『協う』2008年4月号 特集1
特 集 インターネット社会に求められる生協のホームページ
玉置 了 (近畿大学経営学部講師 当研究所研究委員)
現在、ほとんどの生協がインターネット上にホームページを開設しているであろう。生協のホームページは組合員に対して利用前の商品情報や注文の手段を提供するだけでなく、商品を使うことの楽しさや、組合員と生協そして組合員同士の共感や心的な繋がり、さらには新たな協同までも生み出す。また、今後社会的な役割がますます重要となる生協にとって、ホームページは社会に生協が持つ価値をアピールするメディアともなる。そのような中で、今日の生協はインターネットのもつ可能性を充分に生かし切れているであろうか。本特集にあたり、組合員による座談会とパルシステム連合会へのインタビューを行った。そこから生協のホームページの今と今後のあり方について考えてみたい。
インターネット社会における生協
インターネットの普及率は約8割…しかし
「インターネット」 という言葉はもうすでに社会に定着したようだ。言葉だけではない、財団法人インターネット協会による 『インターネット白書』 (インプレス社刊) によると2007年3月の調査で, 自宅・勤務先・学校・外出先などでPCや携帯電話を用いてインターネットを利用している人がいる世帯は83.3%あり、 自宅のPCやゲーム機などからインターネットを利用している世帯は64%とインターネットは実際の生活にも着実に普及しているようだ。確かに、これだけの普及率であっても誰しもが日常生活でインターネットを積極的に用いているわけではない。周囲を見わたすと、パソコンにインターネットは繋がっているけれどもそう頻繁に使わない、携帯にネット機能はついているけど、メール以外は全く使わないという人々も多くいるのではないだろうか。コープきんき7生協の組合員をみても、「eフレンズ」 の登録組合員は約18万人で共同購入組合員数の19.7%となっており、8割のネット普及率にしては紙による注文がまだまだ多い。普及はしているけれども充分に活用の余地のある存在、それがインターネットである。
生協はインターネットを充分に活かせている?
この 『協う』 では過去3回生協のインターネットの問題を取りあげてきた。2000年10月号では、ITによる組合員情報の活用とコミュニケーションの場としての可能性を述べ、2002年4月号では生協のホームページを取りあげ組合員による品評会をおこなった。また2002年12月号では、インターネットと商品事業、ネット上のコミュニティと生協について検討した。そこでは、インターネットが、商品事業を進化させるメディアとしてだけでなく、組合員の生活をより豊かにし、また社会的貢献を実現するための情報発信メディアとして、さらに生協と組合員、また組合員間の共感や協同を生むメディアとしての役割を持つことを指摘してきた。詳しくは研究所のホームページに過去の記事が掲載されているのでそちらもご覧頂きたい。
最後の特集から5年が過ぎた今の生協のホームページをみると、確かにデザインは美しくなったし内容も増えてはきている。しかし、生協に関わる多くの人々が注文手段としてネットを頻繁に活用することはあっても、生協のホームページを楽しんで読み、生活に役立てているという人は少数派ではなかろうか。
過去3度の特集でも触れてきたように、インターネットのホームページには、我々の生活の問題解決に役立ち、さらに生協のことを社会にアピールしたり、生協・組合員・社会との間に共感や協同を生み出すという可能性がある。しかし、生協また組合員も未だその潜在能力を活かし切れているのかというとそうは言えないのではないか。
そこで、本特集では組合員にとって魅力あるホームページとは?生協に求められるホームページとはいかなるものかということを改めて考えてみたい。その手がかりとして、生協のホームページの主な利用者である組合員を中心とした座談会を開き、その実感を語っていただいた。本紙では紙幅の都合上、参加者の発言をそのまま掲載することは難しい。そのため座談会の内容をまとめる形でここに掲載した。
座談会 ─ 組合員の視点から見た生協のホームページ
参加者にとっての生協のホームページは?
