『協う』2009年6月号 特集2
ネットスーパーとの競争に生協はどう挑むのか
玉置 了 (近畿大学 経営学部 准教授)
店頭や倉庫の在庫商品をピックアップして宅配するネットスーパーと組合員の予約注文に基づいて在庫を形成し商品を宅配する生協の無店舗事業,ビジネスとしての仕組みは異なるのに、しばしば両者は比較される。ここに生協の無店舗事業の今後の難しさがある一方で、可能性も存在する。
■ネットスーパー競争の中での生協
今後の高齢化社会の進展や情報通信技術の進展から見てネットスーパーは有力な市場となろう。一般的な買い物手段としての普及は、各小売業のさらなる投資や消費者の買い物行動の変化を待たねばならぬゆえ時間がかかるかもしれないし、それほど広く普及しないかもしれない。けれども、対象を生協の組合員に限定すると、生協の利用経験の無い消費者と比べ、生協の組合員は先駆けてネットスーパーを積極的に利用する層となりうる。というのも、共同購入の利用者は食料品の現物を見ずに注文し配達してもらうという購買様式に慣れ、便利さを実感していること、また今後高齢者になり買い物に出かけづらくなる年代が利用者として多く存在するからだ。このように考えると生協のネットスーパーへの対応は急務である。
配達に関わる点が大きい。いうまでもなく生協が週1回の決められた日に配達という現状の配達システムを維持すると、ネットスーパーとの比較において利便性で大きく劣ることになる。組合員でない消費者から見ても、ネットスーパーの存在が周知となれば、この配達方式はかなり時代遅れのものと見なされるだろう。冒頭で述べたビジネスとしての仕組みの違いは恐らく理解してもらえない。一方で、配達回数を増加させるには大きな投資が求められる。さらに、配達回数の増加という一見消費者のニーズに応えるかの行動は、生協が食品宅配ビジネスの競争の中に真正面から飛び込むということも意味する。
■コミュニケーションから共同購入の可能性を
こうした状況で生協は、ネットスーパーとは異なる食品配達サービスであるための仕組みをつくり、生協の共同購入を消費者に独自の存在として認識されることが何よりも重要だ。その鍵は、ありきたりだが簡潔にいうとコミュニケーションにある。商品面の安全・安心や社会的意義という魅力は、欧米の小売業が既にプライベート・ブランドにそうした商品を充実させており、わが国の小売業も同様の道筋を辿るとすれば今後は生協独自の魅力とはなりづらい。そこで第1に、生協独自の社会的存在が生み出しているともいえる組合員同士の交流や配達担当者とのやりとりの楽しさや接遇の好感度といったコミュニケーション面での魅力は、昨今失われつつあると言われているものの生協独自の価値となり得るはずだ。しかし、コミュニケーションを楽しさ・憩いといった情緒的価値のみからとらえるべきではない。2つめに、生協がもつコミュニケーションという資産を活用し、組合員同士や組合員と配達担当者が接する場に商品配達以外の面で対価を支払ってもよいと感じる機能的価値を組み込み、ビジネスモデルとすることが大切だ。そのためには、組合員のくらしをよく観察し、組合員とのコミュニケーションの中から価値を探っていくことが求められる。第3に、生協から伝えるメッセージのあり方も重要だ。例えば、共同購入の魅力として計画的購買による節約効果がしばしばあげられる。しかし単に「節約できますよ!!」ではなく、どのような商品を購入しメニューを組み立てれば、いくら節約できるのかということを具体的に提案せねば現代の消費者の心には響かない。情報技術を用いれば、多様なライフスタイルに応じた節約の効果もより具体的に提案可能であろう。他にも、週1回の配達が環境に優しい、日々の買い物計画の負担が少なくなるなど、今と同じ仕組みだとしても、やり方によってはまだまだ共同購入の魅力を創りだせる。
ネットスーパーと同じ土俵で競うのではなく、ネットスーパーが太刀打ちできない生協の独自性を活かした土俵を築くこと。食品の配達サービスに独自の付加価値をいかに付加するのかということを、生協が築いてきた資産を活かして早急に創り上げることが必要ではないか。