるようです。 朝しっかり食べてこないと、 ボーとしていたり、 1、 2歳児だとイライラしてまわりの子にかみつくこともあります。 親は食べさせなくてはならないことはわかっているので、 少しの努力でできることをアドバイスします。 夕食にお総菜を買っている家庭もかなりあるようです。 それに、 お茶を沸かさない家が増えました。 明日遠足だから水筒を持ってきてねと言うと、 水筒だけ持ってくる。 お茶は保育園で入れてもらえると思っている。
離乳食の時に親は初めて我が子に食をつくるわけです。 パンとコーヒーだった人たちに誰でもできて子どもにもいいという献立を教えたり、 親子で調理実習をして、 めげそうになった時に後押しします。 畑の収穫物と連動させて取り組んでいるクッキング保育は、 子どもはすごく好きで喜びます。 茄子をホットプレートで焼いて、 自分たちがつくったみそを塗って食べるとか、 餃子をつくるとか。 初めて子どもと一緒に餃子をつくりましたという親がいます。 子どもの力と一緒に保護者につなげていきたい。
生協の手作りみそセットはありがたい。 包丁を使わないので危なくないし、 発酵時間がものをおいしくするので、 4歳児のクラスで毎年やります。 大豆が水につけると膨れたり、 火にかけると柔らかくなることに驚く。 そして1年間おいたら、 子どもは年長クラスになっていて、 できたみそを野菜につけて食べる。 家にある野菜や残った餅などを持ってきて、 土鍋で炊いて食べる。 それはすごく楽しい活動です。

未来のために我慢するのはいやだと、 アリからキリギリスへの転換
浜岡
以前は欲しいものがあってもがまんしなさいという我慢路線でやってきましたが、 未来のために我慢するのはいやだというのは、 いまの子どもたちの特徴だといわれています。 総務庁の国民生活調査でも 「毎日の生活を充実することに力を入れる」 と 「将来に備えて準備する」 という二者択一があって、 85年まではアリ派がキリギリス派より多かった。 80年代後半から逆転して、 今はキリギリス派が53%、 アリ派は29%です。 いまの消費社会は我慢するなというメッセージをたえず送っている。 どんどん欲しがりなさい、 どんどん供給してあげますと。
しかし、 このところモノが売れていないのは、 景気が悪いだけでなく、 長期的なくらし方の視点など、 従来とは違う動きがあると思えます。 家計簿からみて、 いかがですか。

藤井

家計簿登録者は若い人がグンと増えていますが、 家計簿をつける目的がくらしを見つめるというより、 いかに出費を減らすかということで、 深刻です。
食費は何年も減り続けています。 それには個人の小遣いからの食費が増えて、 家計簿にあがってこないということもあります。 家族の外食も減っています。 去年教育費調べをしましたが、 幼児から教育にお金をかけていることがあらためてわかりました。
消費税が上がる前には駆け込み消費で、 家の修繕とか車など、 大きな消費がありました。 しかし、 いまはあまり買っていません。 さきが見えないという不安が大きく、 減税分もふわーと使うのではなく、 ちょっと踏みとどまる。 預けることすら迷っている。 将来のために我慢するとアリは報われたわけですが、 我慢していても報われないかもしれない。
浜岡
国民生活調査で 「不安を抱えている人」 は60%あって、 調査を始めて以来最高の数字です。 不安のなかで1番高いのが健康と老後の生活設計です。

お父さん、 できるじゃん! と、 4人目の出産入院中に、 子どもの信頼を得ました。
浜岡
消費社会をいかに賢く生きていくか。 その基礎をつくるのは小学校高学年の時期ですが、 子どもにていねいに関わっていたお母さんでも働きに出て、 子どもが何を考えているのか、 子どもの生活がどうなっているのか、 見えなくなり、 不安になるようです。

藤井

私の地域は分譲の4階建て住宅とテラス住宅がつながっていて、 そこが小学校区です。 公務員や先生が多く、 クラスの半分は保育所から来て、 学童保育に入ります。 母親が家にいること自体が不思議に思われる地域です。 若いお母さんがバリバリ働いているのに、 私は家にいていいのだろうかと焦ってしまう。

