『協う』2010年4月号 特集4

「協う」 場としての商店街と 「商店街再生を考える」

 

岩澤 孝雄 (元関東学院大教授・商店街学会会長)

 

 筆者は1970年以来「商店街活性化」問題と関わってきた。当時の『商店街実態調査報告書1)』では「繁栄してる」商店街は40%弱あったが、2006年度の同調査結果では「繁栄してる」は2%未満にまで低下した。
  「買物難民」は大型小売店や近隣商店街の撤退・閉店に伴って発生しているが、では「商店街を維持・進化させる」には何を考えるべきか、これを検討する過程で「買物難民問題」も合わせて考えることにしたい。
  2004年にはじめた筆者のブログ「商店街再生を考える」(http://wave.ap.teacup.com/takao/)でも、この「商店街の衰退」の原因をいろいろ検討してきたが2)、最近では、地域での人々の "つながり3)"関係の希薄化や商店街が核となるべき「コミュニティ」の崩壊が基本的ファクターだと思うに至っている。そして「買物難民」は「コミュニティ再生」で対応するのが一つだと考えている。
上記の『商店街実態調査報告書』では、商店街にある自分の「店舗」に"住んでない"「店主」が多数派であり、だから「住人ニーズ」に共感・対応しきれてないことも、商店街の衰退を加速しているのだろう。店主の"コミュニティ意識4)"の欠落である。
「コミュニティ」の再構築ー工業化社会の都市から"コンパクトシティ"へー
  都市と商店街との関係で理解すると、わが国の戦後の急速な都市化は工業化への進展と軌を一つにするものだった。 "住人"(=消費者)が都市地域に多数住みつき、それが大型小売業の成長基盤になったし、同時に商店街の質・量を成長させたが、現在では人口減少なども加わって「衰退」が、いずれ「買物難民」の発生も加速するだろう。

(1)大型小売業の限界ー地域の"つながり"への貢献
  "高度成長の波"を乗り切ったのが「スーパー(SM)」(現在の「セブン&アイ」や「イオン」など創業期)だったが、それが成長の限界に直面しているのが近年の状況である。
  一方多くの住人(消費者)にとって、「住まい」は寝るために帰る場所、世帯は核家族化、ご近所の付き合いも「ご挨拶」程度で、人々の地域での "つながり(関係)"は希薄化したのも高度成長だった。
  そして、商店街を衰退させた大型小売業のほとんどが "セルフサービス"小売業だったから、買物で会話は不要、単身世帯は「会話なし」の暮らしが常態化しつつあるのが現状だろう。今後出てくるのは店舗無人化(サイレントコマース:無人POS)だが、これも実験段階に入っているようだ。会話不要が近未来型大型店だろう。だから、対面販売型の商店街が一つの方向だと考えている。

(2)コンパクトシティの住人ニーズはー"高齢者・子育て"支援、環境維持ー
2005年に初めて人口減少に直面し、55年頃までは「減少」と「少子高齢化」が並行することも "確実"。こうした人口動態を背景に出てきたのが「コンパクトシティ構想5)」(都市の賢い縮小)だった。
人口減少は、膨張した市街地では空き地・空き家・空き店舗を増やし、これが「買物難民」の発生源になる。だからコンパクトシティは市街地面積を縮小し、公共交通を核にした「徒歩・自転車」生活圏に、多世代を集約した「暮らしの場」を再構築しようとするもので、その具体化が「改正街づくり三法(改正中心市街地活性化法、同都市計画法、大規模小売店舗法)」(08年完全施行)の“ねらい "とするところだった。
少子高齢「都市」の多数派住人は、当面は団塊世代の定年退職者、80%以上は元気だが地元の人的 "つながり"は希薄。こうした住人のニーズへの対応が「地域への貢献」6)だとすれば、元気な高齢者に「貢献の場」(溜り場)を提供するのも商店街の役割になるだろう(高齢者が提供するサービスとその受け手のマッチングが商店街の機能)。そこで「暇だから行ってみよう商店街」なる新しい商店街コンセプト(=脱"買物の場所")が、住人に受容されることになるのではなかろうか。これを事業機会にするのが商店街の工夫だ。例えば各種の「宅配サービス7)」や「食事・家事支援サービス」などであり、同時に「買物難民」対策にもなるが、商店街はここでも対応が遅れていると思う。

