『協う』2008年2月号 特集2


「人と人との支え合いで すこやかに生きる」 地域社会をめざして
  黒岩勝博(姫路医療生活協同組合 共立病院 事務長)

はじめに 
  姫路医療生協は、 兵庫県西播磨地域 (8市6町) を定款地域として保健・医療・介護サービス事業を展開している医療福祉複合体の生協である。 組合員は23,753人、 出資金は349,824千円 (2007年3月31日現在) である。
  事業所は、 3医科事業所、 22介護事業所を運営し、 その内訳は、 医科事業所が1病院 (一般病棟56床) ・1医科診療所・1歯科診療所、 介護事業所が3訪問看護ステーション・5ヘルパーステーション・5居宅介護支援事業所・1地域包括支援センター・1訪問入浴・1福祉用具レンタル・3デイサービス・1デイケア・1ショートステイ・1小規模多機能施設である (2008年1月現在)。 現在、 医療と介護の収益比率は6:4であるが、 2008年3月には、 さらに1小規模多機能施設と1訪問看護ステーションを増設予定であり、 今後、 当生協の全事業収益に占める介護事業収益はさらに高まっていくことになる。
  激変する医療・介護情勢の中、 2006年度、 当生協は経常利益9,820万円 (経常利益率4.2%)、 共立病院単独では経常利益5,166万円 (経常利益率4.5%) を確保することができた。 今、 姫路医療生協、 共立病院は何を大切に考え、 医療事業・介護事業を展開しているかを述べてみたい。
 
共立病院の経営戦略 
~ 「在宅医療」 と 「介護・医療連携」 で特化する~
  当院では、 病院からの訪問診療を実施している。 訪問診療は、 この間一貫して重視して取り組んでおり、 訪問診療の2003年4月と2007年11月実績を比較すると、 件数で123件から260件 (2.1倍加)、 延べ回数で231回から542回 (2.3倍加)、 収入で548万円から1,200万円 (2.2倍加) の伸びを示している。
  全常勤医師が訪問診療にかかわることで 「外来・在宅・入院の連続したケア (サービス) の提供」 を可能にしている。 特に2006年度からは訪問診療2診体制 (午前中、 2名の医師が訪問診療を実施) を確立することで、 質の高い、 安全・安心な訪問診療の強化につなげることができた。
  現在は 「医療・介護連携は当たり前の時代」 と言われている。 医療と介護が連携するためには、 医療と介護が対等な立場で連携し、 情報の共有をはかることが重要である。 しかし私は、 “真の医療・介護連携”の前には、 “大きな壁”が存在しているのではないかと感じていた。 それは医療従事者の 「医療が上で介護が下」 という潜在意識を危惧したからである。 医療従事者は、 大きな意識変革をおこなわない限り、 この潜在意識はなかなか払拭しきれるものではないからである。
  そこで、 当生協の2006年度総代会方針では、 重点課題の1つに 「優しさと質の高い介護・医療サービスを提供します」 を掲げた。 このスローガンのポイントは、 医療と介護の順番を入れ替えたことである。 介護を前に持ってくることで医療と介護を実質的にも横並びにし、 文字通り医療と介護の連携を強化していこうというものである。
  また、 2006年度の当院方針では、 在宅医療を強化し、 介護・医療連携をさらに強化するために、 当院の一般病棟56床の役割を今日的に見直し、 「当院の病棟は、 在宅医療と介護事業を支える役割を果たす」 ことを明文化した。
  このように当院は、 在宅医療と介護・医療連携で特化することで地域におけるポジショニングを明確にしてきた。

組合員のニーズに応え、得意分野を伸ばしきる 
  現在は、 介護・医療の連携の質が問われる時代である。 組合員や利用者の声は 「姫路医療生協は、 医療も介護もそろっているので安心できる」 であり、 「姫路医療生協の1つの事業所に連絡したら、 他のすべての事業所 (当生協の事業所) に情報が共有されている」 ことが期待されている。
  利用者とのトラブルは、 当生協の事業所間連携における情報共有が不十分である時に発生することが多い。 トラブルが発生した時は、 まず利用者に謝罪するとともに、 速やかに関連事業所の責任者や担当者が集まり、 トラブル発生にかかわる問題点や改善点を論議し、 業務やシステムの改善を具体化し迅速な実践を心がけている。
  また、 他法人との介護施設や医療機関との連携も重視しており、 当院では特別養護老人ホーム2施設や高齢者住宅、 グループホーム等とも嘱託医契約や協力病院契約をおこなっている。 急性期病院との連携では、 当院は急性期病院の後方支援病院として患者を受け入れ、 必要に応じて、 その後スムーズに在宅医療につなげる役割を果たしている。
  このように組合員、 利用者の声を大切にしながら、 介護・医療連携という強みをさらに伸ばしていくことに力を入れている。

制度のニッチ (隙間) を埋める 
  ~医療難民・介護難民を出さないために~ 

  現在の医療保険制度や介護保険制度だけでは、 組合員や地域住民のニーズとの間にニッチが生じざるをえない。 保険制度等の公的な社会資源だけでは、 通院の送迎や住居の草引き等はカバーしきれない。 当生協では、 会員制の有償ボランティアであるくらしの助け合いの会 「はなちゃん」 が活動しており、 多くの方に喜ばれている。
  また、 当生協では行政との連携を強化し、 信頼関係を築くとともに一定の影響力を持つことも重視している。 そのためにも地域における介護事業のシェアは重要な物差しとなりうる。 訪問入浴のサービス事業は姫路市全体の約25%、 訪問看護は姫路市全体の約20%のシェアを占めるに至っており、 当生協は行政も無視できない勢力となりつつある。 2007年4月には、 姫路市から地域包括支援センターの認可を受け、 2007年2月と2008年3月には姫路市から小規模多機能施設の認可を受け、 事業展開につなげることができた。
  行政に現場の声を届け、 制度改善をはたらきかけつつ、 ともに考えるスタンスで医療難民・介護難民を生み出さない活動を推進したい。
 
姫路医療生協の事業活動と社会的役割 
  当生協は5年前に 「くらしと協同の研究所」 と姫路医療生協で調査プロジェクトを立ち上げ、 「健康・医療・福祉複合化時代における医療生協の課題と可能性~地域のセーフティーネットと協同のあり方を問う~」 をテーマに大規模な調査活動をおこなった。 この5年間は、 複合化時代にふさわしい医療生協とは何かを絶えず自問自答しながらの5年間だったように思う。
  2008年1月5日に開催した当生協の“新春のつどい”では、 くらしと協同の研究所から3名の先生方と当生協の荻野俊夫理事長が、 「姫路医療生協の事業と社会的役割を考える」 をテーマにトークをおこなった。 その中で、 くらしと協同の研究所の浜岡政好教授は、 当生協の5年間を振り返り、 姫路医療生協発展の要因を分析された。 それは、 ①組合員活動を重視しながら地域密着に徹してきたこと、 ②職員の育成 (介護事業の管理者等) に一定成功してきたこと、 ③組合員や地域住民から見て、 安心・安全システムの確立に成功したことである。
  当生協の5年間の活動を確信にしながら、 組合員と役職員の協同の力で、 当生協の基本理念 「人と人との支え合いで すこやかに生きる」 地域社会を実現できるよう、 たゆまぬ努力を続けていきたい。