『協う』2007年6月号 特集1
座 談 会 多様化する生協労働
いまや団塊世代の子どもの3割はニートやフリーターや派遣社員だという (三浦展『団塊格差』文春新書、2007年)。いつのまにか、日本はそんな国になってしまったのである。 そうした「格差社会」 のなかで、実は生協でも、かつてはなかったような身分保障と年収の格差をもった、さまざまな労働形態が導入されている。下表にあるように、 関西地区のA生協においても、全労働者のうち、正規職員は3分の1、パート職員も3割で、その他の労働者が3分の1以上を占めている。 もはや生協の労働・職員問題は、直接雇用の「セ・パ」 (正規とパート)の問題としてだけでは語ることが出来ないのである。
いま生協労働の現場はどうなっているのか。A生協のそれぞれの形態の労働者計11名に2007年5月にインタビューした研究者2名、大学院生2名、生協職員2名が、格差社会における生協労働の現状やあり方について、若い院生の報告を中心に語り合った。
派遣社員の働き方
【司会】生協労働も多様化しているということで、 まず、 これまではなかった形態の労働者はどんな働き方をされているのか、 インタビューの結果をお願いします。 最初は、 契約した人材派遣会社から生協に派遣されてくる 「派遣社員」 について、 です。 A生協では、 8つの派遣会社と契約しています。
【院生】33歳の独身女性、Aさんの場合、以前は飲食店、化粧品のテレフォン・アポインターなどをされていましたが、派遣会社の紹介で、生協とは知らずに入ったということです。 契約時間は8時間×週6日。 時給は派遣の方がパートより良いが、福利厚生はパートの方が派遣よりも良く、 月収は18万円くらい。コールセンターでの苦情・クレームの一次対応がメインの仕事ですが、 職場は正規社員6人、 派遣とアルバイト合わせて50名くらいで、和気藹々としていて、 みな親切、 仲良くしようとする雰囲気。 ただし、 仕事の内容を評価してくれる仕組みがないので、 「やりがいがある」 とは言いにくいそうです。 がんばっても給与面の評価につながらないのがつらい。 では正規職員になりたいかというと、 それ以前に 「無理」 とのこと。生協の特徴としては、 「親切に、 丁寧に」 を重視し、 人同士の助け合いを重視していること。例えば退会した組合員にもポイントが残っていることを伝えるのは他の職場では考えられない。ただ、 親切すぎるから、 苦情が増える」 (一人暮らしの年配の方が寂しさを紛らわせるために電話をしてくる等) ということもあるのでは・・・。 今まで数回 「コールセンターの○○さんが丁寧な対応をしてくださった」 との組合員からの声が現場を通して伝わってきた。働く場としての生協の総合評価は、 5段階評価で3.5くらいということでした。
【院生】Bさんは、 お母さんと2人暮しの36歳の女性です。大学卒業後、 不動産会社で10年ほど正社員で働いた後、 派遣会社に登録し、 3~4ヶ所のコールセンターで通販の受注などを担当され、 2年前より生協勤務になられたそうです。 契約はAさんと同じで、 時給は1200円、 月収は約18万円とのこと。 不動産会社に勤務していた際にも収入は現在と同程度で、 福利厚生は派遣会社に登録後の今の方が良いくらいということでした。 希望としては、 時給を上げてもらえるととても嬉しいそうで、 他の派遣会社からのスタッフの方々と一緒に仕事をしているが、 以前は収入の格差があり、 皆で派遣会社に交渉して高い水準で統一してもらったことがあるそうです。 また、 受け付けた苦情や 要望について、 それが改善されているのか、 わかりにくい。 共同購入のメリット (班組織) をもっと生かしたほうがよいのではないか、 といったご意見をお持ちでした。 人間関係は良好で働きやすいので、 こうした環境が維持・発展されれば良いとのことです。
意欲的な委託社員
