『協う』2009年2月号 書評1

書評
藤本篤志著 「御社のトップがダメな理由」

西山 実 (
生活協同組合コープしが理事長)


  アメリカ発金融危機が全世界に蔓延し、100年に1度の世界経済の危機と呼ばれている。 そのような中、これまでビジネス界でもてはやされていた 「成果主義」 などの新しい組織システムについて、異を唱える書物 「御社のトップがダメな理由」 が出版された。
  第2章、「日本的 『実力主義』 『成果主義』 がダメな理由」 では、実力主義、成果主義がいかに危険で会社を腐敗させてしまうかを投げかけている。 実力主義、成果主義は、人件費と人事という組織の根幹にかかわる要素を恣意的に動かしやすくする制度だという。 野心家で理屈付けの上手な人ほど、実力主義を利用する。 人間の実力を絶対的な数値で表す方法が確立されていない以上、好き嫌いなど、常にそれ以外の要素を加味して実力を推し量っているからである。 歴史的に見ても本当の実力主義は、年功という時間軸をも超越する実力を発揮した人だけに与えられていた。 今や新興企業の7~8割、上場企業の5割が実力主義を導入、特効薬よりも副作用が指摘され、これまで企業の築いてきた組織の根本に致命的なダメージを与えていると。
  第3章、360度評価の罪と罰では、新しい人事考課システムとして広がった360度評価について述べている。 1人の会社員を取り巻く業務上の関係者の多数による評価である。 上司、同僚、部下、取引先・・・。 本来、直属の上司が目の届かない部分の評価を部下に任せ、上司の人事評価を補助するためのシステムであり、欧米では部下からの評価は人事考課に反映させず、協調性の有無を確かめ、チームワーク業務に適しているかどうかを判断し、欠点に気づかせるためのシステムである。 正式なプログラムを精密に運用することが要求されており、中途半端な評価システムは、百害あって一利なしともいう。 同僚は嫉妬の目で評価し、部下は上司の仕事を判断できるほどの視点や情報を持ち合わせていないのだからと。
  第4章、「『フラット型組織』」 がダメ社長を作るでは、フラット型組織の弊害についてふれている。 役員や本部長が全ての業務に目を光らせ、口を出す。 知力・体力が他を圧倒して、優秀なトップが組織全体に檄を飛ばして、自分の思った通りに動かせる場合のみ有効。 しかし、中間管理職を任せられる人材が育たなくなり、経験豊かな次世代が育たない。 組織が20年・30年と存続するためには、構成員の入れ替わり、新陳代謝が必要。 企業の寿命30年説の大きな原因に、トップ交代の失敗による企業の終焉があげられる。 “民主的”に選ばれた社長が会社を滅ぼすと論じている。
  第5章、「民主的 『ボトムアップ主義』 の無責任」 では、多数決の欠点として、個人に責任が伴わないと役に立たないことをあげている。 会社・企業が“民主的な運営”に適さない組織だ、と。 2-6-2の法則があり、上位20人が優秀で、60人が標準、20人が不良である。 この中で民主的とは、標準を意味する。 企業トップは、明日を見る能力が必要。 今日のことは信頼する社員に任せること、と。
  最後の第6章、「組織の 『ダメ』 を排除するために」 では、日本企業発展の源泉は年功序列、終身雇用、企業内組合だという。 日本の労働生産性が先進国で最下位なのは、「私語」 が最大の原因、「島型」 のレイアウトが 「私語」 を促し、集中力が妨げられる。 机のレイアウトを変えるだけで、生産性が2割あがるとも指摘している。 そして“人事部の復権”として、採用から評価、異動のサイクルの中で会社の将来を担う人材を発見し、育成する役割を重視し、教育的見地からの人事異動をと説く。

 このようなビジネス書を読むとき、企業と協同組合を同じ目線で受け止めることに抵抗がある。 企業の理念と協同組合の理念が違うからである。 人と人とをつなぎ、民主的に運営し、利用者のくらしをよくする運動の部分をもつ協同組合にとって、著者が唱えている 「民主的社長は会社を滅ぼす」 には違和感を感じてしまう。 しかしながら、行きすぎた欧米の組織システムの導入という問題提起については、同感するところも多い。