『協う』2007年6月号 特集2

生協トップインタビュー

生協労働とグループ経営 
瀧川 潔さん (ならコープ前理事長)
 

座談会で見たように、 生協の労働も多様化している。 これに対して、 生協を経営するトップはどう考えているのか。 2007年4月、 本研究所の理事会で、 以下のような発言をされた、 ならコープ瀧川潔理事長 (6月に勇退) にお話を伺った。


**研究所理事会での瀧川理事の発言から**

現在、 全国の多くの生協で 「業務委託」 が広がっている。 今後どう展開するのか、 子会社やさらにその先との連携はどうなるのか、 グループ経営という考え方を生協でも位置づけていく必要がある。 職員だけで運営しきれない部分を連携してグループでやっていこうとしているが、 そこには問題も発生している。 労働組合とは立場は違っても、 将来展望をつくるという点で、 共に考えあいたいと思っている。 そこで、 研究所という場を活かして労理が一緒に研究できたら、 すばらしいと思う。

ならコープでの業務委託の経過や生協労働についての問題意識はいかがでしょうか・・・
ならコープは、 組合員さんの事業参加という意味もあって、 創立当初からパートタイム労働をかなり導入してきました。 ただ、 当時は共同購入生協でしたから、 配送業務は組合員のパートタイム労働では無理ということで、 本部や事務・組合員活動分野を担ってもらいました。
その後、 特にここ5~6年の間に、 それまで正規職員が担っていた分野にもパートタイム労働と委託労働が一気に広がりました。 配送についても、 今は物流改革もあって女性にもできるということになり、 女性のパートタイマー (この数年は男性パートタイマーも) による共同購入配送が広がっています。
もうひとつは、 首都圏が典型ですが、 班配が減る一方、 個配が伸張してきて、 共同購入のインフラを活用した個配が一気に広がり、 委託労働が増えています。 ご承知のように、 個配は、 班配に比べて配送効率が悪いので、 そのコストに対応しようとすると正規労働者の賃金体系ではとてもやっていけない。 事業の構造としては正規よりも賃金が低いパートタイマーや委託という形で対応しないと採算が合わない現実があります。 このことは、 法制度で定められた報酬に依っている福祉事業でも同じだと思います。 結局、 社会的な流れに生協の業務構造自体も対応せざるを得ないわけで、 正規労働とパート労働、 委託労働、 さらには派遣労働を導入しないと業務が成り立たないという構造になってきています。
こういった現状が進む以上、 理事会と労働組合のいずれにおいても生協労働のあり方や労働力構成について、 双方の立場から整理し、 意見交換をしなければならなくなっています。 そうでなければ、 現場で3つの労働がちぐはぐな形で混在することになってしまい、 しかも正規労働の意味が薄れてきて、 パートタイムや委託労働のみなさんから 「いったい生協の正規労働とは何か」 という疑問が出されてくるからです。 どの生協でも同じだと思いますが、 共同購入支部・支所のなかに3つの形態の労働が入り組んでいます。 多くが同じ業務に臨んでいるわけですから、 労働者同士は矛盾を感じながら、 「組合員のために」 という仕事をやっているわけです。 こうした現状は、 生活協同組合として発展させるべき業務や業態のあり方という観点、 そして働き方や処遇のあり方という観点の両方から、 将来展望につながるような議論が必要ではないかと思います。 その思いから研究所の理事会で問題提起をさせてもらったわけです。
実際、 社会的な流れの着地点は見定めにくいですが、 正規労働とパート労働と委託の関係性を今後どう考えるべきか。 それぞれに意味があるのであれば、 意味のある内容をきちんと位置づけて、 きちんと組み合わせるべき内容とポリシーを持っておく必要があると思います。 それをこのまま放置し、 3つの労働形態で働く人たちの矛盾を抱えさせたままで、 はたして組合員さんのくらしに貢献することができるのだろうか。 そういう問題意識があります。

ならコープでは、 「グループ経営 (子会社論)」 を打ち出されたようですが、 その考え方をお聞かせ下さい。
  どの生協でも必ず 「組合員対応」 があります。 商品を供給する時も班長会や地域の委員会対応の時も、 いままでは事務局として正規職員が対応して 「パートさんは対応しない」 と言ってきました。 ところが、 比率でいえば正規職員は減ってくるので、 パートさんにも組合員活動の意義や内容などを理解してもらってきちんと対応してもらわないといけなくなりました。 パートさんで対応できなくなってくる場合は、 委託の方にもやってもらうことになってきました。 いままで業務委託の会社には、 「一部だけ委託する」 という考え方でしたが、 「偽装請負」 だと指摘されない状況が必要であり、 「完結的な業務単位」 (事業所単位も含め) を委託する必要も出てきました。
  それで内部で議論した結果、 現在ならコープでは 「子会社論」 が出てきています。 いままでは生協とはいわば無関係の会社に委託してきましたが、 まず子会社をつくってそこに委託し、 子会社と委託会社とをバランスよく運用する形態です。 その場合、 子会社は、 ならコープと基本的に理念を同じくする子会社です。 「組合員さんのためにがんばる」 ということで子会社なら、 より理念の共有ができる、 というのがその理屈です。 法制度などを研究してさらに整理しなければなりませんが、 そした考え方で、 子会社に委託しようと考えているところです。 そして、 組合員や消費者に対応・貢献するのに、 子会社と一緒に取り組み、 生協グループとして組合員対応をすることが必要だということになります。 一般企業もたくさんの子会社をつくって 「グループ企業」 としていますが、 今回の提起は、 形は似ていても、 中身は違った 「グループ経営」 です。 これは、 次の第8次中期計画の基本として森専務理事(現、 理事長)の提起による 「グループ経営」 という考え方を盛り込んでいます。

子会社と委託会社との関係性は、 どのようになるのでしょうか・・・。
  これまでも別の会社に業務を委託してきたのですが、 委託会社に依存しすぎると、 すべては交渉事になってしまいます。 その場合、 問題はコストを適宜、 切り詰めていくことができるかどうかです。 委託会社は、 委託の範囲が増えれば増えるほど強い発言権を持つようになります。 「うちが手を引けば、 あなたのところも困るでしょう」 ということもありうる。 そうすると、 もともと抑えたコストでやってもらっているわけですから、 委託経費は高くなり、 厳しくなります。
  そういうことも見通して、 生協のグループ経営として、 理念を同じくしながら組合員に対応できる子会社を設置して、 その子会社との関係を土台にしながら進めたほうがいいのではないか。 基本は子会社が配送業務を担当し、 同時に一般の会社 (委託会社) と競いあってもらうという関係をつくっていきたいということです。 そのことで、 ほどよい両者の緊張感もできて、 生協としての業務水準や質を保ちつつ、 組合員への役立ちができるのではないかと考えています。 ただ、 理念共有という場合、 子会社だけでなく別会社とも共有しなければならないので、 それをどうするかという問題は残っています。 それは整理しないといけないと思っています。

今日の問題提起は、 調査や研究課題としてあると思うのですが、 最後に研究所へのご注文を・・・
 基本は先ほど申し上げたようなことで、 生活協同組合として、 一般企業と競争しながら勝ち抜いていって、 組合員のくらしに貢献する事業活動を確立しなければいけないわけです。 その意味では、 社会における労働法制とともに協同組合としての生協労働のあり方に対しても一定の理論的整理が必要だと思います。 ぜひとも研究者の先生方から理論的なアドバイスをいただきたいと思います。 今後ともよろしくお願いします。