『協う』2009年8月号 視角



組合員はコストか、資源か     
徹底して組合員とともに進める医療福祉事業を


藤谷 惠三

 

医療生協に入っても医療費の割引はない
 日本生協連に加盟している医療生協は、全国で117生協、組合員数270万人、出資金高700億円、総事業高2900億円、職員数約3万人の規模まで発展してきました。
 しかし、医療生協は、組合員になっても医療費が安くなったり、利用割戻しや配当を受け取ることはありません。病気にならなければ医療機関の利用も限られます。にもかかわらず、なぜ発展してきたのでしょうか?最大の秘密は、「健康づくり、まちづくりの生協」と自らを規定したことにあります。「病気になったときのために病院や診療所を経営する生協」という姿勢から、「仲間と助け合って明るく元気にくらせるまちづくりの生協」を前面に押し出したのです。
 「毎日元気に過ごすために医療生協の組合員になりませんか」、「幸せにこのまちで暮らし続けるために、一緒にまちづくりをすすめましょう」というのが医療生協の地域の人たちへのメッセージです。

医療生協の半分が赤字
一方で医療生協は、事業収益の8割以上を診療報酬と介護報酬、健診収入で得ています。医療生協の事業経営は、病気や介護が必要になった時に必要となる医療機関や介護事業所で成り立っています。
ところで、その医療生協の事業は、深刻な経営危機に直面しています。原因は、社会保障費の連続削減による診療報酬や介護報酬の引き下げ、健診制度の縮小などによるものです。昨年の決算で一気に半数の医療生協が赤字になり、赤字額は過去最大になっています。この傾向からどう脱却するかが医療生協運動の最大の課題でもあります。

組合員活動を最大の資源にする
この経営危機を乗り越える最大のカギは、生協としての特徴を活かすかどうかだと思います。医療生協も他の法人も、収入源は同じ診療報酬や介護報酬です。他の法人は、その収入のすべてを職員の給与や医療機器等の改善に使って事業運営を行っています。ところが、医療生協は、その中から理事会や支部の活動費、組織部の職員の給与など、生協としての機能を維持するために多額の費用を支出しています。ですから、これらの活動が事業経営に資するものになっていなければ、これらの費用は、ただの「コスト」です。それなら、組織部をなくし、理事会活動や支部活動を縮小したほうが、経営がよくなります。
しかし、医療生協として地域住民の期待にこたえて事業を進めようとすると、これを「資源」にしなければなりません。「組合員が増資をしてくれるから施設改善ができる」「組合員が地域で医療生協の事業のよさを語ってくれるから患者や利用者が増える」「組合員が厳しい目で見てくれるからサービスの質が上がる」「組合員が社会保障改善の運動に取り組むから事業環境がよくなる」「組織部があるから地域の要求がつかめる」などの状況をつくる必要があります。
これこそが、医療生協がどんな状況でも経営を維持・発展させることができる最大の保障です。

「生協」をいのちの分野でおおいに活かそう
各地の医療生協では、すでにこの視点でとりくみを大きく前進させているところもあります。支部の組合員が自転車で地域を回って土地や空き家を見つけ、出資金を集めて改修し、自主的に運営しているグループホームや高齢者住宅も現れています。また「医師確保は組合員の仕事」と位置づけて紹介運動にとりくみ、10名を超える医師を確保した生協も出ています。
医療部会では、これらの運動をさらに広げようと、2009年度から2年間かけて「生協をいのちの分野に活かす大運動」にとりくんでいます。今後ますます進む超高齢化社会や、社会保障の後退がもたらしたいのちの危機を乗り越えるためには、協同組合の持つ「助け合い」などの特質を活かすことが決定的に重要だと思っています。
医療生協は、そのしくみづくりとして新たな「全国連合会」の準備を進めています。そして本格的に「いのち」にかかわる国や地域のさまざまな問題を生協のシステムを活かして解決し、安心のネットワークの構築と明るいまちづくりに貢献したいと思っています。

ふじたに けいそう(日本生協連医療部会事務局長)