『協う』2010年2月号 特集1

先進企業に見る障害者雇用 
  -ユニクロの場合-



伊藤 健市(関西大学商学部教授)

 

障害者雇用の実態

 わが国の障害者雇用促進法は、従業員56人以上の企業に法定雇用率(1.8%)以上の障害者を雇うよう義務づけている。しかし、2009年6月1日現在の民間企業における障害者の実雇用率は1.63%、達成企業の割合も45.5%と低調である(厚生労働省発表)。一方、実雇用率7%超をここ数年連続して達成している企業もある。本稿で取り上げる(株)ユニクロ(ユニーク・クロージング・ウェアハウス、UNIQLO)である。
  ユニクロにおける障害者雇用は、左下記の図のように推移している。
  その特徴は、重度・軽度の知的障害者の割合が約70%を占めている点にあり、身体障害者は20%強、精神障害者は5%程度である(2008年の実績)。同社は、採用にあたって通勤・食事などの日常生活が単独でできることが条件で、障害者向けの設備改善は特段行っていない。さらに、仕事上で目立った配慮はしておらず、障害者向けの仕事を新たに開発する(職域開発)のではなく同社にもとからある仕事で雇用している。つまり、どの企業でもユニクロ並みとまでいかなくても、雇用率をそこに近づけることはできるはずである。

 

障害者雇用推進の必須要件

 筆者は、障害者雇用の推進には、(1)障害者雇用に繋がる経営理念の設定とそれに基づく経営トップの意思表明、(2)障害者雇用のビジネス活動への貢献、(3)現場を主体とする障害者雇用の推進、(4)障害者に対する必要な配慮、(5)障害者を対象とした独自の人事・労務管理、の5つが必須要件だと考えている。若干付言しておきたい。
  (1)に関しては、経営理念のなかで障害者雇用の推進を謳う必要はない。自社の障害者雇用の推進が、経営理念に基づくものであることをたえずトップが明言すべきであろう。
  (2)に関しては、障害者雇用は福祉的・温情的措置ではないし、障害者自身もそうした意識をもつ企業のもとでは働きたくはないであろう。また、障害者雇用が結果としてビジネス活動に貢献しないのであれば、それが継続的な取り組みとなるはずもない。
  (3)と(4)に関しては、障害者がハンディキャッパーであることは間違いない。障害者のもつハンディキャップを取り除くか軽減できれば、健常者と同等かそれに近い存在となる。その意味で、ハンディキャップを取り除く主体が誰なのか、人事部門なのか現場なのかを明確にしておかねばならない。主体は現場であろうし、人事部門はサポートとチェックを行うべきだと考える。もちろん、現場の意識改革が必要となろう。
  (5)についてはこれまで障害者雇用を論じる際に取り上げられることはなかった重要な視点である。上述のように、障害者雇用を福祉的・温情的活動と位置づけるのではなく、なおかつビジネス活動に貢献するものと位置づけるのであれば、障害者をその適性に基づいて採用し、適正に評価し、育成・開発し、動機づけ、その働きに正当に報い、定着させる制度(=人事・労務管理)を整えなければならない。もちろん、健常者と同じ制度を利用できるなら問題はないが、そうできない場合が多い。障害者雇用の推進には、障害者を対象とした独自の人事・労務管理が必要である。
  以下では、紙幅の関係で①経営理念、②ビジネス活動への貢献、③人事・労務管理の3つに絞り、ユニクロの取り組みを順次みていこう。

 

