『協う』2008年4月号 生協・協同組合研究の動向
働く者・市民の仕事おこし・新しい公共の創造を促進する
「協同労働の協同組合」 の法制化をめざして
田嶋 康利 協同総合研究所 専務理事
「協同出資・協同経営で働く協同組合法を考える議員連盟」 が発足
2月20日、衆議院第一議員会館において、「協同出資・協同経営で働く協同組合法を考える議員連盟」 が、国会議員約100名の参加で発足した。議連会長には、坂口力元厚生労働大臣、会長代行には仙谷由人議員、幹事長に長勢甚遠議員が就任され、副会長には全党全会派からの就任となり、文字どおりの超党派の議員連盟となった。
法制化運動は、昨年6月に、前連合会長の笹森清氏 (中央労福協会長) が 『協同労働の協同組合』 法制化をめざす市民会議」 (以下、市民会議) の会長に就任したのを契機に、非営利の市民事業を担う人々や、人間らしい職場・働く機会の創出を願う人々・団体の多数の結集が実現することとなった。団体請願署名運動や国会陳情行動などをすすめ、また全国8ヶ所で法制化を求める市民集会を開催し、法制化運動への参加を広く呼びかけるなか、農協や生協などの協同組合、自治労や日教組などの労働団体、障害者団体、NPO (や中間支援組織)、商工業者などから1万を超える団体賛同署名が寄せられている。
市民会議の呼びかけに応え、署名運動の発起団体に加わったWNJ (ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン) との共同のとりくみも、力強い運動へと高めるものとなっている。現在、全国の運動を一過性のものとせず、法制化後の仕事おこし支援機能も展望し、各地で地域版市民会議や協同労働のネットワークの結成をすすめている (市民集会は、札幌 (4/13)、神奈川 (全国集会、4/26) の2ヶ所を残すのみである)。
また、地方議会においても、法制定を後押しする 「早期制定を求める意見書」 が、昨年12月の埼玉県北本市にひきつづき、3月には福岡県鞍手町、滋賀県高島市、千葉県我孫子市、北海道札幌市で、全会一致のもと採択されてきている。
この力強い運動を背景に、議員の賛同が大きく広がり、現在議連は200人を超える参加となり、その勢いをましている。法制化のとりくみは、市民会議を結成し開始してから10年の歳月を経てここまで到達した。
「協同労働の協同組合」 がめざすもの
この運動の広がりの背景には、「雇う=雇われる」 というこれまでの労働関係 (雇用労働) とは異なる、「新しい働き方」 が大きく広がっている現実がある。わが国では、労働者協同組合 (ワーカーズコープ)、ワーカーズ・コレクティブ、農村女性ワーカーズ、障害者団体などで、「協同労働」 という働き方を求めている団体や人々を含めると10万人以上存在するといわれ、400億円の仕事が生み出されている。各地で、介護・育児などの福祉、食・農・環境などの仕事が起こされ、障害を持つ人々や子育てを経た女性、退職・失業した中高年者、ホームレスや生活困窮者、フリーター・ニートなどと呼ばれる若者など、社会的に不利を被っている人々も多く働いている。
しかし、「協同労働の協同組合」 制度を承認する他のG7各国と異なり、働く者、利用者及び支援者が協同して、新しい事業とその経営組織を生み出そうとする法制度を承認し、また振興する法のしくみは、いまだこの日本にはない。欧州では、失業や社会的排除、貧困に苦しむ市民や仕事を求める人々にとって、仕事おこし・地域再生を図る有効な制度となっているにもかかわらずである。
「協同労働の協同組合」 とは、「働く人々・市民がみんなで出資し、民主的に経営し、責任を分かち合って人と地域に役立つ仕事をおこす協同組合」 である。そして、この協同組合の組合員は、3つの協同-働く者同士の協同、利用者との協同、地域との協同-を大切に、「よい仕事」 と 「コミットメント経営」 (地域連帯の経営) を高め、「一人ひとりの成長と発達」 を追求する。この考えに到達するまでに、私たちは前史的なとりくみを含め30年の試行錯誤と実践の努力を必要とした (日本労働者協同組合連合会は、現在1万人の就労、250億の事業高となった)。
これらの現実をふまえ、2月に立ち上がった議員連盟の設立趣意書には、以下のように書かれている。
「多様な働き方の制度整備により、誰でも人たるに値する生活を可能にしなければならない。日本においては、使用者と労働者の関係は労働基準法をはじめとする労働法令によって定められている。しかし、協同出資・協同経営によって共に働くことに対する法律は存在しない。私たちはここに議員連盟を設立し、日本においても新しい働き方が可能になるよう、法制化を含めて検討するため出発するものである。」
グローバリゼーション・新自由主義により破壊される社会・公共・労働と、これへの対抗としての協同労働の法制化
こうした働き方は、分断と格差、貧困を生み出している新自由主義、市場至上主義、グローバリゼーションに対抗する内容となっている。規制緩和・構造改革路線のもと、「官から民へ」 のかけ声で、公共サービスの 「理念なき」 民営化が急速に進行している。これに対抗して、労働者協同組合 (ワーカーズコープ) は、「市場化・営利化ではなく市民化・社会化」 の理念をかかげ、利用者や地域との協同を創り出し、就労創出と住民参加を促し、地域社会の再生をめざしている。
現在、学童・児童館・保育園などの子育て支援施設や、高齢者・障害者の福祉施設、コミュニティセンターなど、全国各地の公共施設の運営の担い手となり (全国130ヶ所)、市民が中心となってのまちづくり・地域再生の拠点として、地域の課題解決にとりくんでいる (ワーカーズコープは2008年度600人以上の新規雇用創出を生み出している)。
しかし、これまで行政が担ってきた公共サービスが、指定管理者などで非営利組織がになう可能性が広がっていることは、私たち労働者協同組合の活動領域や事業の広がりが、一方で 「安上がり」 の行政の受け皿として機能する危険性を意味しているということを見過ごしてはならない。
そこで、私たち協同総研は、「新しい公共と市民自治」 研究会を昨年8月より開催し、そのプロジェクト作業をつうじて、「コミュニティ事業支援条例」 の要綱案を作成した。この条例の目的は、地域で市民が主体となった 「コミュニティ事業 (公共的・社会サービスを担う非営利事業) の創造をとおして、就労促進をはかる」 ものである。
現在、協同労働の法制化運動とあわせ、この条例を自治体や地方議会などに働きかけ、公共を担う労働としての質と量を維持 (公正労働基準等) していこうと努めている。
「協同労働の協同組合」 の法制化から社会的制度に
私たちは、この 「協同労働の協同組合」 を法制化し、社会的制度を与えることで、働くものや市民が当事者として出資し、事業経営に参画することで、営利企業やNPO法人における労働では解決がむずかしい、また地域や社会が抱える数多くの問題を解決できる可能性があると考えている。
この時代に求められていることは、労働の復権と市場の社会的コントロール、そして公共を市民の協同で担うことで人間的社会創造の道を鮮明にすることであろう。働く者・市民を協同のルールで結び、仕事おこしの意志あるものなら誰にもその道を開くことを可能にするしくみ、すなわち市民自身が公共を担うことを一番やりやすくするのが協同労働であり、「協同労働の協同組合法」 であると考えている。
研究者・実践者のみなさまに、ぜひ 「協同労働の協同組合」 法制化の運動へのご支援・ご協力をいただければと思います。
「協同労働の協同組合法」 要綱案 「コミュニティ事業支援条例」 要綱案などの詳細は、以下のサイトを参照ください。
協同総合研究所
http://jicr.org
協同労働法制化市民会議
http://associated-work.jp