『協う』2008年12月号 特集1
特集 揺れる大学、変わる大学生協
いま、大学が揺れている。 少子化と予算の削減を背景に、国公立大学の法人化や私立大学の定員割れが拡大し、大学間の提携・合併・吸収の動きが毎週のように報じられている。 競争がなく、ぬるま湯のようだとかつて批判されていた日本の各大学は、現在生き残りをかけて必死に競い合っているのである。
もちろん大学生協もそれに無縁ではいられない。 多くの大学では、「イメージアップ」 を図ろうと、ファストフード店やコンビニエンスストアなど外部業者の導入が相次いでいる。 そして一方では、学生生活における 「食」 と 「読書」 の貧困化が進み、そのことは、大学生協の事業にどのように影響しているのだろうか。
いまや競争社会の縮図ともなったキャンパスのなかで模索する大学生協。 本号はその特集である。
急激に変わる大学、その中での学生と大学生協
蓮見 澄(全国大学生活協同組合連合会広報・調査グループ グループリーダー)
4年前に国立大学に初めてコンビニが出店されて以来、大学内での競合状況が強まる中、少なくない方たちが、大学生協の経営が相当困難になってきているような印象を持っているようである。
ここでは、急激に進む大学改革とそれが与える大学生協への影響、そして学生の状況と意識も取り上げ、大学生協の現状と課題を明示したい。
1. 大学の変化と大学生協
国立大学が法人化され4年半が経過した。 今年は中期計画での目標に対して評価が行われ、今後新たな中期計画が策定される。
この法人化以後、大学にもたらされた大きな問題のひとつは、運営費交付金の削減による国立大学の財政の逼迫である。 特に地方の教育系の単科大学など、元々財政基盤が小さく、人件費などの固定比率が高い大学ほど、思い描く教育や研究環境を整えることが困難になってきている。
また、ここ1~2年でよく指摘されることは、国立大学間での 「格差の拡大」 である。 この格差は、元々積み重ねられてきた研究成果や資産の格差が、研究費における 「競争的資金」 の増大なども影響して、さらに広がりつつある。 また、企業からの外部資金の獲得も法人化以前の研究成果や地域特性により左右されている。
一方、特に私立大学にとって深刻な影響が出てきているのが、よく言われるように18歳人口の減少である。 これは、向こう10年は歯止めがかかるが、その後は再度減少に転じ、現在の120万人が2050年には60万人台になるとも予想されている。
現状でも私立大学の約半数は定員割れしているが、2020年以降は正に生き残れるかどうかの競争が予想されている。 各大学はそれをにらみつつ、この10年を改革と財政基盤強化の最後のチャンスと捉え、様々な施策を計画し実行しつつある。
そして、この国立大学の財政の窮迫と私学も含めた生き残りにかける財政基盤強化は、大学生協へ多大な影響を及ぼし始めている。
例えば店舗や食堂のリニューアルに当たって、生協にもある程度の負担を要請されるなど、大学からの寄付要請が増えてきている。 また、話題となっているコンビニなどの導入も、福利厚生施設の改善と共に大学の外部資金の獲得の一環として位置づけられているようである。 私立大学では、大学の子会社に福利厚生事業を委託するケースも出てきており、主に地方私立大学での定員割れは学生数の減少とそれに伴う生協利用の減少へとつながってきている。
一方では大学業務の生協へのアウトソーシングの拡大など、大学生協のビジネスチャンスにもなりうる面も出てきているが、総体的には大学生協経営にとって少なくない負担が生じかねない状況となっている。
次に、大学改革の中での学生の状況やその生活の一端を垣間みてみよう。
2. 学生生活の充実と大学生活
最初に表1を見て欲しい。 大学生協では毎年秋に、全国大学生協連を中心として、「学生の消費生活に関する実態調査」 (以下、学生生活実態調査) を行っている。 表1は、昨年の秋行われた第43回学生生活実態調査 (81大学生協が参加し、18,530人から協力を得た) の中の一項目で、学生に 「自分の大学が好きかどうか」 「自分の大学生活が充実しているか」 を聞いたものである。
「あなたの大学が好きか」 では、07年で 「好き」 「まあ好き」 を合わせると85.7%となり、まずまずの評価となっている。 しかも、90年から2000年まではむしろ下降気味で2000年には76.0%だったものが、03年82.6%、05年83.5%と、2000年代に入り確実に上がってきている。 「学生生活が充実しているか」 でも 「まあ」 を合わせると82.4%となっており、こちらも2000年には72.1%だったものが、03年79.1%、05年80.8%と上がってきている。
これらの数値の高まりは、18歳人口の減少や国立大学の法人化などを要因とした大学改革が進む中で、教育や学生サービスの改善が反映された数値ではないかと推測できる。