ユニクロにおける障害者雇用の展開

(1)経営理念
  ユニクロは、1999年度まで法定雇用率をクリアーしていただけで、それほど積極的に障害者雇用に取り組んでいたわけではない。ところが、フリースブームのなか店舗数の急増とそれに伴う従業員増により、法定雇用率を割り込む事態(2001年3月時点で1.27%)に陥る。この時点で、ユニクロが採り得た選択肢には、①障害者雇用納付金を払う、つまり法定雇用率を割り込んだままにしておくというコンプライアンスにもとり、企業の社会的責任(CSR)を果たさない案、②それまでと同様、法定雇用率程度の障害者雇用を今後も継続するという消極案、③障害者雇用を推進するという積極案、があった。もちろん、①と②は論外である。③に関して、特例子会社で対応する方法もあったが、製造小売業(SPA)として中国を拠点に製造していたユニクロにはその選択肢は採りづらいもので、柳井正代表取締役社長(当時)は、「一店舗一人を採用しようという会社方針」を打ち出された。経営トップの意思表明で障害者雇用への取り組みが始まった点を明記しておきたい。
  柳井氏の「大号令」にとって幸いなことに、聴覚障害者が働いていた那覇店の経験が活かされる。同店では、聴覚障害者を雇用したことにより、「誰かが困っていたらみんなでカバーしようというチームワークの意識が店舗に広がって、それとともにお客様へのサービスが向上」(『働く広場』2001年、No.291、23ページ)したのである。本格的な障害者雇用が始まるのは2001年3月からで、この時点でスーパーバイザー(複数店舗の統括管理者)と店長に、「地元のハローワークや障害者職業センターと相談して、障害者を採用するように」(同上)との指示が出され、それと同時に「障害者採用案内」が作成され、同年6月の社内報では「障害者雇用は店舗に何をもたらすか?」という特集が組まれた。
  ユニクロには23ヵ条からなる経営理念がある(柳井正『一勝九敗』新潮文庫、233~260ページ)。この経営理念に基づきつつ、柳井氏はその後障害者雇用に関して次のように語られている。まず、「障害者雇用というものは、トップがきちんと決断しなければ、なかなか進むものではない」(柳井正「障害者雇用は、特別なことではない。」『職業安定広報』2006年9月号、3ページ)と経営トップの役割を明確に位置づけておられる。また、障害者雇用に対する基本的な考え方として、「障害があったとしても、それはその部分に障害があるということであって、仕事はいくらでもできるはず。だから、それぞれができる職場に就くべきだと思うし、世の中には障害を持った方がいるのだから、その人たちと一緒に仕事をするということは『あたりまえ』でなければおかしいと思う」(同上)と発言されている。企業に障害者がいるのは「あたりまえ」との認識である。そして、「企業というのは社会的存在だ。ものを買ってもらったり、作らせてもらったりして、存在している。だから、企業が生き残るために、社会的責任を果たすことは1つの要件になったと考えるべきだ。社会的に認められない企業は、生き残っていけない。企業は市民、特に影響力の大きい市民だ。社会に障害を持った方がいるのだから、雇用の機会を提供することは、企業の義務だと思う」(同上)と。経営トップである柳井氏のこうした障害者雇用に対する意識、認識、決意、これがユニクロの高い雇用率に繋がっているとみて間違いない。

(2)ビジネス活動への貢献
  一般的には、障害者を雇用すると仕事の効率が下がると思われている。柳井氏によるとそれは誤解にすぎない。氏は、「当初、店舗での障害者雇用について『お客様へのサービスが低下するのでは』という危惧もあったが、かえって障害者の働く店舗のほうが、お客様サービスが向上していったのが実情だ。誰かが困っていたらみんなでカバーするという意識が芽生え、周囲に対する気遣いができるようになった」(柳井正『一勝九敗』、134ページ)とか、「障害者がいると効率が落ちるとか、障害者は仕事ができないとかいった先入観もあるだろうが、実際にはそんなことはない。むしろ仕事によっては、健常者よりも効率は上」(柳井正「経営という仕事」『日経ビジネスAssoci』2006年5月2日号、102ページ)と語っておられる。そして、「障害を持つ人と一緒に働く経験を通じて、他人を気遣い、お互いが助け合うという仕事の進め方を学んだ結果、サービスの水準が向上しました。障害者雇用はコストアップ要因ではない」(同上)どころか、「健常者ばかりの集団よりも、障害者を含めた集団の方が競争力はある」(同上)とまで明言されている。
  ユニクロにおける障害者雇用は、単に法定雇用率をクリアーするとか、企業の社会貢献・社会的責任遂行といった動機だけではなく、それをさらに進めた顧客サービス・店舗効率の向上など、一歩先を行く施策として実践されている。多様な顧客に対する多様なサービスの提供には、多様な従業員の存在が必須である。「ユニクロの店舗では主婦や障害を持つ人を積極的に採用しています。皆が助け合う気持ちを持てば現場の士気やチーム力も向上しますし、何より主婦や障害を持つ人ならではの視点で店舗運営を改善していけます」(同上、2006年9月19日号、139ページ)、とも語られている。
  柳井氏は、障害は何もできない人ではなく、大抵のことは自分一人ででき、部分的にできないことがある人だと。障害者・健常者の区別はなく、あるのは得手不得手である。それで障害者を特別視することは間違いである。健常者であろうと障害者であろうと完璧な人はいない。「障害を持った方と一緒に仕事をするとなると、同僚・店長が気遣いをする。その気遣いというのは、本来、障害を持った方だけに向けるものではなくて、職場の全員に向けるものであり、そもそもお客様に向けるべきものだ。障害を持った方の雇用を通じて、各店舗で人に対する思いやりみたいなものや、一緒に仕事をしていこうという姿勢が生まれたのではないかと思う。」(柳井正「障害者雇用は、特別なことではない。」3ページ)ユニクロでは、そうした気持ち・態度を「気配り、目配り、心配り」と呼んでいる。それは何も障害者だけなく、顧客や仲間のスタッフに対してももつべき支援意識であろう。こうした支援意識が、その波及効果として、顧客への対応や店舗の改善点などに目を向けさせることになる。つまり、障害者の気持ちを分かろう・理解しようとしない感受性のない人は、顧客や取引先の気持ちを分かろう・理解しようとしない鈍感な人で、そうした相手のことを考えられない人がいる店舗は顧客サービスも低く生き残っていけない、というのが柳井氏の考えだと思われる。ユニクロは、最近盛んに言われるようになった多様性(ダイバーシティ)を活かす戦略を、障害者雇用を通して実現しているのである。
  この点で、「特例子会社」や2009年4月以降可能になった中小企業向けの「事業協同組合」化は、障害者の雇用者数を増やすということでは効果的かもしれないが、それが上記のような企業に及ぼす積極的な側面を見落とすものとなる可能性がある。障害者は、あくまでも健常者とともに働くことが必要なのである。それがノーマライゼーションである。

