『協う』2010年2月号 特集3

生協の障害者対応の現状と課題

  加賀美 太記(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程・「協う」編集委員)

 

はじめに

  「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」といった、障害の有無や年齢を問わず、すべての人にとって使いやすいように配慮することが、事業を進める上で重要であると指摘されてから久しい。この問題については、既に多くの事業体が取り組んでいるが、それは生協においても同様である。実際、生協の組合員の中にも何らかの障害を抱える人たちがいる。数の上では決して多数ではないかもしれないが、そのような人たちの声に積極的に耳を傾けていくことは、組合員の声に耳を傾け応えることを理念とする生協にとって自身の根幹と深く関わる問題である。
  それでは、生協は障害者の声に対してどのようにして応えようとしているのだろうか。また、いまだ解決していない問題はどこにあるのだろうか。ここでは、このような問題意識のもと、現在の生協において実施されている障害者向けの取り組みの現状と、その課題について検討していきたいと思う。



障害者にとっての生協事業の意義


  そもそも障害者と一概に言っても、視覚障害や聴覚言語障害、あるいは肢体不自由など、その意味するところは大きく異なる。そのため、各々が抱えている問題もまた多様である。
  今回は、主に視覚障害者向けの取り組みについて取り上げる。というのも、共同購入や個人宅配といった生協の無店舗事業では、利用に際して商品カタログやチラシなどから商品の情報を得る必要があるが、視覚障害はこの情報の取得において大きなハンデを背負っているためである。

○各生協の取り組みの実態
  最初に、日本生協連や各生協がどのような取り組みを進めているのかについて確認していくことにしよう。
  日本生協連や全国の生協が視覚障害者向けに進めている代表的な取り組みが「リーディングサービス」である。リーディングサービスとは、共同購入や個人宅配の商品カタログを読み上げたものをカセットテープなどに録音して、視覚障害を持つ組合員に配布し、このテープを聞きながら注文するというシステムである。
  リーディングサービスが始まったのは、今から30年近く前の1980年代に遡る。その後、ゆっくりとだが全国各地の生協へと広がっていき、2008年12月段階では、全国の38生協で実施されている(表1)。このような実施生協の広がりにともなって、利用者数もまた増加してきており、2008年12月段階の利用者総数は1980名に達している(図1)。

 なお、商品カタログの読み上げは、有償あるいは無償のボランティアによって実施されているケースが多い。さらに、生協外の企業やNPOへ事業委託しているケースもあり、サービスの詳細については各生協・事業連合で異なっている。
  近年の特徴としては、カセットテープに替わる媒体としてCDの活用、中でも印刷物を読むことが困難な人向けのデジタル録音図書の国際標準規格であるデイジー(DAISY)を採用した生協が現れてきている点があげられる。デイジーはアクセシビリティ(使い勝手、利用しやすさ、ひいては障害者にとっての利用可能性)を重視した規格である。この規格を採用することで、視覚障害者にとってより使いやすいシステムとして改善が図られているのである。
  また、コープネット事業連合やコープこうべなど一部の生協では、インターネットを通じて商品を注文できる「e‐フレンズ」という共通のシステムを導入している。このシステムにあわせて、音声読み上げソフト「読み上げくん」が提供されており、カセットやCDを用いたサービスと同様、音声でインターネット上のカタログ情報を確認できるようになっている。
  リーディングサービス以外の注文時に関わる生協の取り組みとしては、注文内容やカタログの内容を読み上げる機能が付いた商品注文用電卓(通称「音声電卓」)を利用した注文システムがある。また最近では、東海コープ事業連合が、携帯電話(「らくらくホン」)を利用した注文システムである「声ログ」を採用した。これは携帯電話で注文カタログをダウンロードし、音声案内にしたがって端末を操作することで注文ができるシステムである。従来の音声電卓と異なり、肉や魚といった商品カテゴリごとの読み上げ機能や、いわゆる「お気に入り」機能などが採用され、より利便性が向上している。携帯電話関係では、国からの援助を受けながら、携帯電話のカメラ・バーコード読み取り機能を活用したQRコードによる商品情報の提供・開発なども進められている。
  これらの各種商品注文システムや商品情報の提供といった取り組み以外にも、個人宅配の利用に際して割引制度が設けられている。制度の詳細は、全国の生協で少しずつ異なっているが、基本は配達手数料の割引、あるいは無料化である。
  たとえば、京都生協では一回の利用ごとに通常200~290円かかる配達手数料を、対象者については一律200円(利用金額2万円以上は100円)とする割引制度を導入している。また、この制度の対象者は障害者に限定されているわけではない。妊婦あるいは新生児がいる家庭や、65歳以上の高齢者のみで構成される世帯も、この制度の対象となっている。
  全国の各生協においても、同様の制度が設けられている。
  事業領域以外には、ボランティアの組合員による機関紙の読み上げと録音などが行われている。このように、生協では事業・組合員活動に関わらず、全体として実に多様な取り組みが進められている。

