1998年6月号
書評2

研究年報
『協同組合 新たな胎動』


このところマスコミをにぎわす生協のニュースは、 否定的なものばかりが目立つようである。 生協をとりあげるマスコミの論調は、 生協の経営危機を一時的なものとはみておらず、 いずれも生協の社会的役割は終わったのか、 という根源的な問いを投げかけるものとなっている。 我々もまた、 生協の経営危機、 停滞はこの30年間にわたった生協の発展のひとつの時代の終焉を意味するという問題意識を、 一貫して提起してきた。 協同組合アイデンティティーの再構築と生協再生の条件の探究は、 この研究所の設立以来の課題であるともいえる。
(中略)
協同組合の原点からの再生の取り組みは、 こうした理論レベルでおこなわれているだけではない。 日本で、 世界の各地で、 さまざまな貴重な取り組みが展開されている。 その最も重要なもののひとつが、 コープこうべの阪神淡路大震災の救援復興と、 それ以来の"創造的復興"の取り組みであろう。 くらしと協同の研究所のこの2年間の中心的なプロジェクトは、 コープこうべのこの取り組みの、 ほぼ同時進行的な調査と分析の活動であった。 それはすでに2冊の報告書、 『被災地に生協あり――壊れたまちで、 人が、 協同が、 試された』 『生協 再生への挑戦――コープこうべの 「創造的復興」 から、 学ぶべきものはなにか』 として、 世に問う形になっている。
本年報は、 その他の研究成果を所収している。 本書が、 進められている生協の理念の構築の論議に役立つことを願うものである。
(川口清史編集長の巻頭言より抜粋)

研究年報  『協同組合 新たな胎動』
川口清史編 法律文化社 3600円


〈内容紹介〉
論文 Ⅰ 参加型地域福祉と生協
◆地域福祉の推進と生協の位置
藤井 伸生
◆生協運動の発展と福祉活動
川口 清史
◆障害者福祉と生活協同組合
上掛 利博

論文 Ⅱ ヨーロッパにおけるくらしと協同
◆ノルウェーのくらしと福祉
――個人の 「人生の質」 の豊かさを考える  上掛 利博
◆コーポラティズム型農協の構造再編
――スウェーデン農協における国家統合型から市場志向型への再編
田中 秀樹
◆イタリアの高齢者介護と社会的協同組合  川口 清史

論文 Ⅲ アジアの地域社会と協同組合
――連続講座
◆アジアの地域社会における諸問題
――永続可能な発展の視点から
中村 尚司
◆アジアのなかの日本
――地域からの経済的自立の戦略
モンテ・カセム
◆農村の社会発展と協同組合
――バングラデシュの事例から
安藤 和雄
◆日本企業の海外進出
――フィリピンの事例から
森澤 恵子
調査報告 美山町の新たな女性たち
――高度成長と農村女性
庄司 俊作




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