本特集に取り組むにあたり、当研究所の会員生協の組合員4名と大学院生1名、そして司会として本記事を執筆している玉置が参加する座談会を行った。参加者の生協のホームページ利用は次の通りである。参加者すべてがインターネットは利用しているが、生協のホームページ利用については様々だ。組合員のAさんは、かつて理事をしていた時は自生協の状況を把握したり一般組合員さんの声を掲示板を見たりと利用していたが、注文や商品情報の収集などの面では生協のホームページを以前も今も全く利用していないという。
Bさんも、この座談会をきっかけにほぼ初めて生協のホームページをじっくりみたようで、ブログによる商品のおすすめに興味をもったという。また、餃子事件での素早い情報提供やネット限定商品の存在などを知って、ネット注文の登録をしてみたいが登録方法がよくわからず現在に至るそうだ。Cさんは、「お取り寄せスィーツ」 は欠かさずチェックしていたり、初めて行く生協のお店の場所を調べたりしているという。また雨漏りの時には住宅部門のページを見たり、平和活動をしているので他生協の平和行進の情報を調べたりするというように、先の2人よりはネットを活用しているようである。
ネット依存と自らいうDさんは、自分でも2001年からホームページを開設しているというなかなかのネットユーザーだ。ネット注文も導入直後から利用し、自生協のページにある掲示板でも交流していたという。していたというのは、当初は生産者からの書き込みなどもあり盛り上がったけれども、ユーザー同士の意見の食い違いがあったりで盛り上がらず、とうとう見るだけでストレスがたまるようになり、今は全く見なくなったという。参加者の中では最も若い大学院生のEさんも、以前は自身で生協を利用していたそうだが、その当時も紙での注文が中心で、注文書が出せなかったときぐらいしかホームページを利用しなかったという。
冒頭でも述べたように、確かにインターネットは普及はしているが、充分に活用されていないというのが現状のようである。特に、ネット注文に関しては関心や実際の利用はあるようだが、ホームページを活用した情報収集にはほとんど活用されていないようだ。そこで生協のホームページについて、ネット注文以外に普段どのような情報を収集しているのか、また収集していない組合員にも、どのような情報が欲しいのか、また今回の座談会をきっかけに生協のホームページに触れてどのように感じたのか、ということを投げかけてみた。
宣伝チラシのようなホームページ?
商品の情報について、高い評価が集まったのが、インターネット限定商品の存在である。Dさんなどは、最近ネットでのお取り寄せスィーツが流行っているが、特に生協が扱っていると安心感があるという。一般の商品情報については、こんな時代だからこそどこの牛乳を使っているかなど、中身の情報を重視して欲しいという意見が出された。 一方で、美味しさがページから伝わってくるかという質問に対しては、美味しいことはわかってるし、信頼しているからという理由でそこまでは求めていなかったようである。また 「おいしい!」 とか直感的な表現ばかりで、そこらのお店の折り込みチラシと変わらないと厳しい。もちろん、これはあくまでも今回の座談会の参加者の意見であり商品の美味しさをページで伝えることは大切であると筆者は考える。
他にも、商品情報の発信の仕方にも疑問を感じているようで、Aさんは多くの生協のホームページが情報を一方的に押し付けているような感じがするという。「私の欲しい情報があるかな」 と思って探したときに、探しやすくポンとでてくるようなページが欲しいという。また、一回作ったきりでほとんど更新されていないページもあり、更新されないページがあるのは致命的だとBさんは指摘する。
組合員にとって、生産者が見えるページも大切なようだ。例えばお蕎麦なども、誰がどんな工場でつくっていると、わかったり、生産者のこだわりや頑張りが見えてくると商品の利用が楽しくなるとCさん。確かに産地見学の報告などが掲載されているけれども、そうした生産者の身近な面を含めて産地の様子が今ひとつ伝わってこないとはDさんの評価だ。
またイトーヨーカ堂では 「顔の見える食品」 として魚まで産地や生産者の情報まで提供されており (http://look.itoyokado.co.jp/参照) 生協のページよりも見せ方が上手いという評価であった。
餃子問題については、どこの生協も詳しく掲載しているけど、ページを開いた瞬間にどこに餃子の情報があるか目につかない (Cさん)。コープみやざきでは、役員や現場責任者が自分の言葉で語っており心情が伝わってきて感動した (Aさん) という声が聞かれ、単に迅速に情報を公開すればよいというわけではなくどのように掲載するかということも組合員の心理に影響するようだ。
ホームページは組合員活動を支援できている?
