『協う』2008年6月号 生協の人・生協のモノ


エネルギーをもらうのは組合員から
~ミックスキャロット生みの親・兼子厚之さん~

近藤 泉(『協う』編集委員・生活協同組合ならコープ組合員)

あのミックスキャロットをつくった人
  名古屋の地下鉄東山線本山駅から歩いて5分にある「地域と協同の研究センター」に、元日本生協連の兼子厚之氏をたずねた。
  兼子さんは27年前にミックスキャロットジュースを開発した人だ。その当時は、ジュースといえば野菜汁か果汁かのどちらかしかなかった。そのようななかで、子どものニンジン嫌いを克服するために、ニンジンに果物を加えて飲みやすくしたミックスキャロットを開発したことで、新たな混合飲料の消費市場が日本に生まれたのである。このようなニンジン入りの混合飲料が一般市場にも普及するのは、ミックスキャロットの発売から10年後のことだ。
  全国の生協では、年に数回、商品普及活動をするが、その商品は今でもミックスキャロットだという。いまやコープ商品の代名詞であり、新たな市場を開拓したミックスキャロットであるが、その開発について、当事者の兼子さんに聞いてみた。

ミックスキャロット開発の4つの動機
  兼子さんは「生協は、組合員の願いをかなえ、社会の要請に応え、カタチにする、価値創造する組織だ」という。その考えのもとに、ミックスキャロットを開発した「4つの動機」を語っていただいた。
  第一の動機は、私的な「くらしの願い」を「カタチ」にしたいという思いだったという。子どもたちの「ニンジン嫌い」を克服するための妻の努力と思いを見聞きして、「なんとかカタチにできないものか」と思った兼子さんは、「ニンジン嫌いの原因は、カロティン由来の微妙な硫黄臭にあり、それは食体験を積み重ねることで克服できる」という確信をもった。ミックスキャロットは、その確信がカタチとなった商品なのである。
  二つめの動機は、大人向けの飲料と子ども向けの飲料をつくりたいということ。当時は、生協でも他企業でも、ジュースの売れ行きが頭打ちの状態だった。しかし、これからは「健康志向と多様化の時代」であると予測した兼子さんは、ライフステージ別の品揃えを伸ばしていきたいと考え、ミックスキャロットを開発したのである。
  三つめの動機は、どこにもないような商品をつくりたいという思い。当時は所得が伸び、団塊ジュニア世代が成長期をむかえることで、消費の拡大が見込まれていたが、「生協は組合員が満たされないものを価値創造する組織だ」という兼子さんの生協観がそこに結びつき、どこにもない混合飲料ミックスキャロットが誕生したのである。
  最後の動機は、業界の常識を変えたい、ということ。ミックスキャロットの開発によって、「消費と生産をつなぐ」関係をつくりたかった、と兼子さんはいう。

ミックスキャロットが支持された訳?

  ミックスキャロットの販売について、生協は当初、年30万ケースという計画を3年目で実現すればよいと考えていた。しかし実際には、発売5年にして売り上げは当初の計画の10倍に達したという。これほどまでに大きく伸びた要因は何なのだろうか?筆者はその疑問を、生協活動の先輩にぶつけてみた。
  "あのころ『暮らしの手帖』に、1杯のジュースには大さじ4杯の砂糖が使われているという写真が載っていた。それで、こんなものわが子に飲ませられへんと思ったの…。"ミックスキャロットが登場したのは、そんなときだった。
  "日生協がとりくんだ組合員の1000人アンケートでも、7割が子どものニンジン嫌いをなおしたいという思いを抱いていた。その思いが「子どもが飲みやすい味で、品質が良くて、手ごろな価格」というミックスキャロットのコンセプトとぴったしで、「これや~」と思ったの。いろいろなつどいの場で、クイズとかで楽しく工夫して調理法などを知らせあう。そんな風潮が職員さんとの協力の中で育まれてきたんだよね・・・。"先輩はそう語ってくれた。

今、大切にしたいこと

「安全と信頼」のCOOP商品で、産地偽装や中毒事故が続発した。食の安全を確保するために、生協は他社まかせにせずに取引先に自ら出向き、安全を確認してほしい、国や他企業と連携してセーフテイネットを構築してほしい、と思う。
「おいしかったよ!ありがとう」の声を生産者に届けるのが、生協の大切な仕事だと兼子さんは強調した。そうやって「食べ手と作り手の思いを伝え合えば、互いに価値と喜びを享受しあう信頼関係ができます」というのである。大きくなった生協だからこそ、忘れてはいけない言葉だと受け止めたい。