『協う』2009年12月号 特集2
教育で築く子供・学校・地域との新しい関係
-身近な理解者を育てるみやぎ生協の取り組み-
原田 英美 (京都大学大学院 農学研究科博士後期課程)
一般に生活協同組合には、組合員とその子供を対象にした活動はあっても、学校とそこで学ぶ子供たち向けの活動は少ないのではないだろうか。みやぎ生活協同組合(本部・仙台市)は、歴史的な経緯もあって地域の学校とつながりの深い生協である。近年は特に、組織を挙げて「戦略的」に学校や子供たちとかかわりを持とうとしており、学校向けに豊富な事業や活動を展開している。そのような学校支援の取り組みは、生協にとって"将来の組合員"になる可能性を持つ子供に生協を知ってもらい愛着を持ってもらうための試みであると同時に地域貢献でもある。また、生協がなぜこのような活動に取り組むのかを知ることによって、生協職員自身が生協の役割を深く理解することにもつながるという。中学生の職場体験を中心に、みやぎ生協が学校向けに展開する取り組みを紹介しながら、生協の教育への関わり方について考えたい。
中学生が店舗で職場体験
今年11月4日。ジャージにエプロン姿の女子中学生2人が、みやぎ生協大代店(多賀城市)のバックヤードで柿を袋に詰めていた。塩竈市立第三中学校2年の阿部紘乃さんと鈴木江梨奈さん。総合的な学習の一環で3日間の職場体験に訪れていた。この日が初日とあって、2人は緊張した面持ちで、農産担当の職員の指示に従って野菜や果物のカットや包装、袋詰めなどを行った。
柿は、透明な袋に底敷きを入れてから6個ずつ詰めて袋の口をテープで止める。袋に入れる前に傷みがないかを確かめ、1袋の重さが約2キロになっていることを確認する。一通り詰め終わると、2人が袋詰めした柿は早速、店頭に並べられた。
この日はほかに、ダイコンを半分に切って袋に入れたり、ハクサイにラップをかけたりもした。小売店の裏方作業を初めて体験した阿部さんは「お店の裏は大変」と話し、鈴木さんは職員の仕事ぶりに「作業が素早い」と感心していた。
同中学校では今年、中学2年生が3日間、幼稚園や図書館、家電量販店、ペットショップなど34事業所に分散して仕事を体験した。一時中断していたのを昨年から再開したといい、生協での職場体験は今年が初めて。生協が職場体験を受け入れていることを聞いて頼んだといい、仕事の大変さを学んで進路を考えるのに役立ててもらう狙いだ。
職場体験に協力している事業所は少なくないが、みやぎ生協の受け入れはかなり多い。本部の受入窓口を通じて依頼された分だけで2008年度は37校の約250人が、生協の店舗やデイサービスセンターなどで就労体験をおこなった。店舗に直接依頼がある場合も多く、全体では年間約150校程度と推測されるという。大代店の場合、11月だけで3校の職場体験が予定されていた。
こうした受け入れは、店舗の職員らにはごく当たり前のこととして定着しているという。何を体験させるかは受入部門が担当し、生協がどういうところかを説明し、繰り返し作業やあいさつの大切さなどを学んでもらうという。
「授業に役立つ学習ガイド」で積極支援
職場体験を積極的に受け入れているのは、6年前から生協全体で体制整備を進めてきたからだ。学校や子供たちに生協としてもっとかかわっていくべきだとして、『授業に役立つ学習ガイド』(写真)を作成した。生協が学校に対してできる支援内容、学校側が生協を通じて利用できるメニューを集めて冊子にしたもので、2003年度から発行し、宮城県内の全ての小中学校に配布している。
2009年度版ガイドには、職場体験のほか、施設訪問、講師紹介・派遣、資料提供・貸し出し、施設見学・体験講習、教育助成のメニューが並ぶ。職場体験では、店舗やデイサービスセンターなどでの研修コースを設定し、研修内容やスケジュール、受け入れ人数や期間などの条件を紹介。施設訪問では、訪問可能な店舗や取引先の工場などを紹介、定員や見学の所要時間などをまとめている。子供たちに合わせて学校側がプログラムを選びやすいように工夫されている。
