『協う』2008年8月号 特集1

特集 都市社会における新しい「つながり」を考える

 さる6月28~29日にかけて、当研究所は第16回総会記念シンポジウムを開催した。シンポジウムでは、浜岡政好氏の基調講演のあと、3つの実践報告をもとに論議を行い、二場邦彦氏が総括コメントをした。翌29日は、シンポジウムの内容もうけて4つの分科会を開催した。
  本特集では、シンポジウムの成果を多角的に振り返る趣旨から、主催側として浜岡政好氏に、あらためてシンポジウムで深まったことを中心にまとめていただき、当研究所会員でもある山口浩平氏には、一参加者としての評価をいただくことにした。全体の詳細な内容については、本年9月発行予定の「報告集」をご欄いただきたい。

特集Ⅰ
都市社会における新しい「つながり」づくりと生協・協同組合の役割

-総会シンポジウムを振り返って-

浜岡政好(佛教大学・当研究所研究委員)

地域社会の変化から生協の事業や活動をみる
  くらしと協同の研究所はこの間、生協の事業や活動を振り返ってこれからの生協のあり方を探求してきた。そしてそれを総会シンポジウムで「進化する共同購入」「生協第二の創業」などとしてとりあげた。こうした生協内部における自己革新の動き・取り組みは、その基底において組合員のくらしや地域社会の変化に対応するものであろう。現在進められている生協の事業や活動の自己革新の動きや取り組みを地域社会の変化のなかにおいて捉え、それによって今日の地域社会における生協の位置と役割を明らかにしたいと考えた。
  昨年の総会シンポジウムでは、「地域社会と協同力~家族・コミュニティの今からくらしを考える」というテーマで、福井県民生協、京丹後市の「常吉村営百貨店」、生協しまねの「おたがいさま・いずも」などの取り組みの分析を通して、地域におけるくらしの変化に対応して生協や協同の事業や活動が切り拓いてきていることの意味を検討した。結果として、地方都市や農村部、そして日本海側の諸地域の事例になった。そこで今年は首都圏や中京圏など大都市における事例に焦点をあてて都市社会におけるくらしの変化のなかでの生協の位置や役割を明らかにし、昨年来のテーマをさらに深めたいと考えた。
  基調報告では都市社会の変容のなかで、社会的課題になってきている新しい「つながり」づくりにおける生協の役割を取り上げた。「高度成長」期以降の生協の成長と定着の背景には都市社会化があり、生協は郊外を中心とした新しい住民たちのくらしを支え、新しい「つながり」を創ってきた。しかし、今、都市社会は縮小期に入り、とりわけ生協が大きな役割を発揮してきた都市社会は郊外を中心に急速に高齢化し、衰退している。少子高齢化や個人化、異質化の進行のなかで、都市社会における「つながり」づくりは、これまでにない難しさを抱えている。生協は都市社会における性や年齢、職業、ライフスタイルなどを異にし、個人化し、異質化した人びとのくらしをどのように支えることができるのか、また多様な人びとをどのように「つなぐ」ことができるのか。「生協第二の創業」はこうした課題への挑戦のなかで創られてくるのではないか。

