『協う』2007年10月号 特集2

特集テーマ:もう一度考える食のグローバル化

今、 日本の食は大きな転換期にさしかかっている。 バイオエネルギー向けの原料需要増大による穀物市場の高騰が、 食品の値上げとなって食卓を直撃しはじめた。 この特集では 「世界の食料需給の新局面」 を考察し、 畜産を切り口に日本の食の海外依存や食料生産のあり方について考えることにした。

食の海外依存を考える~生協の共同購入利用データを素材に~

名和 洋人 (京都大学大学院経済学研究科博士課程  『協う』 編集委員) 

 近年、 わが国の農産物市場の開放が顕著に進展し、 加工品も含めて外国産農産物への依存を一層深めつつある。 その結果、 いまの私達の食卓はどうなっているのか、 どこからきた食品が並ぶようになっているのか。
  ここでは、 そうした問題意識から生協の共同購入で扱われている商品を素材に、 その一端をみてみることにした。 共同購入企画商品の分析にあたってはA生協のご協力をいただき、 共同購入の供給データをご提供いただくことができた。 ご協力についてあらためて謝意を表したい。
  今回の分析対象は、 肉類、 肉加工品、 ハム・ソーセージ、 肉類を利用している冷凍食品など (以下:畜産関連商品) である。 分析対象を畜産関連商品としたのは、 相当程度外国産品への依存が高いと推定したからである。
  分析に際しては、 A生協の今年7月 (1回~4回) の共同購入における上記商品の国内産、 外国産別供給金額、 年齢別供給金額の実績データをベースとし、 畜産関連商品を種別にカテゴリ分けした中分類別のデータを根拠とした。 また、 産地が明示されず 「中国加工」 などと加工地のみが商品案内中に明示されているものは、 中国産として判断した。 加工地以外の国が産地である可能性も否定し得ないが、 少なくとも国産の肉を中国に輸出して加工し加工品を再度輸入し直すことは考えにくいことと、 国産か外国産かを問う際には大きな影響はないものと考えた。

年齢別にみた供給状況の概要
  図1は、 7月 (1回~4回) 共同購入における畜産関連商品の国産、 外国産別の供給金額を年齢層ごとに示したものである。
  分析対象が肉類ということもあって、 35~49歳の子育て世代に対する供給が大きくなっていることがわかる。 特に40~44歳層で国産、 外国産ともにピークを示している。 年齢層にも左右されるが、 国産商品の供給金額総額は外国産のそれと比べて2倍を超える水準にある。
  また図2は、 これを実際に利用した組合員で割った、 年齢層別の1人あたり平均供給金額をあらわしたものである。 1人あたり平均の国産商品供給金額は外国産のそれと比べて、 ほとんど全ての年齢層で約1.3倍程度の水準になっていることがわかる。
  実際、 利用者数でみても、 国産品利用者数の7月の累計は43万3千人を超え、 外国産利用者数累計20万7千人を大きく上回っている。

加工程度の高い商品ほど外国産品の割合が高くなる
  図3は、 中分類カテゴリ別供給金額の、 国産、 外国産比率をあらわしたものである。 なお、 各カテゴリに属する商品の例については、 表1を参照いただきたい。 また、 表2は、 各カテゴリの対象商品の7月 (1~4回) 企画点数累計を国産、 外国産の別に整理したものである。 これらの図表を参照しながらいくつかの特徴を述べてみたい。
まず、 「畜産牛肉」 「畜産豚肉」 「畜産鶏肉」 に該当する加工程度の低い肉類については、 国産商品が供給金額の大部分を占めていた。 畜産牛肉に関しては、 8.5%を外国産が占めているが、 これはすべてオーストラリア産である。
  次いで、 肉加工品である 「加工牛」 「加工豚」 「加工鶏」 「加工その他」 に該当する商品に関しては、 それぞれの間に大きな相違があった。 まず 「加工牛」 (すべてオーストラリア産) については、 企画点数が国産、 外国産とも同じである (表2) にもかかわらず、 外国産の供給金額割合が67.5%と極めて大きくなっている。 他方、 「加工豚」 の外国産比率は企画点数が少ないこともあって極めて低く3.2%となっている。 次に 「加工鶏」 は30%近くを外国産が占めており、 特に串刺しの焼き鳥商品のほとんどは中国産であった。 「加工その他」 のカテゴリでは、 21.6%を外国産が占め、 「ハム・ソーセージ等」 においては外国産の肉を利用した製品供給割合が6割近くを占めていた。 「冷凍食品関連」 においては、 国産33.8%、 外国産44.2%という結果であった。 国産商品比率の低さが際立つ結果であった。
  なお、 これら国産、 外国産の割合については、 企画点数とともに、 国産の銘柄やオーストラリア牛など個々の商品に対する評価やハム・ソーセージなどの外国産への評価の高さなども背景にあることを考慮しておく必要がある。