○組合員の声
  それでは、このような生協の取り組みに対して、実際の利用者はどのような評価をしているのだろうか。第一にあがるのは「消費の幅が広がった」という声である。
  視覚障害者にとって、店舗での購買は多くの困難をともなう。自分一人で利用する際に生じる困難としては、商品の陳列場所がわかりにくい、店員数が少なくて声をかけにくい、店舗のサービスカウンターにお願いすると何か買わなければならなくなるなどがあげられている。また、家族やボランティアに買物の手伝いをお願いした場合も、相手に気を使ってしまい、何を買うか十分に悩めないという1)。このように従来の取り組みやサービスは、視覚障害者にとって十分なものではなかったことが見えてくる。また、視覚障害者は得られる商品情報が少ないために、同じ商品の同じ銘柄を常に買い続けることになるなど、消費が極端に固定化される傾向にある。
  それに対して、生協の利用について、「生協では十分に時間を取って、自分で商品を悩んで買えるのでとてもありがたい」「商品情報が少ないので失敗も多いが、今まで買ったことのなかった新しい商品を選ぶ楽しみがでてきた」といった感想が寄せられている。
  このような声から見えてくるのは、生協の共同購入や個配といった無店舗事業の利用によって、商品をゆっくり検討することが出来るようになったこと、多様な消費を経験することが出来るようになったことなどを、視覚障害を持つ人たちが評価しているということである。

○生協の取り組みの意義
  このように高い評価を受けている生協の視覚障害者向け事業の意義を考えると、障害を持つ人が1人の消費者として自立するきっかけになっている点に、その取り組みの意義があると指摘できる。実際、組合員理事となって消費者の代表として活躍されている方もいる。障害者や高齢者で構成されたユニバーサルデザインなどの検討を進めるためのグループも立ち上がっていたりする。
  このように障害の有無や年齢に関わらず、あくまで一人の消費者として互いを認め合い、ともに活動していくのが生協である。そのような関係を担保するための、すなわち組合員が一人の消費者として自立するための手段として、リーディングサービスに代表される障害者向けの取り組みは、生協にとって非常に大きな意義を有していると言えるだろう。

 

生協の障害者向け事業の抱える課題

○組合員からの指摘
とは言え、生協の取り組みに問題がまったくないわけではない。引き続き、これらの取り組みが抱える課題について考えてみる。
まずリーディングサービスの利用に関して、組合員からいくつかの問題点が指摘されている。例を挙げると、テープは使いにくいというものがある。カタログに記載されている商品数は実に500点以上もあり、テープに起こした場合90分テープで2~3本になる。さらに商品案内以外の情報、たとえば食品のアレルギー情報なども含めた場合にはそれ以上になってしまう。そのため、目的の商品に行き着くまで非常に時間がかかるといった声がある。
その対策として、デイジーなどの新しい媒体への移行も進められており、自治体によっては、デイジーの再生機を無料、もしくは低価格で提供しているところもある。これらの情報提供を生協はおこなっているが、それでも費用面、あるいは使い慣れたシステムから新しいシステムへの移行に際して発生するスイッチングコストの問題など、利用者の負担が大きくなってしまうという問題も生じている。
また、購入後、すなわち実際の消費の場面においても改善点が指摘されている。たとえば、パッケージングの問題である。現在の商品の多くは、過度に包装されている一方で、保冷剤や乾燥剤といった品質を保持するための同封物も多い。そのため、視覚障害者にとっては、どれが商品で、どれがただの同封物なのかといった、商品とそうでないものとの識別が困難になっている。調味料と間違えて、保冷剤を食べてしまったなどの失敗談もある。そのため、包装の簡易化や、識別性の向上を図ったパッケージの形状加工などの工夫が進められているが、それでも十分とはいえず、この点への取り組みを期待する声があがっている。