組合員活動の情報については、先にも述べたようにCさんは平和活動に関する情報を他生協のホームページを通じて調べているようだが、うまく見つかる生協とそうでない生協があり、欲しい情報がすぐに手にはいるわけではないという。自生協の組合員活動については、比較的更新されており活動の様子が見えてきて楽しいが、トップページからアクセスしづらい、活動報告はあるけど予告がないという点に問題を感じているようだ。また、Cさんは組合員活動に縁のない組合員にとっては見ても楽しいものではないのではないかと指摘するが、この点は重要だ。インターネットは組合員活動を拡げる絶好の機会であるのに肝心の内容が読み手にとって役立つものではなかったり、楽しくなかったりするため、組合員活動が拡がるきっかけも生まれないのである。
心に触れる掲示板とストレスの溜まる掲示板
商品の情報でもあり、組合員間のコミュニケーションの場である掲示板については、座談会の参加者が所属する生協では、掲示板がそれほど盛り上がっておらず、また参加者自身もよい経験がないという。たとえば以前は積極的に発言していたDさんも、以前は生産者の方も参加されてとてもいい雰囲気だったし気軽に入れたのだが、あまりにも場が荒れるので注意事項が沢山表示されるのでものものしくなったという。さらに、以前は書き込みがきっかけで組合員同士の交流が生まれたりした。現在は、書き込み自体少ないし書いても反応も何もない、また管理されている様子も見えてこないのが残念な様子だ。
また座談会では、会場のPCを用いて他生協の掲示板を探索してみたが、生活クラブ生協のコミュニティである 「クミ~ズ」 では、閲覧はオープン、書き込みは登録制であり、またやりとりの盛り上がらないときには事務局が盛り上げようとするなど管理・運営に工夫しているコミュニケーションの例もみられた。他にも、コープ北陸事業連合の 「おしゃべり掲示板」 では、組合員の質問に対して事務局や現場職員が真摯に応えており、職員とのコミュニケーションのきっかけにもなるし、生協の姿勢が伝わってくるといった意見が交わされた。
組合員から好評を得た生協のホームページは?
今回の座談会では、生協のホームページに対して厳しい意見が多かった。参加者から具体的な生協名はあげないでほしいとのことなので、厳しい評価がされたサイトは匿名という形にしたが、多かれ少なかれ、現在のどの生協にも多くが当てはまる指摘ではないだろうか。一方で今回の座談会で、組合員から高い評価を受けたのが、パルシステム連合会のサイトだ。例えば、商品の情報ひとつとっても表現が心に伝わってくるし、また組合員の声が豊富に載せてあることも好評であった。他にも組合員の個人のブログ (日記調のホームページ) を活用して商品のおすすめがなされており、生協からの情報提供よりも説得力があり、何より見ていて楽しいという。またこの組合員ブログを活用した生協としては新しい取り組みに会場の皆が興味を持ったようだ。またAさんは、生産者の情報も、商品紹介を超えて、人となりが見えてきて、生産者の責任と自負が見えてくるという。Dさんは、子育ての情報も 「赤ちゃん」 と一括りにせずに赤ちゃんの月齢毎にしていたり、家計のやりくり情報など、単に商品の宣伝に終始せずに若いお母さんの生活の目線で内容を構成しているとの意見である。他にも、社会貢献や地域活動の支援などの広報もしており、生協としての主張が見えてくるなど内容面に関する評価は高い。見た目にも色やデザインが見やすく、インターネットでは一瞬に大量の情報が目に飛び込んでくるが、このパルシステムは目に入ってきてもしんどくないという印象があるというEさんの声や、参加を呼びかけるような表現がしてありクリックしたくなるような気持ちになる (Cさん)、中国食品など、今組合員が最も必要として必要であろう情報が一番目立つ位置にあるし、その他の情報も欲しい情報を見つけやすい (Aさん) など、表現やデザイン面でも好評であった。
このような、読んでいて楽しく、内容も組合員の生活の視点に立っており、見た目にも美しい。その中で生協としての主張や役割も果たしている。そうしたパルシステム連合会のホームページはどのようなビジョンと体制で行われているのかということに関心がむけられた。
組合員の生活課題の解決のためのホームページ
─パルシステム生活協同組合連合会
