1998年6月号
特集1



座談会 地域経済の視点から地域をみる
想像をこえる京都市の凋落と農山漁村の厳しさ


いま、 地域はどうなっているのだろうか。 仕事が減り、 人が減った、 活気がない、 モノが売れない、 閉められた店が目につく……。 地方にくらす人間にとって、 いまはマイナス面ばかりが目につくが、 分権化のすすまない状況では、 自らの主体的な力で、 それがどこまで再生できるのだろうか。
今月の特集は、 「地域経済の視点から地域をみる」 というテーマで座談会を開催した。 参加者は発言順に岡田知弘さん (京都大学教授) 、 二場邦彦さん (立命館大学教授・くらしと協同の研究所理事) 、 福田善乙さん (高知短期大学学長代理・くらしと協同の研究所研究委員) の3人、 司会は若林靖永さん (京都大学助教授・くらしと協同の研究所研究委員会幹事) である。
高知県の、 とくに農山漁村地域の厳しさと、 京都市の想像を超える凋落を含む京都府の実態が出された。


若林靖永
今日は 「地域経済の視点から地域をみる」 というテーマで、 最も身近な京都と、 農山漁村地域の高知をとりあげて、 その現状と再生の条件を、 できれば協同組合の役割もふくめて考えてみたい。

丹後の織物業は5年間で5軒に1軒が廃業する、 すさまじい減り方をしている
岡田知弘
京都府は全国で最悪の経済状態である。 91年と96年を比較すると事業所数は兵庫県についで減少率が大きく、 従業者数は辛うじてプラスだが全国最低の伸び率だ。 農家数は9.4%の減少で、 これは高度経済成長期の減少率を上回っている。
なかでもおちこんでいるのは京都市と最北部の丹後地域だ。 京都市は卸小売業と製造業の減少が大きい。 政令指定都市で事業所数も従業者数も減っているのは京都市だけ、 しかも落ち込み方が激しい。 京都市の製造業は和装の繊維産業に特化し、 中小零細が多い。 70年代のオイルショックのときに落ちて、 さらに80年代半ばと90年代に入ってと2回急角度に落ち込んだ。 繊維産業の落ち込みが京都府内の商業、 卸関係、 さらには祇園の飲み屋街の冷え込みなどにも波及している。 もうひとつの落ち込みの理由は、 バブル期に地価上昇率が日本一になり、 87年に京都市の急激な人口減少がおこり、 人口減と高齢化が進行した。 新生産緑地法の施行で高付加価値型の野菜農家も11.6%減少している。
丹後地域は事業所数の減少のほとんどが製造業、 とりわけ織物業で、 減少率は20%、 5軒に1軒が5年間に廃業するという、 すさまじい減り方である。 もうひとつの基幹産業は稲作だが、 コメの自由化などで農家数が10.2%減少している。 基盤になる2つの産業がやられ、 リゾート開発が失敗、 新しい産業と期待された金属機械もふるわず、 結果として丹後の人口は3.2%減少し、 地域経済が人口を支える力をなくしてしまっている。

二場邦彦
いま地域の製造業はグローバル化という言葉で表現されるように、 これまでにない新しい段階に入っている。 ひとつはアジア等の発展途上国から入ってくる低価格商品との競争があり、 一方、 品質の高い製品をつくっていた産地は先進資本主義国の製品との競争がある。
下請け産地的な性格をもっていた地場産業や伝統産業は技術もあり、 設備もあるが、 市場と接触しながら現代的な商品をつくっていく力がない。 伝統産業全体に共通するが、 デザインは全部問屋まかせで、 技術を使って生産のみ担当する意識が非常に強い。
また、 親企業の海外移転と結びついて整理されたり、 解体とすらいえる状況もある。
京都の和装産業は友禅が1971年ころ、 西陣が1977年ころがピークである。 京都府も京都市も繊維産業の比重が非常に高い。 グローバル化と結びついた影響と国内需要の停滞で、 ダメージを受けてきた。

若林
他に強い産地が登場したからではなく、 あるグループが商社化戦略をとることで、 他の企業が潰れた。 非常に少ないパイの取り合いをやって自滅しているのが、 いまの西陣の実態ですか。

岡田

仏壇も最初は部品を中国からいれて、 組立工程は日本でやっていたが、 そのうち全部ベトナムで生産するようになった。 商社機能だけに純化して、 仏壇のまちが崩れている。

若林
家具も低価格帯の商品は仕様書発注と技術指導で、
タイやマレーシアで日本製の和家具をつくっている。 自分で自分の首を絞めているような気がするが、 日本の中小製造業者が商社化している。

