『協う』2009年8月号 特集3

 

協同組合的アプローチによる危機の克服

高橋 英俊 ((財)協同組合経営研究所 常務理事)

 

 この標題は、第87回国際協同組合デー(2009年7月4日)に向けたICAメッセージである。また、くらしと協同の研究所の第17回総会記念シンポジウムのテーマは「危機の時代における協同組合の課題」であり、両者の共通点は「危機の時代という認識」と「協同組合として何をなすべきか」である。
  このICAメッセージの危機克服に関するコメント(概要)は、次の3点に集約される。
①国際労働機関(ILO)からICAに委託された最近の調査によれば、「協同組合」は他の事業形態より危機に対する対応力が優れている。
②協同組合方式のビジネスが持続可能であること、また、倫理的価値を中核に置く事業体が成功を収め、持続可能な景気回復に貢献できている。
③協同組合の価値と原則を実践することが長期的な持続可能性を確保する決定的な要因であることは、いよいよはっきりしてきている。
  つまり危機の時代における課題解決の道筋は、「協同組合の価値と原則」の実践と言える。現在の協同組合は、協同組合とは何かについてのICA声明(1996年)の「定義」・「価値」・7つの「原則」をどこまで、理解し具体的に実践しているだろうか。
  特に、「定義」の「人びとが共通の経済的・社会的・文化的なニーズと願いを実現するために(以下省略)」、「価値」の「協同組合の組合員は、倫理的な価値観として、誠実でつつみ隠さず、社会的責任と他者への思いやりをもつことを信条とします」および第5原則:教育・研修と広報活動の促進、第6原則:協同組合間の協同、第7原則:地域社会への配慮、が重要であり、その検証と事業・活動をとおした実践が必要であると思う。
  今回のシンポジウムのテーマは、「危機の時代における協同組合の課題」であり、危機の時代における協同組合のあり方をマネジメントという切り口でテーマ設定し、様々な事例報告・問題提起があった。全体像の理解不足を前提に、感想・意見として下記の2点を述べたいと思う。
①暮らし易い・生きていて良かったと思える街づくり・国づくりには、各種協同組合の事業・活動が重要であるが、構造的な諸課題への対応は生協だけの議論では深まらないのではないか。協同組合間連携や協同組合地域社会等の議論が今こそ必要ではないか。
   食と農、助け合い、介護・福祉、子育て、地域コミュニティ、環境など「協同の力」で改善できることが多々ある。「協同」とは、言うまでもなく「ともに心と力をあわせ、助け合って仕事をすること」であるが、その理念を持つ各種協同組合が様々な課題に対して「一緒になって話し合う場」があまりにも少ないと感じる。
②様々な新しい生きにくさの現出、その改善のための協同組合の役割の議論については、この国のあり方・諸制度のあり方と協同組合の役割に視点をあてた議論が必要でないか。
  最近2、3年の生協・農協関係のシンポジウムは、当研究所も同様だが、地域コミュニティのあり方やソーシャルキャピタル(つながり力)、格差・貧困問題などのテーマが多い。「未来に対する不安」は、個人として出来ること(やらねばならないこと)、協同して(協同組合として)できること(やらねばならないこと)と共に、この国のあり方(法律、諸制度、農村と都市のあり方、暮らしやすいまちづくり等)の議論が必要であると思う。そして、行政や一般市民に協同組合の存在意義と役割について理解・認識してもらう「外向きの努力」の必要性を感じる。
  ICAメッセージにある「協同組合的アプローチによる危機の克服」の提起に自信を持ち、協同組合とは何かについてのICA声明(1996年)の定義・価値・7つの原則を、私たち協同組合関係者がより具体的に実践することこそが、今回のシンポジウム「危機の時代における協同組合の課題」に明るい展望を切り開くことになると確信している。しかし、まだまだ協同組合理念と実践の乖離は大きいと感じる。