『協う』2007年10月号 ブックレビュー1
特集テーマ:もう一度考える食のグローバル化
今、 日本の食は大きな転換期にさしかかっている。 バイオエネルギー向けの原料需要増大による穀物市場の高騰が、 食品の値上げとなって食卓を直撃しはじめた。 この特集では 「世界の食料需給の新局面」 を考察し、 畜産を切り口に日本の食の海外依存や食料生産のあり方について考えることにした。
大島一二 編著
中国野菜と日本の食卓 ー産地、 流通、 食の安全・安心ー
廣瀬 佳代 京都生協組合員 『協う』 編集委員
富山県では、 学校給食で中国産の食材を使用しない市町村が増えているらしい
(北日本放送9月5日http://www2.knb.ne.jp/news/20070905_12747.htm)。
また、 広島市学校給食会では、 調達する食材のうち中国産野菜を対象にした残留農薬の自主検査をスタートしている
(9月30日中国新聞)。
「危ない」 中国産? でも何がどんなふうに危ないのだろうか?
2002年、 冷凍ほうれん草に農薬が基準値を大きく上回って残留していたという報道から、
「中国産野菜は農薬まみれ」 と思うようになった人も多いかもしれない。
しかしその時は、 複雑な残留基準の設定方法や日本と中国の農薬の使用の違いなどの背景を抜きに、
「基準の何倍の残留農薬が検出された」 と危害要因 (ハザード) が強調されて報道されたためか、
日本の消費者が実際に被った 「リスク」 とは隔たりがあったようにわたしは感じている。
もちろんこの件をきっかけに輸入冷凍野菜の検査が強化され、 自主検査の義務付けなど食の安全を確保する体制が前進したことは確かだ。
しかし最近、 中国産商品から残留基準を越える農薬や有害物質が検出された、
との報道で、 生協組合員から 「なぜ中国産を取り扱うの?コープは大丈夫?」
という疑問や不安の声が寄せられている。 多くの生協では、 あらためて中国産商品の取り扱いについての考えを広報している。
たとえば日本生活協同組合連合会は9月27日付文書を、 ユーコープ事業連合では、
9月にパンフレットを発行している。
そういう状況の下で、 この本を読み最初に感じたことは、 わたしは中国の農業や野菜のことをほとんど知らなかったということであった。
編者の東京農業大学の大島一二 (かずつぐ) さんは、 中国の農村、
農業問題が専門で、 「中国産農産物・食品について、 生産、 加工、
流通の面から考えるとともに、 それらの農産物・食品の安心、 安全にかかわる問題についても解説」したものがこの本である。
本書は、 中国農産物の実際がどうなのかについて、 さまざまな資料をもとに、
また現地取材もされて冷静に紹介している。 中国の農業が発展途上にあり、
零細経営、 低い生産性、 そして生産過剰と農産物価格の低落など、 さまざまな問題を抱えていること。
今は、 圧倒的な安い労働力によって、 国際的な競争力を保っているが、
やがて高コストになり、 競争力の低下を招く可能性があることを明らかにし、
それを危惧している、 という。
もう聞きなれた数値だが日本の食料自給率 (熱量) は40%で、
主要先進国のなかで最低である。 2005年、 日本の農産物の輸入相手国は、
アメリカが30%、 中国13%。 なかでも輸入される野菜の約半分は中国からである。
野菜の生産は手間がかかるので、 人件費コストが価格に反映されやすくなり、
結果的に中国産は価格的に優位になっている。 野菜の商品としての差別化は難しく、
一部の 「ブランド」 を除けば、 価格が優先されてしまう。
輸出農産物について、 中国政府は、 輸出野菜の生産農場を登録制にし、
とくに2003年からは農薬の管理や残留農薬検査の記録を義務づけるなど、
一定の対策がとられている。 そのため、 日本へ輸出されたが残留農薬が違反とされた件数は減少している。
しかし、 中国の農業、 農産物はまだ発展途上にあり、 生産方法、 肥料や農薬、
そして流通や検査体制などを末端の農業者や農家に浸透させていくには時間を要する、
という。
日本の消費者が国産品を好み、 また行政や生産者が一所懸命に 「地産地消」
を進めてもなかなか向上しない日本の食料自給率を考えれば、 中国の野菜は日本にとって必需品であろう。
安いからという理由だけで 「利用」 するのではなく、 中国の農業、
農民、 農村が自立できるような農業技術を伝え、 取引をしていくこと。
そのことで日本が安心して食べられる、 中国が安心して作れる。 そういう中国へのまなざしを感じ、
日本の消費者が中国の野菜とどう付き合っていくのか、 考えていく手がかりになる一冊になるだろう。