「高度成長」は人びとの「つながり」方をどう変えたか
  「高度成長」期以降のくらしの長期的な変化は、生活の個人化、流動化、生活関係の希薄化、生活の都市化、社会化、貧困化と不安定化などとして描くことができる。1950年代後半から1960年代を通じて、全国の農山漁村や地方小都市から若年者を中心に大量の人口が大都市圏へと呼び寄せられた。都市社会で形成された戦後型の生活様式は、小さな家族を単位にして、血縁や地縁などの共同体に依存しないくらし方であったが、その分だけ商品化されたモノやサービスや行政等により供給される公共サービスへ依存するものであった。しかし、公共的な生活インフラ整備の遅れや商品化の肥大などによって小家族は「新しい貧困」と呼ばれる生活困難に遭遇することになった。
  また都市社会は郊外住宅地域などでそれまでの共同体とは異なる新しいつながり方を生み出した。それは学校や職場、仕事、趣味、子育て、生協、信仰など選択的な「つながり」を通じての共同関係の形成である。たとえば、近隣関係や地域の社会関係を前提にして子どもが地域社会の一員として育っていくのではなく、逆に「つきあいの始まりは子ども」といわれるように子どもの遊び仲間の関係が親同士のつきあいの絆となるのである。生協の班も主婦たちの「地域に実質的なつながりをつくる新しい形として注目」された。(定村忠士「地域のなかで」、高度成長を考える会編『高度成長と日本人 家族の生活の物語』日本エディタースクール出版部、1985年)
  こうした新しい「つながり」方は多数を占める雇用労働者や都市住民のくらし方の流動性・不安定性を反映して、その形成や維持は構造的な困難を伴っていた。加えて住宅政策の貧困による頻繁な転居や職住分離のくらし方の広がりとその遠隔化などは、居住地における地縁的な「つながり」をつくることを難しくしていた。学校や職場、居住地などの生活環境が変化するたびに、絶えず関係をつくり続ける必要があった。孤立しないためには新しい環境で積極的に新規の関係性をつくる個人的な努力が求められる。共同体のように集団への帰属によって、個々人の安心や安全が保障される社会から、個人を単位として信頼をつくっていくネットワーク社会へと転換したのである。

都市社会のくらしの今、その特徴
  さて、都市社会のくらしの今はどうなっているであろうか。第1は、くらしの個人化・流動化が消費の面でも、家庭生活でも、職場における仕事の仕方でも、地域社会での関わり方でも一段と進んでいることである。第2は、大都市地域が急激に少子高齢化していることである。「郊外化の終焉と都心回帰」といわれるように、大都市圏郊外での高齢化と衰退が目立ってきている。第3は、「構造改革」政策下で公共サービスの縮小と民営化が進められ、その結果、モノ、サービス、セーフティネットなどの「商品化」が促進されたことである。こうしたなかで住宅、教育、医療、交通・通信など公共サービスへの依存度の高い都市生活のコストはいっそう増大した。
  第4は、セーフティネットの縮小によって勤労者のくらしの格差や貧困が拡大・固定化し、都市住民の下層には膨大なワーキングプアや働けない貧困者が堆積してきていることである。貧困の広がりのなかで、それに社会的に対応するのではなく個人のリスクマネジメントの失敗など「個人問題」視する傾向や、治安対策に結びつける動きも強まっている。第5は、上記のようなくらしの個人化・流動化、少子・高齢化、貧困化そして生活困難の自己責任の強まりのなかで、人びとの「つながり」づくりがこれまで以上に難しくなり、孤立化が進んできていることである。国が「つながり」づくりを重要な政策課題としてきているのもこうした状況の反映であろう。(『国民生活白書-つながりが築くゆたかな国民生活-』平成19年版)