加工肉利用の主力は35~39歳の年齢層
  各中分類カテゴリについて、 年齢層別に利用金額の分析を行ってみた。 いくつかコメントすべき点があったので、 表3を参考にしながら明示しよう。
  表3の(1)年齢別供給金額を見ていただきたい。
  加工程度の小さいもの、 特に畜産牛肉、 畜産豚肉においては、 供給金額のピークが55~59歳の年齢層に出ている。 40~54歳の年齢層においても比較的高額の利用が確認できる。
  畜産鶏肉の最大供給金額は40~44歳であり、 次いで35~39歳の層となった。 畜産牛肉、 畜産豚肉に比べて若年層の利用金額が大きい。
次に加工程度の大きいものについてであるが、 まず加工牛は、 畜産鶏肉とほぼ同様の傾向を示し、 40~44歳層にピークがある。 加工豚、 加工鶏、 加工その他については、 利用者の主力がさらに若くなり、 35~39歳が最大供給層であり、 次いで40~44歳、 45~49歳となった。 ハム・ソーセージ、 冷食については40~44歳の層に対する供給金額が最も大きくなっていた。
  表3の(2)年齢層別各カテゴリの供給金額割合は、 表3(1)と同じデータを各年齢層内での百分率として示したものである。 供給規模の大きい30~74歳の層で限定すると、 比較的高い年齢層では加工程度の小さい畜産牛肉や畜産豚肉の供給金額の割合は高くなっており、 逆に若い年齢層においては、 「加工その他」 を中心に加工肉の供給金額割合が高くなる。
  次に、 これらの結果を踏まえて、 各年齢層が選択している産地 (国産、 外国産) の割合について、 特に明確な傾向が見られた 「畜産牛肉」 「加工その他」 に限定してみてみることにする。 図4は、 畜産牛肉の年齢別供給金額を表しているが、 外国産牛肉の供給金額が44歳以下の層で明らかに高まっていることがわかる。 外国産 (すなわちオーストラリア産) の供給面では、 この世代の位置は大きいと言える。 一方、 「加工その他」 (図5) では、 50~64歳層の国産品供給金額割合が高くなっていることがわかる。 こうした結果が、 そのまま 「50~64歳層における国産志向の高さ」 を示すとは直ちに言い切れないが、 他の年齢層に比べて5ポイントから10ポイント高く無視できない違いが出ていることは確かである。

おわりに
  今回の分析結果を一言でまとめるならば、 共同購入において加工品を利用する頻度が多いほど、 結果として外国産の利用頻度が多くなる確率が増し、 また、 加工品を利用する頻度が高いのは、 30~44歳の比較的若い年齢層であるということである。
  比較的若い年齢層で加工品の利用が多いのは、 子育て世代であることと、 他の年齢層、 とりわけ子育てを終えた年代層と比べて、 所得や支出、 そして共働きなどに伴う時間的な余裕の無さ、 などがあると思われる。 さらには、 食品加工レベルの進化やそれに伴う 「中食化」 の進展、 そして、 加工即、 安い労働力と原料を求めて海外に生産拠点や購入先を移す食品・流通産業の動きなども大きく影響していると考えられる。
  しかし、 そういう背景にあるからこそ、 私たちは食の外国依存について、 もう一度考えてみる必要があるのではないだろうか。
  加工程度の低い肉はほぼ国産であったが、 ここで忘れてはいけない問題もある。 それは、 わが国の飼料自給率が25% (平成18年 農林水産省ホームページ公表 飼料需給表 概算値) であることだ。 国産の牛、 豚、 鶏は外国産の飼料に大きく依存しており、 たとえ国産を選んだとしても、 その供給熱量ベースの総合食料自給率は極めて低くなるのである。 加えて加工品となると、 この調査でもみたように、 食の外国依存を一層高める結果となる。 先に見たように、 共同購入における国産の畜肉関連商品の企画数や利用金額は依然として多数を占めてはいるが、 組合員や消費者の選択が今後も食の外国依存の度合いを左右し、 大きな影響を与えていくことは間違いない。