『協う』2007年8月号 Book Review 2
河野直践 著
『新協同活動時代』
林輝泰(消費者支援機構関西事務局スタッフ)
「地域社会と協同力」 は、 研究所の総会記念シンポジウムのテーマであった。 この 「協同力」 という言葉をキーワードにした新刊書が 『新協同活動の時代』 だ。
本書の第1章タイトルは 「『協同力』 の時代だ」 となっており、 今日の社会における協同活動や協同組合運動の必要性が平易かつ明瞭に示されている。 内容を紹介する前に、 著者の河こう野の直なお践ふみ氏の経歴を紹介しておこう。 河野氏は、 現在46歳で茨城大学の教員をされている。 生まれも育ちも東京の都心ながら、 大学卒業後、 全国農業協同組合中央会に入職された。 その後、 (財)協同組合経営研究所に研究員として6年間派遣されるという経歴である。 その経験もふまえ、 「協同組合の出番」 という時代認識や協同組合運動に求められていることを現場実践から発信している。
「『協同力』 の時代だ」 のところで、 私がもっとも納得させられたのが、 これからの時代認識である。 一部引用させてもらうと、 「たしかに、 昔のように貧しかった時代には、 経済を成長させることが国民全体の生活水準の向上につながった面があるが・・・いまや、 経済を成長させればさせるほど、 逆に生活の質が低下する時代に入りつつあるのではないだろうか」、 「経済が成長すればするほど、 人々はよけいなお金が必要になり、 それを手に入れるために、 私たちはまた余分に働かねばならなくなる」 と、 ペットボトルの飲料や携帯電話を例にあげ鋭く指摘している。
さらに河野氏は、 人々が 「競争に乗せられてばかりでいいのか」 という懸念から、 人々の 「思考の 『硬直化』 と 『短絡化』」 にも警鐘を発しつつ、 「ものごとの 『過程』 を大切に」 という呼びかけを行っている。 そういう考えからすれば、 人々は単なる消費者として生きるのではなく、 生産や流通の過程にもっとふれることによってその一面性を超えること、 そのために、 「いのちの視点」 を機軸にした生産者と消費者の有機的なつながりを回復させることを強く提唱している。 そのつながりを牽引するのは、 「一人ひとりの参加」 と 「非営利・協同組織」 以外にありえない。 だからこそ、 今の時代参加型組織としての 「協同組合」 と非営利組織としての 「協同組合」 の出番なのだと強調している。
一方、 協同組合運動に求められることを日本の農協制度を例に反省しつつ3点あげている。 第1は、 未来を展望する新しい視点で協同組合としての 「使命」 を人々に訴えていくことの必要性である。 第2は、 組織の革新である。 特に日本の農協の場合、 国の手で政策的に組織づくりがされてきた点に特徴があり、 そのため組合員の参加意識が乏しかったり、 自主性の弱い組織になっていることを指摘している。 その上で第3は、 事業面でも経済合理性の追求に終わらないで、 それと 「生きがい」 ・ 「環境」 などに対する配慮を結びつけた、 双方に依拠する事業戦略をとることがこれからの鍵になると提起している。 この3つの課題解決のヒントをもとめて、 本書の第2章から第4章までが費やされ、 精力的に現場に足を運び、 近年各地で取り組まれている 「新しい協同活動」 の取材・紹介・分析を試みている。
私は、 合理性と生きがい・環境などとの双方に依拠した事業戦略をとるという点で、 運動組織にとどまらない協同組合特有の困難性と可能性があり、 同時に今の協同組合人の悩みとやりがいがあるのではないかと思う。 現場レポートでは 「コープかごしまが農業を始めた」 から始まり、 「産消混合型協同組合」、 「映画生協 (岩手県宮古市)」 など、 生協、 農協、 漁協、 大学生協、 高齢者生協の現場事例を伝え、 連合会の役割も含め、 新しい協同力が紹介されている。 分かりやすさを意図したために 「事業・経営問題」 の課題に多く紙幅を割かれていない点は残念であるが、 これは各地の協同組合の実践家と研究者に求められる共通の課題として理解できるだろう。
最後に、 河野氏が 「私たちはいま、 得ようとしているものと失おうとしているものの双方を、 立ち止まってよく吟味すべきではないだろうか」、 「私たちの歩もうとするスピードではなく、 歩みだそうとする方向こそが重要だ」 と提起している。 3つの課題に現場発で立ち向かい、 ともに踏み出そうではないか。 私は本書のメッセージをそう読み取りたい。