新しい「つながり」づくりと生協の位置
  こうした都市地域におけるくらしの状況は、「つながり」づくりに極めて今日的な意味を付与している。すなわち、都市地域は個人化・流動化など上に述べたような状況が人びとの孤立化や無力化、社会的排除と結びつきやすい環境にある。そしてこうした状況の広がりが、地域社会の安全や安心を脅かしている。そのため新たな「つながり」をつくることで地域社会におけるセーフティ・ネットを再構築する必要が生まれているのである。これには2つの面からの「つながり」づくりが求められている。1つは都市社会のくらしの変化に対応した新しい生活支援の事業や活動をネットワーク化すること、すなわち、事業や活動をつなぎ、一人ひとりに総合的にモノやサービスを提供することによって個人化・流動化・孤立化しつつあるくらしを支えることである。2つは都市社会における社会的孤立や社会的排除を防ぐために、直接人と人とをつなぐことである。異質な他者とのつながりや開かれた関係性を広げることによって地域社会の信頼感が醸成される。3つは、対等・平等の新しい「つながり」方が求められていることである。このような「つながり」方が地域社会のなかに広がることによってまちづくりの担い手がつくられる。
  人の組織であり、また事業や活動を通して地域の人びとのくらしを支援してきた生活協同組合は、都市社会の「つながり」づくりにおいて独自の位置と役割をもってきた。その1つは協同・参加によって地域社会の生活インフラの一部をつくってきたことである。食を中心とする生活材の購買システムの構築や介護・医療・福祉サービス、住宅その他の社会サービスの提供など地域のくらしに必要な生活インフラを地域の人びとがつながることによってつくりだし、維持してきた。この協同・参加による生活インフラの整備をバージョンアップさせ、生協内部や協同組合間の事業や活動のつながりの強化だけでなく、生協以外の地域におけるさまざまな事業体・活動体などをつなぎ、個人化、流動化、孤立化するくらしへの支援力を引き上げることが求められている。
  その2は、協同・参加による地域社会における直接的な人と人との「つながり」づくりである。生協の歴史は仲間づくりや班活動など「つながり」づくりの歴史でもあった。生協の「つながり」方の特徴は、前述のように選択的な「つながり」を通じての自主的で対等・平等な共同関係の形成にある。血縁や地縁による共同体型の「つながり」方と違って一定の目的や関心を共有する自立した者の同士の「つながり」であり、地縁等を超える良さがある。そのため共同体型の関係性が取りこぼしがちな、地域社会のマイノリティへの共感や支援をつくりやすい。またミッションを共有する者による利他的活動としてのNPOなどと異なって、生協の事業や活動は基本的に共助であることから、共同体による「相互扶助」とは異なる「相互扶助」関係をつくることができる。このように生協の「つながり」づくりは地縁型のつながり方、NPO型のつながり方と補完関係にある。

生協などによる都市社会での
「つながり」づくりの取り組み
  都市社会のくらしの変化に対応するために、生協などはどのような事業や活動を展開しているであろうか。総会記念シンポジウムで、向井忍氏(めいきん生協常務理事)はめいきん生協が呼びかけて2007年から始まった「安心して暮らせるネットワーク」づくりの取り組みのなかで、愛知県内の暮らしに関わる生協や社会福祉法人、NPO、企業、専門家など60近い団体が事業や活動をつなぎ、地域の安心をつくりだしていることを豊富な事例をもとに報告した。注目されるのは地域のなかに事業者などの安心の担い手を新たに作ったり、つなぐだけでなく、人びとがつながるための拠点を増やすなかで、都市社会の内部に「新しいつながり」を確実に広げていることである。
  中村八重子氏(南医療生協常務理事)からはこの間、南医療生協で取り組まれている「いっぷく運動」(1支部1福祉運動)や「生協ゆうゆう村づくり」(小規模多機能福祉村づくり)、「いちぶいっかい運動」(1ブロック1介護福祉事業)など組合員を中心に進められている介護福祉事業づくりの経験が報告された。支部の組合員が小中学校区など顔の見える地域を舞台にサロンなど人のたまり場をつくり、そこに集う人びとの声や力に依拠した安心して暮らすまちづくりが特徴である。星崎地域での「いっぷく運動」から生まれたヘルパーステーションづくりは、民家改装のグループホーム「なも」づくりや、「生協ゆうゆう村づくり」(グループホーム、ショートスティ、デイサービス、多世代共生住宅など)、小規模多機能ホーム「もうやいこ」開設へと発展している。
  茨城県ひたちなか市のNPO「くらし協同館なかよし」理事長の塚越敎子氏からは、生協店舗が撤退した高齢化の進んだ新興住宅地域において、高齢者たちの「健康の維持と介護予防」、住民の「ふれあい、生きがい、支えあい」、「地域産業の支援と食の安全」のために旧生協店舗を借り受けて改装し、組合員など住民の力と生協の支援でNPOを設立して、多彩な事業や活動を展開している取り組みが紹介された。2005年にオープンした「くらし協同館なかよし」では、野菜や食料品の販売、食事・喫茶の営業、学習・趣味活動支援、子育て支援、生活サポート、各種交流などの事業や活動が7チーム約80人のボランティアに支えられて行われている。こうした事業や活動によって人びとがつながり、元気になり、高齢化した町で住み続けられる希望を創りだしてきている。
  2日目の分科会での取り組み報告を含めて改めて強く感じたのは、「高度成長」期以降に生協が地域社会のなかに蓄積してきた生活インフラとしての社会資本の大きさと生協の事業や活動を通じて生み出してきた信頼という社会関係資本の大きさである。この2つのソーシャル・キャピタルを自覚的に積極的に活かすことができれば、都市社会における新しい「つながり」づくりは大いに前進するという確信を深めることができた。3つの事例を「つながり」づくりという視点からみると、いずれも生協のソーシャル・キャピタルを活かして、①地域のくらしを支えるために生協内外の事業や活動をつなぐこと、②地域における個人と個人やグループの間をつなぐための居場所づくりとつながりづくり、③つながる力を学び、身につけることを応援すること、④つながった力をまちづくりに活かすことなどに成功しており、「生協第二の創業」を切り拓きつつあるとの思いをもった。

