『協う』2010年4月号 特集2
都市部の住民の生活を支える
―共同購入を通じた支えあい―
加賀美 太記
(京都大学大学院経済学研究科後期博士課程・ 「協う」編集委員)
周知の通り、日本は先進国の中でも少子高齢化が極めて急速に進んでいる国である。社会構成員の変化、なかでも高齢者の増加は、買物という日々の購買行動において深刻な問題を生み出している。杉田(2008)1)が指摘するように、モータリゼーションの進行と大店法の撤廃を契機とした地方都市商店街の衰退は、自動車を利用できない高齢者層を中心にとして、日常の買物すらままならない買物難民と呼ぶべき人々を生み出した。しかし、問題は郊外に留まらない。消費者の実態を観察すると、店舗が多数存在しているはずの都市部においても買物難民となりかねない人々の姿が見えてくる。ここでは、このような都市部の高齢化にともなう購買時の諸問題の実態と、それに対応する生協の取り組みについて検討していこう。
都市部における高齢化の実情
2009年9月時点における京都市の65歳以上の人口は推計で約33万人、総人口に占める割合(高齢化率)は22.9%に達している2)。他の大都市と同様に高齢化が顕著に進んでいることが見て取れる3)。表1は2005年における京都市の高齢者がいる世帯の状況である。高齢夫婦世帯は57,488世帯(高齢者がいる世帯に占める割合は28.5%)、高齢単身世帯は60,714世帯(30.1%)となっている。なお、男性のみの高齢単身世帯は約15,000世帯となっている。
高齢夫婦・高齢単身世帯数の増加は近年の一貫した傾向である。生活という視点から捉えた際、現在の大都市部における高齢化は高齢夫婦・高齢単身世帯数の増加という変化をともなっている点に注目する必要がある。
都市部における買物の困難化
実際に、都市部の高齢者は買物においてどのような困難に直面しているのだろうか。幾つか事例を挙げていこう。
まず、郊外における代表的な困難と同様に、店舗が自宅から遠いという地理的な問題がある。というのも、大都市内部にこそ店舗は多いが、そこから少しだけ離れると、都市中心部の商業集積あるいは郊外の大規模店舗に顧客を取られるために店舗の空白地帯となってしまっている地域が存在するからである。京都市北部では近所のコンビニが閉店してしまい、最寄りの店舗が数キロも遠くなってしまい買物ができなくなったという事例がある。
都市内部でも高齢化にともなう肉体的な衰えが困難をもたらしている。京都生協には市内住まいの高齢者から、「人工透析を受けているため、通院などで体力を消耗してしまい、買物などの家事が出来なった」「夫の介護のために家を空けられない」「団地住まいだが、階段の上り下りがきつく、買物してきた重い荷物を持って階段を上がるのが困難」といった声が寄せられている。徒歩圏内、あるいは公共交通機関の充実した場所に店舗はあるのだが、それを利用するだけの肉体的・家庭的条件が整っていないという問題である。
さらに、高齢単身世帯の増加がもたらしている問題点として、家事の困難さがあげられる。たとえば、男性高齢者の単身世帯に見られる問題のひとつとして、家族との死別などで単身者となったが家事・炊事が出来ないため、日々の買物で何を買ったらいいか、どのように調理するのかわからないといった基本的な部分で困難に直面しているケースが存在している。また、一人暮らしのため、危険をともなう調理作業を避けるようにしており、購入品目が調理済み食品などに偏るといった声も生協に寄せられている。
ライフラインとしての生協の特徴
このように店舗が多数存在する都市部及び都市周辺部においても、日々の買物活動に何らかの困難を抱える買物難民が存在している。これらの人々にとって、生協をはじめとした食品宅配業は、まさにライフラインとして機能している。生協をみても、1997年度で供給高1,057億円に過ぎなかった個配事業が、2000年代にかけて成長を続け、2007年度には供給高にして8,521億円にまで拡大している。さらに、イトーヨーカ堂やイオンを筆頭に、GMSや食品スーパーのネットスーパー事業への進出も増えている。この背景には、ICTの発展といった技術的要因と消費者の利便性追求だけではなく、買物の困難化という消費者側の負の変化を背景にして進んでいる側面もあると考えられる。
また、都市中心部に比較的小規模な食品スーパーを多数展開することで成長している企業もある。この場合、狙いは都市内部に住む住人であり、非常に狭い商圏を活かして、来店・購買頻度を引き上げる戦略を取っていると考えられる。
このように多くの事業体が高齢化を前提としたビジネスを展開する中で、生協はどのようにして独自性を追求しているのだろうか。
食品宅配業者として一日の長があるのは事実だが、それに留まらない独自性を発揮している事例がいくつか見受けられる。そのひとつが共同購入(班活動)を通じたコミュニケーションである。個配事業が拡大する中で、徐々に縮小している共同購入だが、そのコミュニケーション効果が消費者に受け入れられている事例がある。たとえば、おおさかパルコープでは、これまであまり家事をしてこなかった男性の高齢単身者が班活動に参加している。この男性は、班のメンバーから家事のコツやレシピ、調理法などを教えてもらうことで、徐々に一人暮らしに必要な生活スキルを向上させている。また、共同購入を通じて健康に不安をかかえる高齢者同士での声のかけあいや荷受の分担といった支えあいが図られている班もある。
生協は組合員の助け合いからを端緒とした組織であり、買物の困難という問題に対して、出発点に立ち返った活動が進み、ライフラインとして機能していることは注目すべきだろう。
事業と支えあいの相互作用
改めて考えるべき点は、このような買物難民化あるいは社会関係の喪失といった事態は、けっして特別なことではないということである。都市部における買物難民の多くは、高齢化にともなう体力の低下や介護の必要による多忙化などに起因している。社会関係の喪失も、生涯未婚者が増加する傾向にあると言われている日本において、今後普遍化していく可能性が高い。言わば、誰もがこのような事態に陥りうるのである。
このような状況下にあって、班活動にみられるような住民同士の支えあいは大きな意味を持っていくだろう。とはいえ、事業としての性格を無視することは出来ない。これらの活動を事業にどのようにして組み込んでいくか、どのようにして相乗効果を追求していくか。生協には、これまでのノウハウを活かしつつ、新しい取り組みの模索が求められている。
1)杉田聡(2008)『買物難民―もうひとつの高齢者問題』大月書店。
2)京都市総合企画局情報化推進室情報統計担当(2009)『統解析No30』京都市。
3)関西の他の大都市では、大阪市の高齢化率が21.5%(2007年段階)、神戸市の高齢化率が20.0%(2005年段階)となっている。また日本全体の高齢化率は2008年段階で22.1%に達している。