『協う』2008年4月号 ブックレビュー1

パル80倶楽部 編集
「100万人の人間力」 パルシステム急成長の舞台裏

井上 英之 当研究所研究委員 大阪音楽大学教授

 今月号の 「協う」 の特集はITであり、座談会、玉置論文でも全国の生協のなかで先進的な取り組みをおこなっているとされてるパルシステムに注目される読者もおられることと思う。
  本書は、個配やITの活用を促進してきた人間集団の魅力を自ら解き明かした、その意味で今日の生協のあり方を根源的に問い直す1冊の読みものです。
  かつて作家の今崎暁巳氏が 『暮らしのルネッサンス』 等で、また 『生協運動』 誌上では中村陽一氏等が、当時の地域生協の発展の姿を多様的で豊かな組合員活動のルポルタージュの手法で見事に活写していたことを思い出しながら、私は本書を一気に読了しました。
まさに 「ありがとう」 といわれる生協の仕事がこうした集団によって創造されてきたことが追体験されます。ご一読をおすすめします。
  ところで編集者である 「パル80倶楽部」 とは何者なのでしょうか。「 (パルシステムの) 異業種の30組織が共に学ぶ 『パルカレッジ』 というユニークな研修の講師や参加の有志でつくったゆるやかなネットワークです。「パルという言葉には、仲間という意味があります」 とプロローグに書かれています。そして 「夢を実現する新しいカマスになろう!」 との協働出版の呼びかけに賛同して、4冊のシリーズ出版にはせ参じたメンバーが80名以上であったことから誕生したのが 「パル80倶楽部」 なのです。次の2冊目のテーマは 『共生力』 が予定されています。
  本書の編集力はみごとなものといえます。通例の本づくりはあらかじめコンセプトを決め、ストーリに合わせて原稿をあつめるものですが、「台本も打ち合わせもリハーサルもなしで、成果をあげる即興劇のような本番力」 を発揮するものとなっています。「この本の構成は、3幕10場で、それぞれのシーンには、その本質を見つめる62の質問のタイトルがあり、場の終わりには、106の今の自分や仕事にすぐ役立つ質問を設けました」 みごとな編集力です。
  ちなみに10の場面の一部を紹介しますと、「本当にやりたいことがわからないとき」、「仕事が楽しくない、誇りがもてないとき」、「心から信頼できる仲間がいないとき」、「ストレスで心身がボロボロなとき」 等で、いずれもパルシステムでの活動をもとにした文章が各人によりまとめられています。
  「潜在能力を引き出す質問」 も106もあり、いずれも自答能力がためされる難問ぞろいです。是非チャレンジしてください。総じて今日のパルシステムを理解するための必読書であり、今回の特集との関連では編集力・発信力とそれを受け止める受信力を考えさせてくれる本だと思います。
  ところでパルシステムの魅力は何なのでしょうか。「パルカレッジ」 講師として参加した兼子厚之氏は 「主体的な個が活きる協同を求めて!」 で飛躍的な成長の秘策と課題を本格的に分析していますし、この他パルシステムを内在的に分析した文章も多数収められています。私には大変に参考になりました。
  この兼子氏は生協商品である 「ミックスキャロット」 の開発者として知られている人です。氏はこれまでのパルシステムの発展の秘密を、個配と三つのライフステージごとの利用システムだけではなく、本質的要因として 「こだわりをみんなのものに普遍化した」 「洗練された 『こだわり』へのさりげない主張を 『おしゃれ』と感じさせた」 ことが組合員からの 「私の生協への誇り」 をつくりだしたことと分析しています。他生協の組合員が生協への 「信頼」 や 「親しみ・共感」 なのに、パルシステムでは 「誇り」 であるという注目すべき指摘です。そして組合員の 「多様な思いを知恵に結ぶ」 意味を、「パルシステム」 という名称に見出したと述べてもいるのです。 この指摘をもとに本書を再読すると、なるほど組合員のパルシステムへの 「誇り」 に満ちあふれています。こうした差異化も大都市圏域での生協間競合がつくりだした到達点とも言えますが、21世紀に生き残る生協は 「多様な個が協同できる生協づくり」 と考えるならば、こうした兼子氏の分析に、パルシステムの到達点に、学ばなければならないでしょう。そしてこれからの課題としての3点の指摘も、私は適切なものと受けとめています。(いのうえ ひでゆき)