『協う』2008年6月号 ブックレビュー2

長尾 弥生 著
「フェアトレードの時代」
安田 則子 おおさかパルコープ組合員・『協う』編集委員

 フェアトレード…知ってる人は知っている、知らない人は…何?では良く知ってると言う人は自らどんなかかわり方、行動してるの?本書を読み進めているうちに思わず自分につっこみたくなるほど、筆者自身知ってるつもりで随分知らない事だらけ、行動さえもしていなかった。言い訳ではないが、日本では市場でも、生活の中でも、フェアドレードはまだまだメジャーではないのだ。
  ぜひ筆者の様な初心者には本書を読まれる事をお勧めする。
  海外生活の経験が豊富で、企業での就労やボランティア等々グローバルな視点を身につけた女性である著者の長尾弥生氏は、国際協力NGO勤務の一方でフリーライターもこなす才女(?)に違いないが、本書は決して堅苦しくなく、フェアトレードの意味、概念、歴史、組織、現状が解りやすく記されており、著者のレポートとあわせ、日本や海外でのフェアトレードの活動が紹介されている。
  本書からは、消費者、運動団体、行政 企業、事業者…様々な立場から、自らに何らかのヒントが見えてくるのでは?と思う。
  食糧をはじめとして今や諸外国との関係なくしてはくらしが成り立たなくなっている現在、本書ではまず、私たちのくらしと直結している国際貿易のあり様から先進国と途上国との格差、力関係などを指摘している。くらしを良くするための貿易が、一方では普通の暮らしを奪っている。この格差から「フェアトレード」の発想の原点が見えてくるのだという。著者の豊富な経験から、長尾氏自身も一方的な上からの目線の支援ではなく、フェア(公正)な関係づくりを追求されているのだろうと想像する。
  第3章は、Q&A式で記されており、フェアトレード入門とばかりに解り易い!そこで「売り手よし買い手よし、世間よし」という近江の商道徳が紹介されているように、日本にもフェアな考えは根づいているはずだが?と興味深い。 第4章からはフェアトレードの歴史と意味深さ、重要性を学ぶことになる。「IFAT(国際フェアトレード連盟)」が掲げる基準が記されているが、「対話と透明性・お互いの敬意に基づいたパートナーシップ」の理念の上に成り立つ基準、筆者には、そこに生協事業(産直活動)の考えが重なる。第二次世界大戦後、アメリカでチャリティー的要素で始まった取り組みはその後イギリス、オランダを中心にヨーロッパで発展し、現在の形に変遷したらしい。
  世界中には数多くNGOや取り扱い団体が存在し、経済優先の自由貿易の世界の中で、途上国の人々の生活向上を目指すオルタナティブ貿易が変化、成長、発展してきた。それは今や時代のものとなりつつあると言う。
  不徳ながら筆者の日常の行動の中にフェアトレード商品を優先するということは出来ていない。技術支援も多額の募金も無理ないち消費者としてできる国際的支援、社会的貢献がフェアトレードなのだろう。消費行動の選択肢のひとつとしてフェアトレード商品を身近なものとする事に意味が在りそうだ。いち個人だけでなく、国家、行政、企業…そこにはすでに役割があるといえる。
  第5章では1970年代ごろから始まったとされ、フェアトレードを広めてきた人々や団体の日本での活動(取り組み)が紹介されている。その一つ、一橋大学での活動は学生らしく、活気あるもので、大学と町(国立市)が一体となった「フェアトレードタウン」構想に挑戦したものでなかなかいい。他の方々(組織)も、それぞれこだわりや、特色を持って進められ、また一方で、買うことだけでは問題解決とはならない現実にも向き合っていることにも奥深さを感じる。
  商品を中心に、作る側の責任、供給する側の責任があり、そして買う側の責任として、適正価格とそこにある背景を十分理解し、買い支えつづける必要性がある。互いのくらしを支えるものであり、顔が見えるコミュニケーションのある関係は、生活協同組合の事業と大いに共通するものである。2つの生協の取り組みが紹介されているが、まさしくフェアトレードは生協運動に通ずるものであり、生協らしい国際貢献なのだろう。注釈も丁寧に加えられ、より理解し易い内容になっている。最後の章では、イギリス生協をはじめ世界の動きもレポートとして纏められている。   
       (やすだ のりこ)