1998年6月号
書評1

示唆に富む、 生協 「企業化」 の分析

立命館大学名誉教授                 
くらしと協同の研究所職員論研究会  藤原 壮介   


『90年代の生協改革
――コープかながわ・コープしずおかの葛藤』
CRI・生協労働研究会編
日本経済評論社、 1997年、 2400円



相次ぐ生協の不祥事について、 トップの初めからの資質が問題というのではなく、 根元は経営が悪化するにつれて経営倫理を失墜させていったことにあると指摘され、 「経営の大事さ」 をしっかり勉強すべきことが教訓とされています (くらしと協同の研究所報告書、 通巻第9号 『アイデンティティ・クライラスと生協再生の条件』 )。
生協活動における経営の大事さについては、 くり返し述べても過ぎることはないでしょう。 ところで生協で 「経営」 というとき、 その基本は何か、 哲学は? 具体的にどんな問題が岐路になるのか。 1995年の総代会を契機にしたコープかながわのトップ交代とその後の方向を分析した本書は、 こうした問題についてきわめて重要な、 示唆に富む内容をぎっしりと詰め込んでいます。
書名に 『90年代の生協改革』 とあるように、 コープかながわの経験は 「企業化」 した生協経営からの改革に取り組んでいる全国の生協にとって、 典型としてある問題ではないか、 90年代生協改革の新地平はいかなるものかと、 きわめて意欲的に取り組み、 展開をみせています。
大きな問題に真正面から取り組んだ労作ですから、 本書はけっして読み易い本ではありません。 しかし、 生協関係者であれば自分でも考えたり、 悩んだりした点が扱われていて、 興味深く、 わりとスムーズに読み進んでいけるのではないかとも思います。
第1章は、 スーパーのチェーンストア理論にたって展開された80年代初期以来の生協大型化を 「企業化」 戦略と名づけ、 事業の形態転換、 大型化、 事業連合の運営等を、 事業上の大型志向の反面で、 生協内部で方向性の問題として吟味してこなかった民主性の失敗という点から検討しています。
第2章は、 コープかながわ総代会に示された事態の根源を、 10年間の歴史にそって具体的に分析した部分で、 問題の背景は 「組合員主体」 からの変化にあると指摘しています。
続いて労働組合が取り組んだ提言、 職場の問題点と改革方向についての文書が紹介され、 生協労働の危機 (アイデンティティ・クライシス) が、 民主的運営の形骸化と生協の社会的活動面の衰退をともなった労働改革を背景にしていることがヴィヴィッドに示されています。
第3章では経営の内実にさらに踏み込んで、 生協 「企業化」 の核心となるさまざまな論点がとりあげられています。
マネジメントの複雑化・専門化を背景にコンサルタント会社が作成した報告書をとりあげ、 組合員を 「顧客」 とする考え方、 方向性が、 いかに生協の基本的あり方と異なるかを述べています。
第4章では90年代の生協が共通に直面している課題とジレンマが、 生協の新しい力を育てていると論じます。
くらしのなかにある経済問題、 日本経済全体の改革の必要性、 厳しい経営環境は主体の戦略により違った結果をもたらす、 等の指摘は、 この本の基本的視点を語っています。
この本を読むと、 改革された現場はどう変わり、 組合員はどう感じているだろうかと、 関心がわいてきます。 くらしと協同の研究所報告書、 通巻14号 『生協店長論』 の店長報告は、 その一端を知る助けになるように思います。



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