二場

イタリアの企業は絹製品を中国に技術指導してつくっているが、 最高級品は国内生産である。 いずれそれは日本に入ってくる。 グローバル化を受け身に受けとめると、 結局競争力が衰退する。

若林

デザインが大切で、 生産はもう海外という地域経済のビジョンでいいのだろうか。

岡田

高付加価値をもった商品をデザイナーが考えても、 それをつくれるかどうかは別問題だ。 デザイン機能と生産機能が同じ空間のなかでたえず更新されていくシステムが必要である。 良質な商品を生産する力とマーケティング力が必要で、 中小企業の多い産地ではマーケティング機能を自治体が代替しているところもある。

新しい食品スーパーや大型総合スーパーができたら、 高齢者も利用する
岡田
小売商店を89年~94年で比較すると、 京都市は従業員4人以下のところで全国よりも大きな減少率になり、 5人以上のところでは全国よりも低い伸び率である。 京都市議会が81年に大型店の立地凍結を宣言したので、 10年間空白地帯だった。 コンビニの密度が最も高いのは、 学生と高齢者が多いのと大店法規制にかからない法人がコンビニ形態で入ったためだ。

若林
京都市の消費者は生鮮食品でさえ、 地域小売商業の利用は16.1%しかない。 とくに20代は極端に少なく7%、 年代とともに増えて60代は30%となる。 消費者は地域小売店の商品の種類の少なさや価格などに厳しい評価をしている。 周辺に新しい食品スーパーや大型総合スーパーができると移行すると答えている人が多く、 これは年齢の差もない。
地域の商店街はその地域にねざしているので、 地域の助け合いコミュニティを再建させる担い手になるが、 消費者がこれだけ不満をもっているなら、 商売としてそれに応えなければ潰れても仕方がない。 まちづくりの取り組みとともに、 商店街の個々の店が消費者に役立つような事業を展開すべきであろう。

高知県は過去ずっと地域際収支が赤字、 その幅も大きくなっており、 経済力が落ちている
福田善乙
高知県を素材に農山漁村地域の問題を考えてみたい。 高知県は53市町村中46市町村が人口減少し、 高齢化もすすみ、 世代交替ができない事態がある。 1990年に全国で最初に社会減に加えて自然減になった。 人口増加の要因が全くなく、 人口の絶対的減少の時代をむかえている。 人口減から集落の消滅、 さらに自治体の消滅となる。 1960年から30年間に37集落が消滅した。
1970年代に高冷野菜など平野部と山間部の温度差を利用した新しい作物に取り組み、 人口増加をした農山村地域もあるが、 農産物の自由化で軒並みだめになった。 農産物生産高のピークが83年で、 その時期から建設業への移行がすすみ、 総生産のうち建設業が第1位という地域が53市町村中29市町村ある。 農山漁村地域の産業の主体が建設業ということである。

岡田
新卒労働市場や人口の年齢構成の変化もある。 都市の吸引力がおちたので若者は地方にとどまらざるを得ないことと、 高齢者のリタイアもある。 年金プラス農業の専業農家が最近増えている。

福田

産業連関表に基づく地域際収支からみると、 高知県は毎年赤字、 マイナスの幅も大きくなっており (90年は5730億円の赤字)、 経済力が落ちてきている。 赤字のほとんどは第2次産業、 そのうち食料品が890億円の赤字だが、 徳島県、 愛媛県、 香川県はいずれも黒字ということから、 高知県の産業政策を見直さなければならない。 経済活動の赤字部分は地方交付税などの公的資金で賄っている。 財政移転収支だけで3200億円くらいのプラスである。 このプラス部分は第1次産業の育成に生かしていくべきだ。 第1次産業が1000億円くらいの黒字で、 これは維持していかないと農山村地域がもたない。 それでも自給率は80%を割っている。 高知は生ものが新鮮で、 それを特徴としてきたが、 それだけではもたない。 加工品を中心に地域内循環を増やしていくべきだ。 高知市は第3次産業の商業部門が黒字だが、 この商業機能を生かした産業政策をたてるべきだ。

若林

財政移転収支の多くは公共事業に流れて、 建築土木の一部はまたゼネコンにとられるという関係だから、 財政移転収支の黒字分はもっとマイナスに評価しないといけない。

岡田

京都では町レベルの地方単独事業にも大手ゼネコンが入ってきて、 上請けをふくめて仕事をもっていき、 地元ではなかなか収益があがっていかない。

福田

県や市町村レベルの小規模の事業は地域の建設業が受注している。 大きい事業は大手のゼネコンだが、 実際にやるのは下請けで、 結局地域の小さい建設業になる。

岡田

産業連関表がむずかしいのは、 建築土木の場合は地元発注ということにして、 ゼロと算出するが、 実際はゼネコンが入ってとってしまう。 建設関係は政治生命だから、 そういうデータは入手が困難だ。

