『協う』2009年8月号 特集4

 

個人対応ビジネスの進化に資する生協研究機関の役割とは?

松下 桂子(パルシステム生活協同組合連合会・21世紀型生協研究機構)

 

 まずは「危機の時代は変化が加速する」という一節から始まる的場信樹氏の解題が「マネジメント」というテーマに基づき簡潔明瞭にまとめられていたことを、僭越ながら評価したい。これにより各シンポジアストの専門領域・視点にもとづく問題意識と発言が緩やかに紐付いたように思われる。
  本会では、京都生協新理事長の二場邦彦氏が指摘されていたように「変化する経営環境に適応」すること、またその適応経緯での"知"の累積が経営戦略のレベル向上につながる、といった、すなわち「どういった変化」に「どのように対応するか」という手段としてのマネジメントとその必要性が多角的に問われていた。
  そのためにも各組織の文化・歴史・価値の再確認と再構築による足場固めと、(論議は大事だが)効率的に論議する仕組みの開発と明確な意思決定といった "透明な加速システム"の構築が、事業体として急務であるという認識があり、極めて同感である。その延長上に今後の研究課題の一つとして挙げられていた"組合員の中長期的変化予測"であるが、奇しくも昨年度より「21世紀型生協のビジネスモデル構築に向けたライフスタイル研究」として若干先行するかたちで調査・分析を担当しており、概要について、本誌からご要望いただいたのでこの機会に触れておきたい。
  そもそも小職が所属するパルシステム生活協同組合連合会(以下、パルシステム)は個配に代表される無店舗専業であり、ライフステージ別の3つのカタログを介して事業を行っている。すなわちパルシステムにおいてカタログとは "業態"であり、それは個々人の組合員のライフスタイルによって選択されるビジネスモデルである。したがって個配を始めて約20年、環境は変化しており、旧来のビジネスモデルでは成長は鈍化、低落するのは必然である、という問題意識を持っている。  
  では果たして、どう変われば良いのか。そのための研究課題を「2020年以降、どんな生活環境変化が予測されるか」「生活者のニーズはどう変わるか」「今後のパルシステム(生協)に求められる役割は何か」とし、1都8県の会員生協エリアを重点的に人口・世帯・所得データ等の分析を行い、一般生活者と組合員を意識・実態から比較検証した。なおこの経緯で、過去20年分の組合員調査についても全設問の洗い出しと再分析を行った。
  今年度は、昨年度調査をさらに発展させるかたちで「くらしの定点調査」なる組合員意識調査、同内容での一般生活者調査、また意識調査と掛け合わせた消費行動分析も並行実施する。同時に市場環境や錯綜する競合状況の変化をトラッキングし、食市場を中心に注目トレンドを拾い上げており、加えてICT(InformationandCommunicationTechnology)といった情報技術の進化によるコミュニケーションの変化にも、組合員参加や意思決定の観点からウォッチングを続けている。
  パルシステムには100万人超の組合員を有する "事業"連合として、現状の間接民主主義システムのジレンマを一定克服し、協同組合ならではのビジネスとして成立させていくことが求められている。パルシステムの掲げる「多様性の共存」とは、個人対応という「一人ひとりのくらしを認め、一人ひとりが選択していく」手段を模索し続けることに他ならない。私たちの業務がその一助になれば幸いだが、困難を伴わないわけでは無論ない。
  先行研究の重要性は広範に認識されつつも、価値の相対化が進み何にでも平準化の圧力が働く社会においては、我が組織も例外なく、研究部門への反発も含めて有機的に機能しづらい側面がある。実利的成果を急ぐ新自由主義の影響も色濃い。これは多くの研究所・者が現場にブレイクダウンする際に課題として抱えているのではと推測する。じゃぶじゃぶと潤沢な予算があるわけでなし、今後この分野(金は生まないわ、偉そうだわ)に対する圧力はさらに加速するだろう。
  振り返って研究者でも実務者でもない私たちは、まず伝わる言葉で、職員や組合員に伝えるべきことを丁寧に伝えているか。求められるコーディネーターとしての機能を自問し、反省しつつ、生協の研究機関の新しい地平を切り開いていきたい。