田中
お父さんたちが仕事人として企業にエネルギーを吸いとられていて、 創造性のない生き方をしていることにすごく疑問をもちます。 子育てのおもしろい時期に子どもと関わるべきです。 定年退職してから何かを始めるのはできっこない。 仕事、 家庭、 地域の活動、 社会的活動、 個人的趣味と、 いつも複々線で生きてこそ、 定年退職後に悠々の花が開く。 そういう女性は多いけど、 男性は仕事だけの人が多い。

藤井

4人目の出産のとき、 入院中は会社を休んでほしいと言って、 夫は1週間休みました。 「お父さん、 できるじゃん!」 というのが子どもの反応で、 お父さんのつくった何々はおいしかったと子どもの信頼を得ました。 お父さんが台所に立ってつくることが、 子どもには貴重な体験だった。 夫は会社が懐かしい、 会社に行っているほうが楽だと言いましたけど。

兼田

保育園では1人の父親として仕事から解放されて子どもを見られるので保育園にくるのが楽しい派と、 先生になにか言われるのじゃないかと思って車のなかで待っている派と、 両方あるようです。
最近どうやって子どもと遊んだらいいのかわからないお父さんが多い。 保育園でしているのは、 凧揚げとか、 新聞を引きちぎって部屋中を新聞の海にして、 そのなかでわあわあと騒ぎまくるとか、 節分の鬼の役や顔にドーランを塗ってハメハメハ大王になるとか。 子育ての時期だからそういうことが恥ずかしげもなくできるので、 声をかけてもらうのを待っている部分もあるのです。 この楽しい時期を今しかできないという形で引き出して、 一緒に楽しむチャンスをつくることが、 保育者に求められています。
家でも親子で遊ぶのがむずかしいようです。 どこかに連れていくことが遊ぶことで、 生活を共につくるということができない。 おすわりもできない7カ月ぐらいの子どもにもビデオを見せたりしている。

人に迷惑をかけても自分の生活を見せる何を買ったかわかるから、 共同購入しない
浜岡

子育てが 「孤立して育てる」 とか、 「個食」 と同じように 「個育て」 ともいわれる。 ネットワークの必要性が高まっていますが、 働いている母親が多く、 家にいる人が少数派だと接点がつくりにくい。

田中
私は子育ての時期、 家を開放して子どもがいっぱい遊びにきました。 地域の親からも信頼され、 感謝され、 でもいちばん楽しかったのは私です。 自分の子ども1人を親子で1対1で見つめているという、 息詰まるような密室保育に、 お母さんたちは疲れている。 もっと開かれた関係をつくらないといけない。
ほんとうの豊かさは人間が発達し続けることです。 だから地域で大人が育ち合う楽しさをつくっていくことです。 人との関わりが楽しかった、 自分がもっている可能性を開いて楽しかったといえる生き方を追求できるようになったら、 ほんとうの意味での成熟社会だと思うのです。

藤井

共同購入はネットワークの源になりやすかったし、 年配の人からくらしや地域の情報を得たりして、 井戸端してました。 今は1人減り、 2人減りで、 すごくやりにくい。 配達の時にいるのが面倒くさい、 車を走らせて買いに行くという人が多くなった。 家にいても、 幼児がいても、 昼寝をしていても、 共同購入には参加しない。 仕分け表に載っていて読み上げるので、 何を買ったかわかるからいやだと若い人はいう。 人とのつながりに飢えているというのはない。

田中
私は仕事で共同購入を受け取れない日は、 鍵を預けて冷蔵庫に入れてもらっているんです。 班の人に冷蔵庫の中を全部見られるわけです。 そういうのは耐えられないと、 みなさん言われる。 1週間の食生活が共同購入にかかっているから、 受け取れない日に注文しないより、 生活を見せるほうがいい。
以前PTAをしていたころ、 「どんな子どもに育てたいか」 で一番多かったのが 「迷惑をかけない子」 だというので、 すごいショックを受けました。 私は自分が迷惑をかけているので、 他の人が困ったときに私に頼みやすい。 そういう関係がすごく楽です。