上の座談会をふまえてパルシステム連合会のホームページ運営に携わっている、同連合会の子会社である株式会社コープネクストを訪れた。
生協の理念を反映したホームページ運営
パルシステムのページでは食生活や子育て、健康・医療・家計などに関する情報が掲載され、そうした情報を単に掲載するだけでなく多様な価値観やライフ・スタイル、ライフ・ステージをもった読み手が、自らの状況にあった情報を引き出せるよう工夫されているようだ。多くの生協のホームページをみると、いかにも 「売らんかな」 というような商品情報が数多く掲載されたホームページであったり、またその必要性は否定するわけではないけれどもお堅い生協の主張が幅をきかせているというケースも見かける。しかし、インターネットというメディアはテレビのように寝ころんでいる視聴者にメッセージを押し込むメディアではない。読み手が能動的にサイトにアクセスし、自らにとって価値ある情報を求めクリックして先に進んでいかねば、どれだけ沢山情報を用意してもその内容は伝わらないのである。「組合員のくらしと声を大切に」 とは生協に関わる人であれば誰しも口にする言葉である。しかし、こと生協のホームページでは読み手の求める情報発信を意識できているであろうか。
そのような情報発信ができているという評価を得たパルシステムに対する今回の聞き取りの中からは、自らのホームページの制作・運営にあたっては 「あらゆる生活課題の解決」 というパルシステム連合会の理念を強く意識して行っているということがあるようだ。後述するように、これでもまだまだ不充分というのが運営者の自己評価ではあるが、同ページでは、上述のように様々な生活
課題をもつ組合員が自らの生活に必要な状況を引き出せるよう工夫されているし、そのような利用者を引きつける仕組みがあれば積極的な興味がわかないような商品情報の提供や生協の主張があっても読んでもらえる可能性も出てくる。
専門家との協働が生み出す魅力的な表現
先の座談会における評価に話を戻そう。座談会では、商品や子育てなど同じ内容の情報提供ひとつとっても他生協に比べて豊富であるのはもちろんのこと、デザイン・表現が考えられており見やすい、そしてわかりやすい、またついついクリックして読みたくなるというような内容面に止まらない表現についても高い評価がなされた。確かに、同じ商品であってもそれをいかに魅力的に伝えるかで利用に対する意向は変わるし、食品であれば食べている時の実感も大きく異なる。
同連合会では、商品カタログを世代ごとにYUMYUM ・マイキッチン・KINARIという3媒体にわけて異なる提案を行っているのは周知のとおりであるが、そのカタログ作成においても表現や構成を重視しており、編集や表現を専門とする外部企業の専門家に委ねているという。彼らは業界でも高い評価を得ているそうだ。もちろん制作は丸投げをするのではなく、内容についてはパルシステム自身もかなり入れ込んで共に作成しているということである。同連合会ホームページの豊富な情報や解りやすい表現は、そうした表現の専門家との共同作業によって実現しているようだ。また実際のホームページの内容は、紙媒体に掲載した情報を再利用している部分も多いという。
このように書くと、ホームページの情報は紙媒体のコピーかと思われるかも知れないが、そうではない。紙媒体はよほどの組合員でない限り週毎に読み捨ててしまう。しかし、ホームページにデジタル化することで、それらの情報は蓄積されるという違いが生まれる。例えば、産直などへのこだわりや子育ての情報、社会貢献への情報が、年月を追うごとにページ上に膨大にストックされるのだ。それは、生活に役立つ知識としての価値をもつだけでなく、疑問があれば能動的にネットで情報を検索して調べる次世代型の消費者が生協と関わるきっかけにも繋がるというように、パルシステムにとって大きな資産となる。もちろんこのことにはネットのコンテンツ (内容) 作成にかかるコストを抑えるというメリットもある。
組合員と生産者の声が生み出す共感
またパルシステムのホームページの内容は、紙媒体に掲載した情報に加えて、組合員や生産者からのコメントも掲載することでより付加価値の高い情報となっている。例えば、紙媒体に掲載したこだわりの商品に関する情報に、ネットを通じて投稿された組合員の口コミや生産者の声を交えて掲載しているのである。それらは座談会でも、パルシステムのページの情報は組合員の目線からみて他の組合員の声や生産者の声に納得・共感させられるという評価につながった。ここからは、組合員と生産者との協同によってこそ心に触れる情報発信が実現するということが浮かび上がってくる。