一方、学生自身はどのような意識で大学に通っているのであろうか? 表2は、 「大学生活をおくる中での学生自身の重点」 を聞いたものである。 07年は 「勉強第一」 24.2%、「ほどほど」 21.3%、「豊かな人間関係」 15.0%の三つが上位を占めた。 「ほどほど」 とは、「特に重点を決めずにほどほどに組み合わせる」 という選択肢である。
「勉強第一」 は98年にトップになり、それ以降は年々その比率を高めつつ第1位となってきた。 「勉強第一」 が伸び続けてきた背景には、90年代半ばから続いた就職難が大きく影響してきたと思われる。 しかし、ここ2年間での就職状況の好転を受け、学生の中にも自分の関心や趣味、あるいはサークルなどにエネルギーを費やすゆとりが生まれてきたと思われ、「ほどほど」 や 「サークル第一」 が増えてきている。
「豊かな人間関係」 は、80年 (34.7%)、90年 (24.1%)、2000年 (19.2%) と急落してきており、07年も1.9ポイント落としている。 今の学生は、常日頃小さなグループでまとまり、その他の人間関係に積極的にかかわり合っていくことには消極的であると思われる。 「協同組合」 である大学生協としては気になるところである。
気になる点ということでは、学生の生活費もあげられる。 表3は、一人暮らしをしている学生の 「1ヶ月の生活費」 である。 最上段の 「仕送り」 が07年79,930円となった。 実に20年振りに8万円を切ったのである。 また、表は掲載していないが、下宿生の仕送り額で、「ゼロ」 と答えた学生が、97年では1.9%だったものが、02年には5.5%に、そして07年は8.8%に及んだ。
仕送りゼロあるいは減額分を補っているのが奨学金とアルバイトである。 特にアルバイト収入は前年と比べ3,360円増加 (14.3%のアップ) しており、忙しい学生生活の中で、さらにアルバイトをせざるを得ない状況となってきている。
表には掲載していないが、「日常生活で気にかかっていること」 で 「生活費やお金」 をあげた学生が、前回と比べ41.5%から46.5%に上昇 (1年生は43.7%から51.6%) している。 調査時点では、好景気が喧伝されていたが、実は、社会的な経済格差の拡大により家からの収入は伸び悩み、経済的に苦しい学生が増えているのである。
3. 学生の生協利用の特徴と評価
以上のような大学の変化と学生の状況の中で、大学生協はどのような位置を占めているのであろう。 主に、大学生協の供給高に沿って見てみたい。
現在、全国大学生協連の会員数は228会員、その内事業連合や高等専門学校生協を除くと209生協となる。 日本には4年制大学だけでも765校あるので、生協がある大学は30%弱にとどまる。 しかし、国立大学の8割には存在し、生協のある私立大学は伝統のある大学が多い。 また、学生組合員数は113万人で、4年制大学の学生の約40%を占めている。 会員生協トータルの供給高は07年度で2,065億円となっている。
以前より、大学生協の供給高に占める新学期 (入学式前後) の構成比が高いことは認識されている。 表4は07年度の供給高のうち、3~4月の累計供給高がどの程度占めているかを示したものである。 合計では、06年度も07年度も27.1%となっており、約3分の1を占めている。 店舗ごとに見ると、食堂では14.6%と低いものの、購買店では27.1%となり、書籍店では35.2%に跳ね上がる。 分類別では、教材としても使用されるノートパソコンを含む 「情報器機 (ハード)」 が51.3%となっており、教科書を含んだ 「書籍」 そのものでは41.3%となっている。
新学期における新入生を中心とした生協の関わりはこれらの事業面に限ったことでなく、新入生歓迎会などでの 「友だちづくりの場」 の提供や、大学在学中の過ごし方を考えてもらう 「ビジョン・ナビ・セミナー」 など、先輩学生によるサポート面での貢献でも大きなものがある。 今や、地方国立大学の生協を中心に、新入生への 「住まい紹介」 や 「一人暮らし用品の購入」 に当たっては、生協職員と共に、学生アドバイザーが親身になって相談に乗り、その学生の条件にあったものを薦めている。 入学時でのこれらの結びつきが、大学時代の生協への印象や関わりを決定していると言っても過言ではない。
では、新学期以降の通常期の生協利用はどうだろうか。 97年度・02年度・07年度の供給高の主な分類別構成比は表5のようになっている。