(3)人事・労務管理
  ユニクロの従業員は、正社員、地域限定正社員、パートナー社員(契約社員、準社員・アルバイト)で構成されている。障害者は準社員に準じて処遇されるが、障害者独自の制度・仕組みが整っている。ユニクロで働く障害者の離職率は、健常者の20%強に対し7%程度である。この数字に示される障害者の高い満足度は、以下で示される独自の人事・労務管理がもたらしたものである。
  まず採用である。採用にあたっては、地域のハローワークや障害者職業センターなど第三者とも相談し、1ヵ月前後のトライアル雇用を実施した上で現場統括者である店長が決定している。ただし、トライアル雇用期間中は、障害者に職場適応援助者(ジョブコーチ)がついて、当該障害者が行う職務を完全にこなせるようになるまで指導している。
  雇用契約期間は、準社員の6ヵ月の有期契約と同じく6ヵ月である。契約更新時には契約更新面談を行う。更新回数には制限はなく、契約した業務の遂行に支障がない限り何度でも契約は更新される。勤務場所は準社員と同様店舗のみである。障害者の場合、本人の希望で店舗を異動できるが、それは非常にまれなケースのようである。
  勤務時間は原則30時間である。だが、実際の勤務時間は、本人とジョブコーチやハローワークの担当者の立ち会いのもと、障害の程度に応じて障害者ごとにきめ細かく設定されている。健常者の場合はシフト制―早番(土日8時あるいは平日9時出勤)と遅番(12時出勤)のシフト―のもとで働いているが、障害者の勤務時間帯はシフト制ではない(休日はシフト制)。特に知的障害者は安定した生活リズムを保つため、シフト制はとらず、毎日同じ時間帯で働いている。障害者で週30時間勤務者であれば、当然社会保険・雇用保険の適用対象者となる。勤務時間は6ヵ月ごとに見直している。
  障害者の評価は、①契約通りの仕事(職務)ができたかどうか、②契約で定めた出勤日数をクリアーできたかどうか、を毎月評価し昇給に繋げている。健常者が四半期ごと、あるいは半期ごとの評価であるのに対し、1ヵ月ごとという障害者の評価は非常にきめ細やかに行われている。①と②を満たせば、「定期昇給制度」で6ヵ月ごとに20円ずつ昇給する。ただし、昇給はスタート時給の300円増しの金額が上限である。もちろん、障害者にも賞与があり、回数は健常者と同じ年2回、本人の1ヵ月分の給与と同額が支給されている。

 以上のユニクロの事例から何を学べばいいのだろうか。ユニクロは特別で、同社の真似をするのは無理だと考えてしまえば障害者雇用での前進はない。ユニクロには、商品を荷受けしてから店頭に並べるまでに、段ボール箱から袋に入った商品を取り出し、その商品を袋から出し、商品の種類・サイズ・色別に並べ替えるという、簡単だが繰り返すには相当の根気のいる、その意味では知的障害者向きの仕事があることは事実である。でもこれは、ユニクロだけにみられる同社の特徴だろうか。そうではないと思う。
  では、なぜ多くの企業で障害者雇用が進まないのか。最大の障壁は、障害者は何もできないとの先入観ではないだろうか。「何かができ」、「チームとして働ける」なら、彼(彼女)らを活かすのはそれほど難しくないはずである。その際、障害者を「特別扱い」する必要はない。そうすることはかえって障害者の自立を阻害する。人にはそれぞれ得手不得手がある。障害者を「不得手なことがある人」と考えてもらえればいいのである。ただし、ハンディキャッパーであることは事実である。この点で「障害をもつアメリカ人法(ADA)」の指摘は重要である。同法は、「必要な配慮」つまりハンディを取り除く施策は最低限必要としつつも、「重大な支障」つまり経営にとっての足枷になるものまでは求めていない。そこには一定の節度を保つ工夫が当然なされている。
  最後に、本稿が読者である皆様の障害者雇用に対する意識の変化に多少なりとも貢献できれば、筆者として望外の喜びである。皆さんの隣で「いきいき」「楽しく」働らく障害者が一人でも増えることを祈りつつ筆を擱きたい。