『協う』2008年6月号 ブックレビュー1
西川潤・生活経済政策研究所 編著
「連帯経済――グローバリゼーションへの対応」
富沢 賢治 聖学院大学大学院教授
本書は「連帯経済」という新しい理論枠組みを提供することにより、今日の社会運動のあり方に大きな示唆を与える知的興奮に満ちた良書である。
協同組合に関する論稿としては栗本昭「協同組合の連帯経済へのアプローチ」がある。栗本氏によれば「社会経済のグローバル化、情報通信革命が進む中で、協同組合は生き残りのための競争に巻き込まれ、ますます営利企業と同様の行動をとるようになり(同質化)、協同組合らしさを失いつつある(アイデンティティの危機)」。では、協同組合は今何をなすべきか。連帯経済の担い手として自己を革新して連帯経済の実現に取組むべきだ。これが栗本氏の結論である。
本書は全体として、この結論を説得力あるものとしている。
連帯経済とは何か。序章の西川潤「連帯経済――概念と政策」によれば、「今日では、巨大な国家権力、多国籍企業の経済権力の発達がグローバリゼーションを推進している事態に際して、市民社会を中心として、資本主義システムそれ自体を変容させ、新しく社会的連帯、世代的連帯という水平的・歴史的な倫理的要因をシステムに導入することによって、資本主義システムの行き詰まりの出口を見出そうとする動きが強まっている」。
「連帯経済」は「社会的経済」の一つの発展形態である。西川氏によれば、「社会的経済」が「国内の社会問題を解決するための非営利社会組織」を重視するのに対して、「連帯経済」は、「グローバル・レベルで市場の失敗を是正し、新しいマクロ・レベルの経済システムを構築していこうとする運動」であり、「国内、国際両面で、公共政策強化の必然性を主張し、自ら非営利市民・地域活動を展開すると同時に、単なる市場経済化とは異なる、政府―市場―市民社会の三者連携、相互監視、相互交流に基づく多元的な連帯経済レジームを提唱」するものである。
西川氏の総論を基盤として本書は、8つの各論を展開する。第1章から第6章は、連帯経済の国内面を、第7章と第8章は国際面を分析している。
第1章、宮本太郎「福祉国家転換とソーシャル・ガバナンス――所得保障から参加保障へ」は、非営利・協同セクターを積極的に組み込んだポスト福祉国家の統治(ソーシャル・ガバナンス)の現状と課題を考察している。とりわけ、国家の福祉政策の力点が、所得保障から住民参加の保障へと移行しつつある現実とその論理が緻密に分析されている。
第2章、北島健一「連帯経済論の展開方向――就労支援組織からハイブリッド化経済へ」は、フランスでの連帯経済の具体的展開(とりわけ、就労支援活動などを積極的に行う非営利・協同組織の発展を土台として、非営利・協同組織と行政と営利企業とのハイブリッド化「連帯経済化」が進展しつつある状況)を分析している。
第3章、重頭ユカリ「ヨーロッパにおける連帯ファイナンス」は、非営利・協同組織のための金融業務を担う連帯ファイナンスの発展の具体例(イタリア、オランダ、フランスなど)を詳細に分析し、「日本への示唆」を論じている。
第4章、浜岡誠「地域協働とコミュニティ・ビジネスの発展――行政とNPO間の連帯」は、日本におけるコミュニティ・ビジネスの展開状況を考察し、地域協働型経済の可能性を考察している。
第5章、成川秀明「『企業の社会的責任』(CSR)とステークホルダー参加、社会連帯政策」は、企業の社会的責任と連帯経済との関連を論じている。
第6章は、前述の栗本氏の論稿「協同組合の連帯経済へのアプローチ」である。
第7章、西川潤「連帯経済の国際的側面」は、連帯経済の国際的展開を克明に分析、その実践が人間中心型の社会発展をはかる活動であることを明らかにしている。
第8章、羽後静子「グローバル・フェミニズムと連帯経済」は、男女平等を求める国際的な活動を分析して、男女平等の実現が経済正義、連帯の実現につながることを論じている。
本書から示唆を受ける点は多々ある。協同組合の活動家を始め社会運動に関心をもつ全ての人に読んでいただきたい本である。(とみざわ けんじ)