もちろん多くの生協がこうした組合員の声をページ上に掲載しているが、パルシステムのサイトにはいくつかの工夫が見られる。まず1つ目が投稿制をとっているということだ。多くの生協では、掲示板などを設置し、そこで組合員が自由に書き込みコミュニケーションを行えるようにしていることが多い。こうしたインタラクティブ (対話方式の) なコミュニケーションから一歩下がったようにも見えるパルシステムのやり方には理由があるようだ。同連合会も2000年から2003年まで、ココットネットという、会員数25,000人と大規模なコミュニケーションサイトを運営していた。開設当初はかなり盛り上がったものの、次第に言い争いや個人に対するいじめなどが起こるようになり、そうした掲示板の存在自体が生協のイメージダウンにもなりかねない状況になり閉鎖し、その教訓から今日のようなスタンスをとっているという。
さらにパルシステムが進んでいるのが、組合員のブログの活用である。ブログが流行する今日では、組合員個人がネット上で日記を公開しているということも多い。中にはもちろん生活の中で利用した生協の商品を話題にその日の日記を書くということもある。そうした組合員の行動を活かし、組合員にはある商品を実際に利用してもらい自身の日記に書いてもらうことで口コミを拡げるという取り組みを試みているのである。もちろんその口コミはパルシステムのページからもみることができる。( http://blog.coopnext.com/blogm/を参照いただきたい)
また、最近ではNECビッグローブ株式会社のBIGLOBEが運営するウェブリブログと呼ばれる個人にブログを書く場を提供しているサイトに、パルシステムの関連ブログを開設している。そこでは、パルシステムが依頼した6人の組合員や専門家が芸能人の公式ブログと並ぶ格好で手作り料理などの日記を公開している。
このようにして発信された組合員の生の声は、消費者の心に強く響くであろう。さらにパルシステムでは生産者の声を消費者に伝える仕組み作りもしている。商品の情報ページに、組合員の声と並んで生産者の声も掲載されていたり、ファーマーズネット(http://www.farmersnet.net/) では、各産地の生産者に情報発信のひな形を提供し、生産者が産地からの情報発信を支援する仕組みを2001年から提供している。このサイトについては、活性化についてはまだまだ工夫が必要なようだけれども、その先進的な取り組みは評価できよう。
ネット上で展開する新たな協同のスタイル
最後に、座談会ではその実態が見えず評価することができなかったが、インターネット上でのコミュニケーションと協同の問題についてみておこう。ネット上での協同の問題をみるとき、ネットを生協と組合員、または組合員間の協同の場とするという視点と地域や実生活の場における協同の促進手段としてネットを位置づけるという視点とがある。
組合員の協同の場で支援
まず前者について、インターネット上の組合員間のコミュニケーションによる協同には様々な可能性があり、多くの生協がホームページ上で取り組んでいることであろう。しかし会話が盛り上がらない、言い争いが起こるなど上手くいかないケースも多い。それに対して全く手つかずの状況であったり、コミュニティ自体を閉鎖してしまうというケースが多いのが現状だ。その中で、パルシステムの取り組みもまだまだ試行錯誤段階ということであるが、様々なネット上で生協と組合員や組合員間の協同を実現する取り組みをはかっている。先の組合員の声の投稿や組合員のブログの活用などもそうだし、また同連合会では、ネット上でオンライン・モニターを組織し組合員の声を汲み上げる取り組みもしている。そこでは先述の世代ごとの3紙媒体から約500人ずつ、現在では1700~1800人の組合員がモニターとして登録され、モニターの属性を年齢や性別だけでなく嗜好なども詳しく把握した上で、商品や施策、またサイト運営の意見を募り分析しているという。
