『協う』2010年2月号 生協のひと・生協のモノ

「好奇心」と「行動力」で協同の心を社会に広げて
  ~八田 淳さん(めいきん生協理事)を訪ねて~


有地 淑羽
(『協う』編集委員・京都生協組合員)


  めいきん生協に八田淳さんという視覚障害を持ちながらも、いきいきと活躍しておられる男性の地域理事がおられると聞き、名古屋まで取材に行ってきました。
  生協との出会いは2002年からで、インターネットで宅配のサービスがあることを知り、八田さんはめいきん生協で個配の利用を始めました。買い物が楽になり商品を選ぶ楽しみが増え、食事のメニューが増えたそうですが、音声電卓は商品の名前と注文番号しか言わないので、始めた頃は思いがけないものが届くことも多かったそうです。
  2003年に視覚障害者のための交流試食会に参加し、また翌々年にはお客さんではなくお手伝いがしたいと企画する側になってからは居心地が良くなり「障害を持つ者はお客さんではない、利用している者が主体的でないといけない」と音声電卓を利用していた者20人ほどが集まり「音声電卓利用者の会」をつくり、学習や見学会をしました。2003年から総代、2006年から地域理事を勤めています。
  他の理事と同じように機関の会議、地域の会議、福祉担当の会にも出席しています。会議の資料などは事前にメールで送ってもらい読んでいます(パソコンに音声や点字に変換する機能があります)。当日の資料は活字を読取る機械と、メモを取る機械を二台使って対応していますが、手書きや表、グラフなどは解りにくいそうです。また司会の時は発言する方に、声を出して教えてくださいと言って会議を進めています。八田さんが理事になってから他の理事にも、必要な連絡はメールで届くようになったようです。
  八田さんにとって生協とは「一般の世の中では障害者、高齢者=支えてあげなければいけない人、という関係だが生協の場合、共助(支え合い)がひとつの理念としてあるので、障害者も存在意義を認めてくれている事が生協のすばらしいところです。我々にもできることはあるのでその範囲で助けたり、助け合ったり、協同の心を社会実現していけば過ごしやすい、居心地の良い世の中になる。それを先取りしているのが生協です。」
  「障害者にとって生協は、家まで運んでくれるだけでありがたいと思っている人がほとんどです。しかし中身が分かりにくいと思っている人は多い、スパイスだと思って味がしないので見てもらったら鮮度保存剤だったり、生協ではないが、取り寄せたラーメンの溶けた保冷剤をスープだと思ったこともあります。食品か非食品か分かるといいですね。また食品表示や調理法など情報に困ることは多い。障害者、高齢者、外国人労働者、弱者ほど生協を求めているはずだ。国が法として整えたり、日生協が事業者としてメーカーと協力してやろうと思えば無理な事ではないと思うが、日本ではまだ他人事で社会のコンセンサスとして至っていない。」と語ってくれました。
  八田さんの魅力は「好奇心」と「行動力」です。学校を出た後、一人でアメリカに行こうとしたり、85年頃から音声読みとり機能があると知りパソコンをプログラム作りから勉強したり、好奇心と行動力は驚くばかりです。盲学校の同級生である奥様の応援と、なにより社会を変えていく自分の役割に気づいておられることが、いきいきと活動できる原動力なのでしょう。
  組織運営部の人に聞いても他の理事さんに聞いても、八田さんが理事になったからと言って特別なことはしていない、との答えでした。しかし八田さんに協同のパートナーとして接する文化が皆さんに身に付いて、それがいごこちの良い場を作っていっているように今回の取材で感じました。八田さんの目指す協同の社会はきっと私たちみんなにとっても暮らしやすい社会なのだと思いました。