1998年6月号
人モノ地域


環境ホルモン Q&A
化学物質の海をさまようくらし

レイチェルカーソン協会  原  強 


環境ホルモンとはなんですか。 なぜそういわれるのですか
環境ホルモンとは、 本来の働きからいえば 「外因性内分泌撹乱化学物質」 という言い方ができます。 これは環境庁のリスク対策検討会特別研究班の中間報告書で使われたものです。 つまり、 外因性というように本来生体のなかでは分泌されることのないもので、 環境からとりいれる、 そしてホルモンのような働きをして内分泌機能を撹乱させる、 こういう働きをする合成化学物質です。
ホルモンは神経などとともに、 生体のなかで必要な情報を伝達することにより、 生体が正常な状態を保持することができるように機能しています。 その種類はさまざまで、 脳下垂体、 甲状腺、 すい臓、 副腎、 精巣、 卵巣などの内分泌器官から分泌され、 そのホルモンのもつ情報が伝達されるべき細胞に正確に伝達されることにより、 生体のバランスが保たれ、 正常に機能していくのです。
環境ホルモンは生体のなかで分泌されるホルモンとはまったく異なるものであるにもかかわらず、 それに似た働きをすることにより、 さまざまな影響を及ぼしているとみられます。

環境ホルモンの影響はどのようなものですか
環境ホルモンは、 生物にとってきわめて重要な性や生殖に関わるホルモンの働きを撹乱するといわれています。
繁殖できないミンク、 メス同士でペアリングしているカモメ、 生殖能力を失ったワニなど、 野生生物の調査研究から数多くの事例があることが、 『奪われし未来』 で紹介されています。
人間は妊娠6週目ごろ、 性が分化するといわれていますが、 この時期に女性ホルモンのような働きをする環境ホルモンの影響をうけると、 男性が女性化するということがあります。 最近のショッキングなニュースでは、 成人男子の精子数がこの数十年間に半減というくらい、 減少傾向が顕著だということです。 また、 生殖器異常や生殖器のガンも目立ち始めているとのことです。
環境ホルモンは免疫や神経などにも撹乱作用をもつという情報もあります。

環境ホルモンにはどんなものがありますか
環境庁が特定したものは、 ダイオキシンやPCBなど67種類です。 さらに300の化学物質を調査するとしています。 世界的には1万5千種類の化学物質を早急に調査する必要があるとされています。 私たちは 「化学物質の海をさまよう」 ようなくらしをしています。 農薬・殺虫剤、 塗料、 プラスチック製品、 合成洗剤、 医薬品、 各種重金属など、 いやでも環境ホルモンの影響を受けることになっています。
ポリカーボネート食器や哺乳ビンからビスフェノールAが溶出しているということが、 最近報じられました。 虫歯の充填剤からもビスフェノールAが検出されました。 カップ麺の容器からスチレンが溶出しているというニュースもありました。 合成洗剤の界面活性剤はノニルフェノールになるとの指摘もあります。 塩化ビニール系のラップも問題です。 ベトナムの枯葉剤散布、 セベソでの事故など、 ダイオキシンは不幸なできごとを通じて知られていますが、 最近はゴミ焼却施設が大きな社会問題になっています。
便利さをもとめて大量の化学物質を生産し、 使用し、 排出してきた私たちのくらしのあり方そのものを、 問題にしなければならないでしょう。

どのような対策が必要でしょうか
まず第1に、 環境ホルモンについての調査・研究体制を、 おおいそぎで整備することが必要です。 欧米に比べると、 日本は残念ながら10年は遅れています。 いまの情報はほとんどが外国で確かめられた情報です。 わが国でも各分野の研究者が協力して情報収集・分析にあたってほしいし、 研究予算も必要です。
第2に、 安全基準の考え方を見直すことです。 ダイオキシンの例をとっても、 これまでの公害問題などとはちがって、 ppmからppb、 さらにpptというように単位が小さくなっています。 これまでの安全基準の1000分の1、 さらにその1000分の1のレベルでの議論が必要です。 そして、 成人の基準ではなく、 胎児の安全を守る基準でなければならないということも、 国際的な認識になりはじめています。 環境ホルモンは微量でも生体のホルモン作用を撹乱させる可能性があるので、 これまでの安全基準の考え方では通用しません。
第3に、 化学物質の生産・使用・排出についての管理・規制を強めることがどうしても必要です。 OECD (経済協力開発機構) はPRTR (環境汚染物質排出・移動登録) の採用を加盟国に勧告しています。 UNEP (国連環境計画) ではPOPs (残留性有機汚染物質) 規制のための国際交渉会議を6月に開催する予定です。
化学物質の管理・規制のための国際的なとりくみが始まりつつあるのです。 わが国でも、 こうした動きに対応した取り組みが必要でしょう。

私たちにできることはありますか
まず環境ホルモンについて関心をもち、 正しい情報を分かち合うことです。 マスコミなどの報道を通じて関心が高まりつつありますが、 専門家の協力で、 学習会などを通じて、 より正しい情報を手に入れ、 分かち合う努力をすることが必要です。
そして、 「疑わしきは使用せず」 という姿勢で、 身のまわりのプラスチック製品をはじめとする化学物質などを見直し、 くらしをつくりかえることが必要です。 これから子どもをもとうとする人、 現在妊娠している人は 「自己防衛」 しなければなりません。
しかし、 一人ひとりの努力には限界があります。 問題の解決のために力をあわせ、 「わかったことをふまえ、 化学汚染物質の心配なく子どもが生まれてくることができる将来をつくるために、 長い闘いを始めなければならない」 (ダイアン・ダマノスキ) のです。




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