また2006年度にはネット上で組合員と商品の共同開発なども実施しているという。こうしたネット上での生協と組合員の協同は、素早い反応が得られ、かつ低コストで組合員の声を反映することができるだけでなく組合員の生協への参加意識を強めるという効果もあり、さらに拡充していきたいとのことだ。そして、聞き取りを通じてこれらの取り組みを行う上では運営者は過度に彼らのコミュニケーションに介入せず、彼らがネット上で発言しやすいように制度面・情報システム面で支援するという姿勢が見えてきた。このような組合員や生産者の声を活かす上では、コミュニケーションが楽しくなかったり、不安がつきまとったり、面倒であったりする。そのような状況では積極的な発信は期待できない。それらの点に対してどう仕組みと雰囲気を作るかにかかっているようである。
地域の協同をネットで支援
さらに、このパルシステムのネット上での取り組みをみるときに興味深いのが、地域や実生活の場での協同の取り組みの延長線上にインターネットを持っていっているという点にある。パルシステムでは、地域の課題を解決する人のネットワークを創り、継続する事業 (コミュニティビジネス) の担い手を応援することを目的として 「セカンドリーグ」 をつくる取り組みを支援しており、その会員である個人や団体の交流や活動の広報のために積極的にネットを活用しているという。このセカンドリーグでは 『のんびる』 という雑誌を会員に発行し、活動団体と会員とをつなぐ媒体としている。そして、ホームページ (http://secondleague.net) ではインターネットがもつ情報の即時性や蓄積性という特性を活かし、各団体の活動を素早く案内したり、のんびるリポーターという個人の会員がNPOや団体の様々な地域活動のレポートを行ったり、地域活動のレポート以外にもリポーター個人が生活で体験したこと感じたことを日記的に発信するということを行っている。このようにして、各団体の活動をより効果的に広報したり、一個人が自身の声として発信することで地域における協同の取り組みを読み手が共感できる形で伝えているのである。またそのような生の声が拡がる広報は参加者の活動への動機づけにも繋がるだろう。さらにホームページ上では、記事に対して読者がコメントを書き込むことができ、リポーターとやりとりすることが可能になっている。このコメントのやりとり自体はまだまだ活発ではなく工夫の余地が必要であると感じるけれども、地域における活動への共感や新たな参加を生みだすというように、ネットが地域の協同の促進剤になることはいうまでもない。また現段階ではセカンドリーグのホームページからは諸団体の活動をリアルタイムに見ることができないようだが、今後活動団体からの積極的な情報発信をページで見ることができれば、より強い参加や支援、愛着の意識を生むということが期待される。
一方で活動する団体の全てが進んでネット上で情報を発信してくれるとは限らない。情報発信の全てを活動団体に任せるだけでなく、それを取材して発信するリポーターの存在もパルシステムの事例からは重要だと感じた。また、そのリポーターは活動のレポート以外の記事を発信しているということを既に述べた。おそらくセカンドリーグのページでこうした団体の活動のみが掲載されていたらそれは読み手にとって価値の低いページとなることは間違いない。リポーターの記事は、食や福祉、平和問題などのテーマに関してリポーターが生活の中で感じたこと経験したことで構成されており、それが読み手の生活の中での価値となりページにアクセスさせる仕組みとなっているのであろう。
このようなネットを用いて地域の協同を支援するという取り組みは、単協が行う組合員活動にも活用できるだろう。組合員活動の広報と交流の場をネット上に設けることはその活性化につながりそうだ。パルシステムは連合会という特質上、現在のところ組合員活動との関わりは薄いという。しかし、今後は実験的に単協を支援する形でネット上での組合員活動の支援にも取り組むそうである。こうしたネットを用いて地域の協同を支援する上では、単にその地域活動をホームページで紹介するだけではなく、活動団体と読者とのコミュニケーションの場を用意することも必要であろう。
パルシステムの考える今後の課題
ここまで、パルシステム連合会のサイトとその運営を高く評価する形で論じてきた。しかし、パルシステムのホームページの立ち上げから今日までその業務に携わってきたコープネクストの藤野啓二取締役は自らの連合会のサイトを極めて厳しい目で評価している。