大型小売業との決定的差別化ーこれからの商店街の"進化"の方向ー
消費者調査による商店街のイメージは決して "買物場所"だけではなく、社会的文化的な「多様な来街動機」が集積していると言うものだが、商店街の小売業者は"商いの場"だと錯覚していることも衰退要因だったと思えてならない。"交流の場"と言う側面を見落としていたのが高度成長期の小売業者だった。

(1)そもそも小売業とは何かー「仕入れ」「販売」から「長期使用」支援ー
小売業とは日本標準産業分類では "「仕入」・「販売」(対消費者)業"だが、最近のPB商品やサービスを収益源にしている大型小売業の実態から、「仕入」を小売業の要件とすべきか疑問だ。では一般の小売業が大型小売業との「差別化」をどう考えるかである。
大型小売業が「大量販売」(高回転)を利益源にするなら、商店街は「長期使用8)」(お客さんが気に入った商品を大事に長く使う=3R9)中のリデュース)や地産地消(=地元生産資源活用、輸送距離=CO2の削減)が差別化の視点だろう。
消費者が "当面使わない商品(宅内在庫)の"他人使用10)"も商店街が「顧客間関係を密接化する」ことで実現し易いのではなかろうか(現実の商店街の対応は"遅れているが)。地元顧客との密接な「対面関係」をさまざまなコミュニティ活動の場(防犯・防災活動など)で回復すれば、顧客が保有するリユース可能な宅内在庫情報も把握できるし、暮らしを充実させるに必要な商品提案も可能になるだろう。

(2)そもそも商店街とは何かー"集積の経済性"志向の運営ー
商店街は「個店」の集積には違いないが、それ以上に「商店街(集積)」として消費者に認知されていることを重視すべきだ。そして「商店街」には「公共・公益施設」も多数集積して地元住人への来街動機を豊かにし、それが商店街の繁栄の大きな要因になっているが、当の事業者には、こうした「商店街は公共的空間」の意識が希薄な点も衰退の要因だろう。
「集積の経済性」とは商店街に立地する事業者が保有する「知識・ノウハウ・情報など」を持ち寄って新市場(事業)を、個店でやるよりも効率的に開発し、地元住人の暮らしにより一層貢献することである。高齢者の生活支援や子育て支援(いわゆる医療・福祉市場)や環境市場には、これからの成長商品・サービスの開発分野がある。
しかし商店街が「集積として」これらの分野に「起業(ないし支援)」した事例は極めて少数にすぎない。だから自店の都合で「廃業」し、「シャッター通り」化する悪循環が断ち切れない。「集積の経済性」を実現した「宅配サービス」で対住人関係を回復し、悪循環を断ち切る試みが「買物難民の発生」を防止するし、商店街の進化にもなるに違いない。
最近「個店街」なる言葉を“発明 "した。そして、「集積の経済性」を発揮する仕組みが商店街への進化の条件だと考えることにした。そうすれば「買い物難民」も回避できるのではないだろうか。

  
1)全国商店街振興組合連合会のホームページで参照できます。
2)郊外への大型店出店、魅力ある業種構成の欠如、商店街の後継者難など、
3)"つながり"関係は「ソーシャル・キャピタル」で検索すると、コミュニティ論に参考になる資料が発見できますので一度ご覧になってください。
4)顧客と「同じ地域に居住」することで、地域の「課題が共有」できる、これがコミュニティ意識だと社会学で定義している。
5)筆者ブログ「商店街再生を考える」をご参照ください。
6)平成16年版国民生活白書をご参照ください。
7)最近の大型小売業の"ネットスーパー"進出が気になるが。
8)顧客に代わって商品を探索し(高度な専門性)、販売後の長期維持・補修サービスの提供を利益源とするビジネスモデル。食品などなら安全・安心して繰り返し使用。
9)ReduceReuseRecycleの略。注文を受けて「お取り置き」はReduce、中古品やシェアリングはReuseに貢献できるが、ここでも商店街は遅れている。産直市(CO2削減や食品リサイクル)にも"遅れ"ているのが商店街だ。
10)シェアリングや個人リースも含めて考える