『協う』2007年8月号 特集2

くらしと協同の研究所「研究会」レポート

特別研究会「組合員組織と活動研究会」
副座長:秋葉武(立命館大学産業社会学部准教授・当研究所研究委員)

 

研究会発足の経緯
研究会発足のきっかけは、 2004年の研究所総会記念シンポジウムの分科会に端を発する。 組合員活動をテーマとした分科会に参加したメンバーが刺激を受けて、 組合員活動をテーマとした研究会を立ち上げられないかとの声が挙がり、 理事会の確認を受けて、 準備会が2005年1月に立ち上がり、 議論を重ねてきた。
当時私たちの問題意識はおよそ以下のようなものであった。
① 生協組合員が増大して属性が多様化する中、 例えば組合員活動で世代間のギャップが生じている。
② 組合員の暮らし、 生活を取り巻く外部環境、 例えば 「望む生活」 「リスク」 も世代によって大きく異なっている。
③ 多くの単位生協は「理想型の組合員」と「現実の組合員」との間に、 大きな乖離が生まれていることを明確に意識しないまま「組合員活動」を展開しているのではないか。

研究会発足
およそ半年間の準備を経て特別研究会として2005年7月にスタートした。 研究会メンバーは表の通りであるが、 ①研究者、 ②生協の組合員理事あるいは元理事、 ③生協の組合員活動担当部署の職員、 という3種類の属性で構成された、 いわば「寄せ集め集団」である。 座長を井上英之氏、 副座長を筆者、 事務局を岩根泉氏が務めることになった。
  第1回研究会のゲストに川口清史氏((当時)研究所理事長)、 第2回のゲストに二村睦子氏(日本生協連組合員活動部)を迎えてテーマに沿った報告をいただいた。 報告を受けてメンバー間で出し合った問題意識はおおむね以下のようなものがあった。 第1に、 機関運営において班を基礎とした運営に限界が生じていること、 第2に、 組合員活動という「領域」が、 想像以上に生協の事業の広い範疇に及んでいる、 ことである。 また、 各メンバーの関心が、 自らの業務、 活動によって大きく関心が異なっていることもあって、 ゼミ方式で研究会を行っていくことになった。

ゼミ方式の研究会
  研究会ではテーマに関するマトリクスを作り、 話し合いながら各メンバーがテーマを絞っていくこととした。 「組合員個人」に関心があるのか、 「班活動」なのか、 「組合員のサークル・自主活動」なのか。 あるいは、 「機関運営」に関心があるのか。 その上で、 メンバーを2グループに分けてミニ研究会も実施した。 研究テーマの確定、 論文の作成に至るまで、 多くの時間を取った。 報告し合って質問、 指摘しあう。 研究会の時間を1回あたり平均6時間かけることとなった。
  生協の組合員活動の現状に関する先行研究が極めて限られているなか、 こうした研究会の開催、 メンバーによる論文執筆と報告書の出版を通して、 とりあえず組合員活動に関するリアルな状況を一部でも補足できたのではないかと自負している。 そしてメンバーが協同による研究という作業を通して、 メンバー自身の仕事、 活動のエンパワーメントに繋がったのではないか、 と考えている。  
  そのなかから一例を紹介しよう。 本郷靖子氏(アズナチュラル協同研究所)は、 以前首都圏の単協の理事長等を歴任するなかで、 「人材育成」に関心を持った。 氏は実践を通して、 生協は人と人とのつながり、 地域との深いかかわりによって成り立っているので、 「人材」 により焦点を当てるべきと考えた。 それにも関わらず、 現実はそうなっていないという問題意識を持つようになった。 こうしたなか、 「人材育成」 をより広い概念で捉えるべきではないかと考えるようになった。
  つまり、 この用語は組織にとって必要な実務家・専門家を育てるというイメージが定着しているが、 果たしてそれだけで良いのだろうか。 生協に関わる一人ひとりが 「自分らしく生き、 幸せになる」、 「組織や地域やコミュニティで役割を発揮する」 ためには、 自ら主体的に学び、 気づき、 出会い、 つながり、 広がり、 実現するということを体系だって進めていくことが必要なのではないか。 人材育成を各人のキャリアの開発やゴールの設計に向けた 「側面からの支援」、 「場の設定」 も包含して人材育成と考えるべきではないだろうか。
  この研究会に参加するなかで、 従来から持っていたこれらの問題意識をさらに深く掘り下げて いった。 多様なメンバーの視点は、 より現場に近いところにあり、 大変刺激を受けたという。 例えば、 メンバー間で同じ用語を使って議論していても、 それぞれ定義に微妙な違いがあり、 議論がかみ合わなくなることを研究会で再認識した。 「人材育成」という言葉自体、 職員はともかく、 組合員にはフィットしないのではないかということや、 「人材育成」 という言葉でイメージする内容が、 人によってかなり幅があるということなども分かってきたので、 このテーマを掘り下げるに当たって、 まず 「人」 に関する各生協の取り組みの 「事実を知る」 ことからはじめたいと考え、 詳細な調査を行うことになった。 複数の生協の (a) 組織を統括する責任者という立場を持って人材育成を担当する役員、 (b) 組合員出身という立場で人材育成を担当する役員、 (c) 職員の立場で実務として人材育成を担当する職員それぞれにアンケート、 ヒアリングを実施した。
  紙面の都合上、 本郷氏1人しか紹介できないが、 他のメンバーもこの研究会に関わったことで多角的な分析を行い、 新しいフィールドを確立するきっかけになるものと考えられる。 報告書では、 インターネット、 広報といった従来あまり焦点が当たってこなかった分野もあれば、 組合員活動を新しい視点で捉えなおした論文もある。 文体のスタイルの違いなど、 やや読み辛い部分もあるが、 ご一読いただければ幸いである。