まず、座談会で評判となった商品の記事についても、食品の記事であるにもかかわらず美味しそうに見えない画像がたくさんあるという。また、サイトでの情報提供が利用促進にもたらす効果も不充分と考えているようだ。商品とそれ以外の子育てや健康・医療などに関する情報の内容についても、多岐にわたる内容は用意しているが、発信者本位で自ら (パルシステム) が発信したいと思った情報を載せているだけであり、自己満足の域を抜けていないという。また、多岐にわたりすぎて検索機能もないため、担当職員でもどこに何があるかわからないほど情報が多すぎることに問題を感じているという。
今後は、より発信相手のターゲットを絞り、その情報ニーズをとらえた上で内容を絞り込むこと、さらにそこではネット上で他の企業や組織が発信している情報であればそれらは彼らに任せ、パルシステムにしかできない情報提供を目指すという意味での絞り込みも必要と考えているようだ。
ターゲットを絞り込むといっても、実際には多様な関心と属性をもったネットユーザーがパルシステムのサイトを訪れる。そのため、関心や属性にしたがって複数のサイトを設けることで対応するという。実際、パルシステムでは、この3月に組合員向けに商品・生活情報を重視したサイト (http://www.pal-system.co.jp/) とパルシステム連合会の紹介を重視したサイト(http://www.pal.or.jp/)という2つのサイトを開設するようになった。ネット上での組合員参加についても現在は手作業に負う部分が多く、コストと時間がかかっており、これらもシステム化することでさらに活発化せねばならないという。こうした取り組みによって、同連合会が理念とする生活課題の改善を図ることでサイトのリピーターをつくり、組合員の参加を活かしたホームページへと転換するようだ。一方でグーグル(http://www.google.co.jp)などの検索サイトでパルシステムのサイトの記事を見つけて新たな閲覧者や組合員を獲得したり、社会に役立つ情報発信ができるように、サイト内コンテンツのヒット率を高めるような努力をしていくという。
まとめ:今回の調査から見えてきたもの
本特集では、組合員による座談会と実際の生協のページ運営に関わる方々への聞き取りを通じて、生協のホームページの現在と今後について考えてきた。最後にこの記事から見えてきたことをまとめておきたい。
協同による魅力的なサイトの実現
生協のホームページにおいて何よりも大切なのは、生協が伝えたいと思う情報を発信することを第1の目標としてはならないということである。組合員、ひいては組合員のみならず全ての読み手の生活に価値ある情報を提供するということを第1の目標とせねばならないのである。
このあたりまえにみえることが実践できているサイトがどれだけあるだろうか。またそのような生活に価値ある情報は組合員や生産者の力を借りることが大切なことを本特集では指摘した。
さらには解りやすいページ構成や検索システムを活用することで情報がそこに存在するということが知られなければその情報は意味をなさない。また同じ情報でもそれが読んでもらえる・伝わる表現でなければその記事は意味をなさない。そうした読んでもらえる・伝わる表現は、サイト運営者だけでなく、表現のプロや組合員との協同によって実現している、ということを述べた。
また全て自前でまかなうのではなく、ネット上の活用できる資源は、活用するという姿勢も重要
である。今日では技術の進歩が速く、またITのみならず、あらゆる分野で高度かつ専門的な技術が求められる。さらにその進歩は極めて速い。加えてネットの世界では、より多くの人々や組織が利用する大規模なネットワークを利用した方が送り手・受け手とも、より高い便益が得られることが多い。そのため生協以外の企業・組織のサービスを活用することも積極的に検討すべきであろう。こうした生協以外の企業や組織が提供するサービスを利用する例は、コープさっぽろとコープ東北サンネット事業連合がグーグル (google) のサービスを利用するという取り組みにもみられる。