○生協にとっての問題
  一方で、事業をおこなっている生協側にも課題が存在する。
  リーディングサービスに関して言えば、まずカタログの読み上げを担当するボランティアの確保が困難になってきている点が指摘されている。実際、共同購入のカタログ一冊をテープに録音するには、分量にもよるが3~6時間程度は必要となる。そのため、時間的にも費用的にもボランティアでの対応が難しくなっている。また、備品の老朽化にともなってCDやデイジーなどの新しいシステムへの移行が進められているが、コスト面や使い慣れたテープシステムを希望する利用者への対応などが問題とされている。これらは全体としての利用者数の増加で解消する面もあるが、今度はそのための情報提供活動の活発化という点が問題となってくる。
  加えて、諸々の特別な対応への費用的な問題も存在する。前述したパッケージングの工夫による識別性の向上についても、コストの問題から対応が困難になってきている。たとえば、豆腐の包装容器にこれまで採用されていた識別用のくぼみが、容器生産用の金型を更新する際に、費用が高くつくということを理由に見送られたという事例が存在する。

 

まとめと今後に向けて

  ここまで、生協における障害者向け事業の現状と課題を検討してきた。最後に、今後この問題を考えていくことの意味を検討しよう。
「はじめに」で述べたように、現代では障害の有無や年齢を問わずに利用できる「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」といった考え方が重要視されている。この背景には、障害者や高齢者といった社会的に不利を受けやすい人たちも、他の人々と共に生活し活動することができる社会が正常であり、望ましい社会のあり方であるという「ノーマライゼーション」の考え方がある。
これからの日本では、少子高齢化がよりいっそう進むことが確実である。障害者向けの事業や各種の取り組みは、そのような少子高齢社会を前提とした時、一部の人たちだけに関わる問題としてではなく、社会全体として真剣に検討するべき課題としての意味を持っていると言えよう。
めいきん生協の組合員理事であり、自身全盲障害を持つ八田淳氏は「障害者に使いやすいものは高齢者にも使いやすいものである」と述べ、障害者向けの「特別な」取り組みではなく、高齢者を含め、万人にとって使いやすいものや制度を創り出す工夫を生協にはしていって欲しいと主張されている。
この背景には、組合員の声に耳を傾ける生協だからこそ、それが出来るはずだという期待がある。前に述べた小さな子供を持つ家庭や高齢者への特典制度などは、その端緒であるとも言えよう。これら今までの経験や、組合員の声という資産を活かしつつ、新しい取り組みにチャレンジしていく事が、生協には求められていると言える。
しかし、一方で、ユニバーサルデザインやノーマライゼーションといった「すべての人が区別なく普通に暮らせる社会を」という理念を実現していくためには、ひとつの事業体だけでは限界があるのも事実である。そこには、生協の利用者だけに留まらない、「消費者」としての広範な市民の理解と運動が必要となってくるだろう。消費者組織である生協には、その運動の先頭に立てる可能性があり、そのための取り組みもまた求められているのではないだろうか。
その中で、様々な工夫やアイデアを捻出し、それをスタンダードにしていくような働きが必要になってくる。欧米では第二次大戦やベトナム戦争などからの帰還兵の戦傷問題から、ユニバーサルデザインの考え方が普及している。また、ノーマライゼーションの考え方は、北欧の障害者の施設改善運動の中から生じ、現代の社会福祉の基本理念となった。
これらの国々の経験や運動に学ぶと共に、日本においても広く普及した様々な工夫(シャンプーとリンスを区別するために設けられたボトルの凹凸模様、牛乳パックであることを示す「切欠き」、缶チューハイなどの上部につけられた「おさけ」の点字表記など)から学び、社会全体としてこの問題に取り組んでいけるかどうかが問われているのである。
障害者は何か「特別」な対応を欲しているわけではない。誰もが不自由をしないような、ほんの少しの配慮を求めているのであり、それ自体わずかな工夫で達成しうるものである。そのような思いを支え、実現していくのは消費者の理解と運動である。その点について、消費者組織としての生協には、自身の組織の強みを活かした独自の働きこそが期待されているのである。

1)財団法人共用品推進機構(2006)『障害者・高齢者の日常生活の不便さ調査事業報告書』。