『協う』2008年10月号 視角


流通過程における「フード・マイレージ」表示を考える
中田 哲也(北陸農政局企画調整室長)

 
食料自給率40%(カロリーベース)と際立って低い日本人の食生活は、地球規模の資源や環境に深刻な影響や負荷を与えている。大量・長距離の食料輸入は、その輸送の過程で多くの二酸化炭素を排出しているのだ。
  食料輸送に伴う環境負荷を定量的に把握するために考案された指標が「フード・マイレージ」である。これは食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせたもので、例えば10tの食料を50km輸送した場合のフード・マイレージは10×50=500t・km(トン・キロメートル)となる。
  2001年における日本の食料輸入総量は約5800万トンで、これに輸送距離を乗じ累積した輸入食料のフード・マイレージの総量は約9千億t
・kmとなる。これは韓国・アメリカの約3倍、イギリス・ドイツの約5倍、フランスの約9倍と際立って大きい。また、日本のフード・マイレージの大きな部分は、食生活の変化により輸入が急増した飼料穀物や油糧種子が占めている。
  そして、輸入食料が日本の港に到着するまでに排出される二酸化炭素の量は約17百万トンと試算され、これは国内における食料輸送(輸入品の国内輸送分を含む。)に伴う排出量の約2倍に相当する。
  ところで近年、安心で新鮮な食品の入手、地域農業の活性化など消費者、生産者双方のニーズを反映し、「地産地消」の取組が盛んとなっている。
  熊本のある生協が主催した学習会の場で試食した地産地消弁当のフード・マイレージを計算し、仮に同じ食材を市場流通に委ねて調達した場合と比べると、地元の食材を使用することによりフード・マイレージは4%程度の水準にまで大幅に削減されていることが明らかとなった。つまり地産地消は、輸送に伴う環境負荷低減という面でも意義が大きい。
  さて、温室効果ガスの削減が喫緊の人類的な課題となっているなか、食品の流通過程でその環境負荷の大きさを分かりやすく伝えることは、消費者の地球環境問題への関心を高め、また、消費者が商品を選択する際の基準の一つとして有効と考えられる。
  ただしフード・マイレージは輸送部分のみに限定された指標であることに留意が必要だ。当然ながら食料はその生産、加工、包装、流通、消費、廃棄という各段階で二酸化炭素を排出している。このため、消費者が環境負荷の小さな食品を選択するためには、例えばLCA(ライフサイクルアセスメント)手法に基づき、トータルの二酸化炭素排出量(カーボンフットプリント)の表示が必要であり、現在、いくつかの企業等で取組が始められようとしている。
  しかしながら、カーボンフットプリントはその概念や計測方法が複雑で、一般消費者には直ちに理解しにくい面がある。それに対しフード・マイレージは概念、計算方法ともに分かりやすく、また、なるべく身近なところで採れたものを食べる(地産地消)という具体的な実践にも結びつけやすいという特長を有している。
  このようなことから、現在、いくつかの生協等ではフード・マイレージを商品に表示するといった先駆的な取組がみられるようになっている。例えば「大地を守る会」では、ホームページ等を活用した「フードマイレージ・キャンペーン」を積極的に展開するなかで、カタログ、請求書にポコ(1ポコは二酸化炭素100gに相当。)の表示を行っている。
  一方、消費者の立場からフード・マイレージを自ら計測し、環境負荷の小さな食品を選択するスキルを身につけようという自主的な取組も始まる。
  10月から熊本及び東京で「フード・マイレージ実践講座」が開催されることとなっており、筆者も具体的な計算方法を伝授させていただく予定である。
これらの取組を通じ、フード・マイレージという指標を意識する消費者が増えてくれば、環境負荷のより小さな食生活の実現に向けた一助となることが期待される。


(参考)
1)拙著「フード・マイレージ」(2007.9、日本評論社)
2)「フード・マイレージ実践講座」事務局

(連絡先) [熊本会場]北さん 090-3197-7273
      [東京会場]山内さん043-308-9707