これらの活動の一つ一つは、職場体験の受け入れと同様に生協が以前から取り組んできたものが多い。例えば、酸性雨や河川の水質を調べる環境測定活動は20年来の取り組みである。これまでにも地域や学校へ参加を呼びかけ、一時は県内の半数以上の学校が参加したこともあったという。製麺所やハム工場、牛乳工場などの食品工場見学も、元々は組合員たちが自分たちの食べているものがどのように作られるかを知ろうと見学してきた取引先の工場だ。生協が窓口となって学校側から工場見学の申し込みを受け付ける。環境、福祉、平和などに関する学習会の講師派遣やビデオ・DVDの貸し出しも、組合員の学習活動に利用してきたものばかり。長年にわたって日本ユニセフ協会の活動に取り組み、同協会の宮城県支部が生協内に置かれていることもあり、特にユニセフ関連の講座や資料は充実している。
新しい取り組みもある。昨年スタートした小学生対象の「食育体験ツアー」。ツアーではまず、生協の産直について説明するほか、栄養士が野菜や果物の摂取の大切さと栄養バランスについて解説。その後、子供たちがグループごとに与えられたミッションに従って店舗で野菜を買い、サラダをつくるプログラムだ。
特徴的なのは、学校現場の教育研究活動や授業に充てられる「教育助成制度」である。助成主体は、同生協子会社の宮城県学校用品協会である。2009年度は県内の小中学校93校に計301万円の研究活動助成が行われたほか、講演会の講師謝礼補助や講習会の講師派遣など、総額830万円が助成されている。研究活動助成の対象校は、県内の8地区に予算を割り振り、各地区の校長会で選出してもらう。同協会の売上は約22億円(2008年度)。昨年度は約1000万円の経常黒字だったが、赤字続きのときでも助成を続けてきたという。
学校を通じて子供たちに貢献
みやぎ生協が学校と密接な関係にある背景には、同生協が1982年に宮城県民生活協同組合と宮城県学校生活協同組合の合併により設立されたという経緯がある。学校生協が担っていた「学校現場に役立つ活動」と「学校教職員向けの教材・教具の供給事業」は、現在はみやぎ生協学校部に引き継がれている。学校や子供たちへの貢献活動は従来から学校部を中心に取り組まれてきたし、職場体験のように10年以上前から個々の店舗で取り組まれてきたものもあった。こうした "点"の活動を生協全体で体系的に取り組む"面"の活動にしていこうと方針づけた狙いは、石川了・学校部次長の説明によれば主に2点にまとめられそうだ。
第1に、地域の子供たちに生協を理解し愛着を持ってもらうこと。職場体験や見学は、仕事とはどんなことかを経験し学習してもらうほかに、生協が一般のスーパーとはどう違うかを子供たちにわかってもらう良い機会ととらえており、親子の会話や買い物行動につながる可能性も期待している。第2に、若手職員に生協の意義や役割を考えさせ、地域貢献が職員のやりがいにつながること。特に若手職員の中には、学校生協活動を知らずに一般の企業に勤める感覚で生協に入ってくる人も多いという。こうした職員が、生協が行う学校支援の事業や活動を通して、生協の役割を理解していくことにもつながると考えている。
石川次長によれば、このような生協挙げての取り組みにより、職員の意識も徐々に変化してきている。以前は忙しい中で職場体験の受け入れを嫌がる人もいたが、今はこのような活動が大切だと考えるようになっているという。
規模が大きくなるなかで、生協は単なる流通小売業ではなく協同組合であることが見えにくくなっているのではないだろうか。みやぎ生協は、県内に48店舗を構え、08年度の供給高は1029億円である。組合員数は約60万人(2009年3月20日現在)で、県内世帯数の67%に当たる大規模生協である。学校を通じた子供たちへの貢献活動は、将来への投資であると同時に、生協の本来の意義や役割を再確認するための活動と見ることができそうである。