『協う』2008年6月号 視角

大学生協で「朝食」
-朝食からはじまる大学生活を!-


小暮 宣雄


大学生はどんな食生活をしているのだろうか。とりわけ1限目のあの眠そうな、だるそうな、机に倒れこむ姿を見ると、朝食を取っていないのだろうなと容易に想像がつく。夜更かし、アルバイト、朝の化粧・・そこに朝食の時間の余地はなかなか見当たらない、まして、手作りの和食などは夢物語かも知れない。
朝食からはじまる大学生活を!この数年、朝食抜き問題は、京都橘大学の学生生活面において特に気になるテーマの一つになった。もちろん、食生活だけに限っても、下宿生向けのバランスのいい夕食もいるだろうし、自炊のための料理教室も必要だろう。2005年度の男女共学化・3学部体制における学生数増加、それに伴うランチ混雑の解消が緊急問題であったが、ようやく、混雑解消のための第2食堂、名づけてクリスタルカフェ(CCと以下略)が今年3月にオープンし、そちらのほうは当面大丈夫になった。
ということで、第1食堂から移った店長のもと、5月からこのCCにおいて朝食提供を行うことになった。それも「100円」という低価格、8時から9時半まで。1限目の始まりが9時なので、1限目の前にきちんと朝食がすませる時間帯だ。学生のアルバイトも早起きして店長を助けている。内容はご飯(オプションのリゾットやおかゆなどもありお替りも2回まで可能)、味噌汁などのスープ(味噌汁の味噌もいろいろ変え、風土や文化の違いを知ってもらおうと店長は考えている)、近所の農家から購入する野菜(90%が地元産)、スタッフのお父さんがつけているお新香、そして、メインのチキンなどの肉類か魚の一品に豆腐などもつく。どう見積もっても350円ぐらいが組合員価格だという。なかなか学生が取ることのできない青菜は、塩茹バージョンもあって、これは店長が野菜本来の味を知ってほしいということで置かれている。
私も数度、このCC朝食を試してみた。男子学生の姿が目につく。ご飯を2回お替りしていて一度はお釜が空っぽになった。他学部の先生も利用していただいて、日ごろなかなか話せない会話を交わしたりもした。この100円朝食はさっそく地元新聞に載り、朝のラジオ番組で店長が電話出演もした。現在(5/27)で朝食利用者は76名。徐々に利用者は増える傾向にはあるが、学生たちに朝食を取る習慣が定着するのにはまだ時間がかかりそうだ。
他方、授業に「朝食」を取り入れる動きも少しずつ始まっている。演習授業では、学生たちが互いに発表しあうことが多いが、その教材は通常は本か新聞記事などである。それが、一緒にテーブルを囲んで味わう朝食が素材になるところに新鮮さを感じたりもする。朝食という具体的な教材から出発して、食育、食文化、食にまつわる家族、地域、観光、経済、学校・保育・福祉現場、そして自給率や世界の食料事情へ。その演習テーマは思いのほか大きい。
私の授業「自分探しの旅」でも、「食と私(たち)」というテーマで朝食後に話し合う機会をもった。出雲出身の者はソバの本当の美味しさを語り、静岡の学生はハンペンの郷土食のすごさを伝える。食文化は学生自身のアイデンティティの確認の要素である。また、好き嫌いから自分史を語る学生もけっこういた。肉が食べられない学生の給食苦労話。そもそもどうして肉が食べられなくなったのかの幼児体験。自分が他の生物を摂取して生きていくことは当たり前のようでかなりすごいことなのだという思いが具体的に共有されてくる。自宅男子学生が、家族の食事を工夫して作っている話には心打たれた。なるほど、いまの家族の問題、それへの配意、ケアとは何かを考えるとき、共に食事をすること、食事を作り片付けあうことの大切さに気づく・・・とても貴重な時間であった。
はじまったばかりではあるが、学生たちや教職員が朝食を一緒に食べる空間が学内に出来たことの意味は大きい。その意義を、学生はもとより大学当局にもよりアピールし、朝食を食べて授業を受ける習慣が、学生の健康と修学に共に貢献することを長い目でみながら明らかにしていければ、と思っている。 

こぐれ のぶお
京都橘学園生活協同組合理事長・京都橘大学現代ビジネス学部都市環境デザイン学科教授