若林

農山村では建設業関係が公共投資と結びついて大きな役割を示している。 健全であるかどうかは別にして、 この現実を基に地域経済のありようを考えなければならない。

二場

県際収支で出入りの相手先がわかると、 地域と地域との結びつきがわかり、 具体的に政策が考え易い。

岡田
企業で原材料調査をして、 販売先の地域別のデータを引き出そうとしてもまず出ない。 しかも、 卸を介在したら生産点と最終消費県の流れがそこでわからなくなってしまう。
この点、 生協は事業所ごとに、 どれだけ地域貢献しているかというデータがつくれるかもしれない。

若林

経済活動を通して地域社会への貢献というデータが総代会の議案書に載るといいですね。

福田

地域際収支はモノとサービスの流れだけでなく、 人の流れを入れたらいいと思っている。 高校や大学を卒業すると県外の大都市にでるが、 それは農山漁村地域で育成したもので、 投下した資金を全部大都市へもっていく。 「人の地域際収支」 を入れて地域のあり方を考えていかねばならない。

製造業の再生には付加価値をつけることを考えていける企業家性が必要
二場
製造業の再生について3つ指摘したい。 1つは、 マーケットとの交流を通じて川下からの発想を肌身で受けとめる必要がある。 もう1つは付加価値をつけることを考えていける企業家性である。 企業家的発想をもつには異業種交流が効果的である。 3つ目は地域にある知識や技術を地域の企業家が自由に利用できるような形に行政が整備することである。

福田
地場産業や伝統産業は単に守らなければならないではなく、 その産業がもっている意味やなんのための技術かを明確にする必要がある。 本来もっている人間の機能を回復する産業だと位置づけて、 高知は打刃物産業を育成している。

二場

革新的中小企業というが、 イノバティブな精神をもって、 常に自分の企業を変えている企業、 そういう中小企業が製造業でも小売業でも増えてきている。 それを企業家精神といっている。

岡田

丹後では農業と機業が家族形態で結合していたが、 国際化のなかでずたずたになっている。 技術や仕事、 マーケットを客観的にとらえ、 協同組合も行政も入って地域の再建をしなければならない。 地域の実態をとらえ直し、 企業家の育成をしていくべきだ。
京都の下町にある西新道商店街は情報技術を使って消費者の意向を把握し、 定住人口を確保することで商店街は生き残るととらえ、 高品質のものを扱うことで、 スーパーライフとの競争に健闘している。

福田
高知のある商店街は、 農協の直販店に商品がくるときに賑わうことに学んで、 歯抜けになった店に山間部の農協による直販店を開いた。 商店街は活性化し、 農家にとっても所得の拡大になった。 都市のモノと山間部の高齢者がつくったモノを循環させることによって、 山間部の生産、 生活、 所得の再生産をし、 都市部も伸ばしていく相互関係ができた。

若林

コウズマーケティングというのは、 商品を購入することが社会貢献だというビジネスである。 単なる経済的な交換だけでない判断を入れた消費を、 それぞれの地域でつくりあげていくことができれば、 仕事おこしが可能になる。

岡田

消費者は生産者でもあることを忘れてはいけない。 生産者という機能を消失すれば所得もなくなってしまう危険性がある。 ここを消費者運動で広げてほしい。 生産者と消費者の協同を意識的に追求しなければならない。 それは都市と農村との関係でもある。 国際的にはフェアトレード運動にも広がっていく。

二場

地域住民が議論して、 こういうまちにしたいと一致した決議ができれば、 市はそれを尊重して都市計画をつくらなければならない。

岡田

住民がプランニングする際のアドバイザーが日本にはいない。 アメリカはNPO組織が力をもっていて、 支援もする。 日本は住民が知恵も力もない状態である。

二場
アメリカの場合、 地域の中小企業家や弁護士など専門的な職業の人が集まってNPO組織をつくり、 行政も外からそれを支援しながら、 長期計画的な展望でまちづくりの事業をすすめている。

若林

地域の問題を解決する場合、 農山村では顔の見える関係があるが、 都市部でも同じような問題は存在している。 行政や地域の共同体など、 いろんな組織が協力してNPOレベルの取り組みのなかで、 実際の地域の生活が支えられていくというなかに、 協同組合の役割を再発見することができるだろう。

福田
地域の再生には人が大事だ。 いま人そのものがこわされていて、 人そのものをつくらなければならない。 どういう人をどのように育てるかが問われている。

若林

今日は長時間ありがとうございました。




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