『協う』2009年8月号 書評1

 

 
坂本光司 著 『日本でいちばん大切にしたい会社』

近藤 泉 生活協同組合ならコープ組合員・「協う」 編集委員



  「100年に一度の不景気だから…」のフレーズ、政府の方針演説や集まりの挨拶で耳にタコが出来る程聞かされたのではないだろうか?
  事業成績が悪いことの理由を「景気や政策が悪い」「業種・業態が悪い」「規模が小さい」「ロケーションが悪い」「大企業・大型店が悪い」と、外部環境のせいにする経営者があなたの職場にいたら、この本を勧めてほしい。そしていっしょに「大切にされる企業にするには」を話しあったらいいと、この本を読んで心から思った。
  著者は「日本企業の9割が中小企業です。私は中小企業を応援したい。大企業に依存すると効率優先で撤退されて町全体がダメージを受けてしまうことがありますが、それより、地域の人々を雇い生き残るために多様な開発や工夫が可能な中小企業にこそ希望があります。」とNHKの「時事公論」で熱く語っていた。
  大企業も中小企業も(生協も)、同じ日本社会という広場で事業を通して顧客や地域社会に必要とされ利益をあげていけるようがんばっている。必死にがんばって働いても業績が伸びないとき、まわりの人のせいや社会のせいにしていないだろうか?または、自分ひとりで数字を抱え込んで、どうにもならないと嘆いていないだろうか?
  この本は、第一部と第二部から構成されていて、第一部では「会社は誰のために?」と題し、経営者が心すべき「5人」(1.社員とそれぞれを支える家族 2.外注先と下請け企業の社員とその家族3.顧客 4.地域社会《住民》 5.株主《出資者》)に対する使命と責任について述べている。第二部では障害者雇用に50年前から懸命に取り組んでいる「日本理化学工業」と、「寒天パパ」でおなじみの「伊那食品工業」、石見銀山の麓というお世辞にもロケーションがよいとは言えない立地でも弱者の役に立つ価値ある商品を創り続けている「中村プレイス」、成熟産業といわれる菓子業界で顧客の圧倒的支持を受けている「柳月」、そしてシャッター通りの家業的小売商店ながら顧客の絶大な支持を受けている「杉山フルーツ」の実例を示して、その経営と大切にしたい理由を述べている。
  著者は、企業評価のものさしは「働く人々や地域社会の幸せです」、「売り上げの数字はあとからついてくる」と、述べている。
  「現実を見ていない理想主義だ」、「美談など、世の中の荒波にすぐにものみこまれてしまうさ」と、言う人も多いと思う。しかし、実際にこうした理想を掲げながら長期にわたって着実に利益をのばしている企業が、日本のあちこちにあるのだと、この本から教えられる。
  著者は、「経営資源には『人・物・金』とあるが、物は設備や商品という名の道具であり、お金も人間が経営活動するための道具にすぎない。つまり不況を克服できる唯一の経営資源は『人財』しかない、好況を持続できる唯一の経営資源も『人財』なのです」と言い、「やはり景気は与えられたものではなく、自分の力で創るものなのだということです」という。
  この一節を読んで、私は協同組合原則を思った。生協は株式会社と違い、人間的なつながりを基本とする協同の組織だ。職員や組合員は「儲けて勝ち組になる」ために生協に参加しているのではない、事業を通じて自らと地域社会の生活をよりよくしていくためだ。
  過度の自由経済とかマネー資本主義とか、人々が働くよろこびやたすけあいの価値を忘れて「マネー」に人や社会がふりまわされている現状は、決して本来の姿ではないと気づかされる。
  また、個人的には生協が社会の中の目立たない特殊な事業体どころか最も「正しい」企業のありようだと再認識した。
  もうひとつ、理念を見失わず流されないために大切と思ったのは「戦わない」という姿勢だ。他社の真似をすると競争しなければならないけれど、いろんな声を聞いて必要とされる商品を開発すれば敵などできるわけがないと思った。
  言うのはカンタン、現実はそうはいかない、と言われそうだ。
  でもむずかしいけど懸命にとりくめば感動と共感がたくさんみつかりそうだと、この本を読んで感じた。