書籍は約20%の構成比であるが、下降傾向であり、コンピュータ関連の器機が10年前は11.7%であったのに比べ、今や20%に近づき19.3%となっている。 また、パン弁当・食品 (お菓子など) ・飲料も7.4%から11.2%へと上昇している。 構成比の高い (26.4%) 「サービス」 は、「教習所」 や 「旅行」 が主な商品であるが、それらは減少しつつある。 食堂の 「イートイン」 は10年間で54億円増やしている。 金額こそ多くはないが、現在の1食あたりの平均単価は380円ほどなので、年間で約1,420万食、1日当たり (年間営業日を250日として) では5.7万食増やしてきている。
これら供給高の構成比とその推移から、大学生協が学生の 「学び」 と 「食」 を支えていることが理解していただけると思う。 書籍店舗計とコンピュータ関連を合わせると約40%となり、食堂とパン・弁当などを合わせると25.5%になるのである。
昨年全国大学生協連では、外部の企業に学生や教職員を対象に大学生協に関する調査を依頼した。 その中で印象的であったことは、各々の大学生協の評価は 「食」 の提供の満足度に比例しているとの結果であった。 おいしく、ゆっくりと、楽しく食事ができる環境を整えることが大学生協への満足度を押し上げるのである。
昨年の学生生活実態調査での大学生協への満足度 (「まあ」 を含め満足している) は、全国平均で79.7%であり、大学生協を 「好き」 ( 「まあ」 を含め) と答えた学生は、87.2%となっている。
4. 大学生協の状況と課題
冒頭に 「大学生協の経営が相当困難になってきているような印象を持たれているようである」 と記述した。 会員生協合計の累計剰余は、2000年度前後が25億円内外の赤字で、その後徐々に挽回し、07年度に約3億円の黒字とした。 国立大学が法人化され、コンビニが導入され始めた04年度以降も、単年度で毎年5億円前後の黒字を計上している。 損益的にはここ数年は会員生協の経営改善が進み、安定した経営を実現している。
また、大学生協は組織運営や諸活動ばかりでなく、事業面でも様々な形で学生の力を生かし、頼りにしている。 その中核となる生協の学生委員は、全国で7,000名を超えている。 自治会活動が衰退した今、学生団体としては有数の全国組織となり、先にあげた新学期時の活動ばかりでなく、「環境に関わる活動」 「平和を考える活動」 「食に関する活動」 「学生の病気・事故を防ぐ活動」 「学生中心の各種講座運営」 など活発に展開している。
一方、事業分野でも、2000年代に入って、"学生の学びと成長"をキーワードに、それまでの物品の販売や食事の提供などに加えて、「キャリア形成支援事業」 や 「就職 (活動) 支援」 が、事業の柱の一つに定着した。 この面では、「厚生労働省指定キャリア・コンサルタント能力評価試験」 に大学生協職員が81名合格しており、日本最大の専門家組織として厚労省からも期待されている。
以上のような前進面を持ちつつも、課題もまた山積みであることも事実である。
損益的には地域や会員ごとの格差が広がりつつあり、07年度単年度赤字の生協は、約2割となっている。 福利厚生施設の充実が大学の魅力に直結している中で、機敏にある程度の設備投資ができる経営体質に転換することが急務である。
大学改革の進展と大学の危機、大学社会の市場化による競合の強まり、物価上昇による損益悪化の懸念、生協法改正によって迫られる組織と事業の改変などの中で、特に重点とされる当面の大学生協と全国大学生協連の課題を、以下に列挙する。
1. 大学が国際間競争と淘汰の時代を迎えている中で、各大学生協が大学のビジョンに沿い、大学に協力し、事業と活動の両面で 「魅力ある大学」 に貢献していく。
2. 競合が強まる中で、競合他社とのサービスや価格競争にも優位に立つこと。 そのために、全国に10ある事業連合の機能を統合し、商品力、店舗力、人材開発などを強める。 当面隣接する地域での結集を進める。
3. 生協法改正に伴い、共済事業連合会 (仮) を設立し、また 「学生総合共済」 を短期 (1年) 共済に改め、保障を充実させつつ、09年度新入生の15万人加入を実現する。
4. 引き続き、新学期での新入生対応を強め、新入生が無難に大学生活をスタートできるようサポートをする。
5. 大学生協の 「学生委員会」 をはじめ、様々な学生や学生団体と連携し、「学生パワー」 により大学や社会への貢献を強める。
大学生協は、06年12月に 「社会的使命」 と 「ビジョンとアクションプラン」 を策定した。 この中で、大学生協は、グローバル化と社会格差が進む中で、「協同」 がそれに対抗する非常に重要なオルタナティブであることを示すこととした。
社会的には小さな組織ではあるが、大学の 「知」 も活用して、これから社会の中核を担う学生が 「協同」 に触れ、「協同」 の良さや価値を実感することによって、大学生協はグローバリズムに対抗する社会的影響力を発揮していくつもりである。