組合員の参画・声を活かすということも魅力あるホームページづくりには重要だ。今回取りあげたパルシステムもその方策を模索しているところであるようだけれども、ネット上での組合員参加を促すには第1に利用者にサイトへの愛着もってもらうこと、第2に生協は生協にしかできない生活に役立つ情報発信をしつつ、組合員の自発的な情報発信を促し支援する仕組みづくりをサイトの内容と情報技術の両面から行うという点にポイントがありそうだ。生協がホームページで提供した情報によって実現した生活問題の解決はサイトへの愛着と繋がり、頻繁なアクセスへと繋がる。そこで読み手も情報を発信できる仕組み作りを行うことで、それはネット上での協同に発展し、より豊富なコンテンツ、そして伝わるコンテンツへ、すなわち価値ある情報へという好循環を生み出すのである。
魅力あるホームページを実現する組織
魅力的なホームページの実現のためには、ホームページとしてパソコンの画面上に映る内容・表現面だけでなくその作り手の意志も重要である。本特集で何度も触れてきたように、パルシステムでは 「生活課題の改善」 という連合会としての理念をホームページ運営においても一貫して実践している。
実態はまだまだ不充分との自己評価であるが、利用者に役立つサイトづくりに彼らを邁進させていることはいうまでもない。
パルシステムの先進的な取り組みは、インターネットというグローバルな世界に目を向け、そこで起こる新たな取り組みを次々と採り入れるという姿勢にある。そうした先進事例を採り入れ、またその実行を素早く決断できることの背後には、連合会の子会社を設立してサイト運営を行っていることが大きく作用していることが考えられる。 そうした子会社に理解と投資を行える連合会の風土やトップ層の姿勢も大きく影響しているようだ。生協のネット社会への対応の遅れは、未開拓で不確実なインターネットという存在に飛び込もうという意識と投資が不充分であるという理由もあろう。現時点では、普及はしつつも未活用というネットが、さらに活用される時代はそう遠くない未来にやってくる。
今ネット上では、そうした時代に生協のライバルであろう無店舗販売の業者も現れ、着々とネット・ビジネスのノウハウを身につけ力を蓄えているのである。技術やアイデアが急速に進歩するネット社会にむけて試行錯誤を繰り返し、ネット世界で生き抜く術を身につけつつ、ネット世界での生協の存在感を高めておかねばならない。
おわりに
今回で 『協う』 におけるIT特集は4回目となる。5年前の前回の特集時に比べ、確かに生協のITに対する取り組みは進歩していると思うが、ネット社会の進歩に追随できているかというとその差はますます離れているというのが率直な実感である。ネット上での情報提供といってもただ正しく豊富な情報を掲載したホームページを運営していればよしとされる時代は過ぎた。より利用者にとって価値があり、かつ伝わる情報提供が求められているのである。この価値あり、伝わる情報提供というあたりまえのようなことが実は難しい。さらに、筆者が当研究所を通じて行った調査 (くらしと協同の研究所・通巻49号 『研究会報告書 「生協の組合員組織と活動研究会」』 を参照) によれば生協のホームページで求める情報の種類や質には世代ごとによっても差があるようだ。今後、インターネットの利用者が増加してくると、情報提供のあり方も柔軟に対応せねばならないし、世代のみならず、様々な価値観に応じた情報提供のあり方も考えねばならない。
また、インターネットは組合員の声を汲み取る場として、また協同の場としての期待も大きい。しかし現在の状況では、インタラクティブ (対話方式の) なコミュニケーションの場を設けても、1人の発言が活発なコミュニケーションに発展するというケースは少ない。1人のつぶやきを組合員や職員が読み、生活や事業に役立たせるのが現状だ。ネット上でのインタラクティブ (対話方式の) なコミュニケーションが、それまでどの組合員も知り得なかった生活の知恵や事業の進歩を生み出すという効果もネット上でのコミュニケーションに期待したい。
今回の特集から感じたことは生協の魅力あるホームページづくりには、①組合員の生活の問題解決に役立つ価値を提供すること、②組合員・組合員間の共感を育むこと、③様々な組織や組合員・個人と協同することが必要だと、考える。
生協がネット社会で生き抜くには、生協の根幹を置き忘れず、一方で過去にとらわれず未来に踏む込むという姿勢が求められるのではないか。