浜岡

赤ちゃんからお年寄りまで基本的に迷惑をかけないということが非常に強まっている。 お年寄りが痴呆になると迷惑をかける存在だから、 なかなか自分を肯定できない。 他との関係性がつくれない。 迷惑をかける存在として肯定したうえで、 共同関係をどうつくるかが、 非常に重要な課題だと思います。

今日つくったお弁当は今日のお弁当であって、 今日しかつくれない。 明日には代替性はない。
浜岡
今生活が非常に忙しいことは事実で、 そのため素材から調理するのはたいへんだと、 加工度の高いものに替えていく。 加工度の高いものができると、 余裕の時間がまた忙しさを増幅させる。 毎日の生活を楽しみ、 ゆっくり家事をする時間があるような、 豊かな生活に変えていくにはどうするかですね。

田中
家事は創造活動で、 生協はそのサポーターだと思っているから、 未だに生協にこだわっています。 けれど、 やれ買え、 それ買え、 たくさん買えというカタログを見ると、 やっぱりムッとくる。 私たちは単なる利用者なのかと。 組合員一人ひとりの生活の豊かさに関わっていない。 文化の創造の主体としての生協になっていないと思える。

藤井

若い人は生協をお店の1つとしか考えていない。 そのわりにはやたらに御託を並べる。 ただ売ってくれればいいのに、 いちいちなにか言う。 店が真面目やね、 売場が真面目で遊びがないねって言うんです。 離乳食の時期は気になるので、 無農薬の自然食品店より安いし、 そこそこ安全だと利用する。 アレルギーがないかぎり、 生協が信頼できるとは思っている。

兼田
今保育園で問題になっているのは紙オムツです。 おしりを拭くのはウェットティッシュなのできれいに取れない。 うんちのオムツを洗った経験がないから汚くて洗えない。 紙オムツは水分を吸ってしまうから下痢がわからない。 オムツを替える回数が非常に少ないのでおしりが荒れている。 布の貸しオムツもそのままポイと出してうんちを見ない。 布オムツにするより、 その間子どもに関わったほうがいいという選択をしているようです。
生協で紙オムツが出ていますが、 資源の問題をどう考えているのかなと思います。

浜岡

生活文化をつくるという点で、 生協が十分に担いきれていないので、 批判が鋭く出てくる。 本来生協は生活を楽しむということを位置づけようとしたと思うんだけど、 忙しさと加工食品との悪循環をもう少し違う方向に動かすことができないのか。 いまのままだと、 無限にスーパーと同じようになる。 生活を豊かにするための共通した課題を、 生協がいかに創造的にできるか。 あてがいぶちでない、 自分でつくる生活、 それを生協は支援してほしい。

田中
家事の社会的評価をあげることだと思うんです。 生活は創造活動だから、 家事は毎日同じことの繰り返しで退屈だとは、 私は思っていません。 今日つくったお弁当は今日のお弁当であって、 今日しかつくれない。 今日つくった文化、 これは明日ではもう代替性がない。
炊きたての豆ご飯のおいしさは、 なにものにも替えられない。 だけど忙しいからお金で処理したら簡単だと、 豆ご飯を外食で食べられる賃金をくれという要求になる。 豊かさを保障するのは賃上げだけかと、 労働組合に対していつも問題提起してきた。
私は住宅の研究者ですから、 家庭生活を豊かに築けるような住宅事情にしたいと思っています。 みんなにもっともっと住宅要求運動をして欲しい、 政府に対して怒って欲しいと思う。 ズルズルとこのままいくのか、 ちょっと踏ん張ろうよ、 私たちの文化をつくろうよ、 あてがいぶちだけで生きるのではなく、 私らしさのくらしをつくろうよと、 言いたい。
生協運動も始めた人たちはすごいロマンがあったと思うのです。 もう一度ロマンのある運動に生協はなれないのか、 なれるはずだと思うから関わっているのです。 生協が呼びかけて、 生活様式を議論にのせることが求められていると思います。

浜岡
今日はお忙しいところ、 ありがとうございました。




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