くらしの変化に対応して生協の事業や活動を革新するために
  シンポジウムの総括コメントを行った二場邦彦氏(立命館大学名誉教授)は、基調報告や3つの事例報告をふまえて、今日の地域社会が求めている課題に生協が応えていくためには、3つの課題があることを指摘した。第1には、地域のくらしのなかに起こっている問題や生協として取り組むべき課題を理事全員が共有すること、その上で具体性をもった推進計画として理事会で審議・決定することである。そしてそのためには購買事業を主としている生協であっても、組合員の相談にあらわれているくらしを全面的に深く把握することから始めなければならないとする。
  第2に、購買生協で取り組まれている福祉事業や活動における事業活動と組合員活動との一体化の課題である。現在の福祉事業・活動は職員を中心に行われている事業活動と組合員の自主活動が有機的に結びついておらず、生協で行う福祉事業・活動として十分に力が発揮できていない。購買生協が一体的に事業と組合員活動を進めるには克服しなければならない問題がある。すなわち、流通における規模のメリットやシステムの高度化などで事業における組合員活動の有効性が低下し、その役割が「従」の立場になっていることである。福祉などサービス分野での事業や活動を成功させるには組合員活動に対する従来の発想を転換する必要がある。
  第3は、生協が地域に開かれた事業や活動を行うことや地域との連携のもっている今日的意味を自覚することである。生協の多くが地域との連携に取り組んでいるにもかかわらず、外部に対して閉鎖的な印象を与えている。そしてそれは仲間との協力や仲間を増やすことを重視する協同組合という互助組織に由来していると思われるが、社会的認知を得た成熟期の生協においては「性格の異なる外部の組織と協力することを、内部での団結と同じくらいの比重で考えなければいけない段階」に来ており、この点でも発想の転換が求められている。こうした二場邦彦氏の指摘は、くらしや地域社会の変化に対応して生協の事業や活動を自己革新する場合に押さえておかなければならない課題である。
  昨年の総会シンポジウムから2回にわたって行われた、地域社会のくらしの変化から生協などの協同力の現状と可能性を探る共同研究は、今回の都市社会編をもって一区切りすることになる。残された研究上、実践上の課題はたくさんある。「おしゃべりパーティ」の広がりに触発された家族についての調査研究などもまだ緒についたばかりである。「地域社会」と「くらし」と「協同力」に関する当研究所の地道な調査研究はこれからも継続する。最後にこの2年間、お忙しいなか調査研究にご協力いただいた多くの生協やNPO、社会福祉法人、住民団体、行政のみなさん、そして酷暑の京都までお越し頂いてシンポジウムでご報告された方々にお礼を申し上げ心から感謝したい。


(はまおか まさよし)