【司会】つづいて、 「委託社員」 ですが、 これは生協が運輸・配送会社と業務の委託契約を結び、 その会社の社員が生協の業務を遂行するという労働形態です。 A生協では、 個配の配送業務について、 3社と委託契約を結んでいます。 いわゆる請負ですから、 現場で個々の労働者に対して、 職員から直に業務指示をすることが出来ません。 生協の仕事をしているけれども、 実は生協からは直接の指示を受けていないという労働者の方々です。
【院生】Cさんは、 21歳の物流会社男性正社員で、 この春からリーダー職になられたそうです。 雑貨を扱う会社を数ヶ月で退職され、 コンビニで夜間バイトを経験され、 今の会社で契約社員として6ヶ月頑張られ、 昨年の秋から正社員になられたとのこと。 生協からの委託業務を受けて約1年。 コンビニからの転職の理由は、 給与などが大幅にあがることになるからで、 月収は残業代も含めて、 手取りで20~25万円、 その中から自宅に4万円入れているそうです。 コンビニと比べ、 収入は労働時間とともに約2倍近くになるそうですが、 仕事が楽しく、 あっという間に時間が経つので、 全く苦にならないとのことでした。 仕事を始めた当初は、 スピード配送して早く終わらせたいと思っていたが、 最近は変わってきて、 特にリーダーになってからは、 組合員拡大、 共済拡大に関心を持てるようになり、 勤務時間は朝6時~午後3時が定時だけど、 残業が随分増えたとのことでした。 それでも、 個配でも約半数の組合員さんとは会えるので、 おばちゃんと話をするのが楽しいとのこと。 あと労働組合はありますか?と尋ねたら、 「詳しくは、 知りません」 とのことで、 事務所に労働組合ニュースは貼ってあったので、 その答えは意外でした。 生協の職員さんの仕事に対しては、 職員さんの方が営業活動にもっと責任を持っていると感じておられるとのこと。 同年齢の生協職員給与のことは聞いたこともなく知らない、 とのことでした。 今後については、 働いているからには上(センター長)を目指したい、 責任を持てる立場になりたいと意欲的です。
【院生】Dさんは、 車の運転に関わる仕事をしたかったという25歳の女性の方でした。 生協の配送を担当するようになって1年数ヶ月で現在、 この方もリーダーをされています。 仕事内容が配送のみのときは、 朝7時から仕事が始まり、 午後4時ごろに終業だったが、 リーダーになってからは、 スタッフ全員の配送が終了しないといけないため、 帰宅時間はかなり遅くなっているとのことでした。 組合員拡大や共済の目標が30件/年で、 契約を取ったら手当てがつきますが、 今のところ給料の 「額」 にはあまり関心が無く、 組合員さんとコミュニケーションがとれるのが楽しいそうで、 不在のお宅とも手紙でやり取りすることがあるそうです。 在宅の組合員とは世間話が多く、 長いときは1時間程話をすることもあり、 組合員さんから配達した商品を頂くこともあるといいます。 今までは共済等の 「営業トーク」 をすることに抵抗があったが、 最近は商品の良さを知ったので、 あまり抵抗がなくなってきた。 今の会社は、 男女間の待遇の違いが全くなく、 これから出世できる可能性が高い、 と考えておられました。 ただ、 仕事を辞めていくスタッフも多いらしく、 その理由のほとんどが 「予想よりしんどい」 だそうです。 月~金曜日の5コースの配達で、 1コースあたり約45~60戸に商品を運ぶ肉体労働で、 共同購入よりも個配の方がきついとのこと。 彼女の場合はきつい仕事をしているというプライドもあり、 生協の職員が、 自分たちのことを評価してくれているのを感じるのでOKということのようです。 仕事をしていない若者についてはどう思うか?と尋ねたら、 「なめとるな!」 と思う。 病気などの理由がある場合は仕方ないが、 きついのでやめるというのは根性が足らんのではないかと厳しいご意見でした。 Dさんも、 Cさんと同じく長時間労働の毎日なのですが、 やる気満々という印象です。
長時間労働には不満を持たれていないようでしたが、 仕事上での希望としては、 共済や組合員拡大に関して生協からの情報が計画的に伝わってこないため、 効率良く営業ができないこと、 意思疎通を密にするなどして、 この点は解消できないだろうかと言っておられました。 働く場としての生協の総合評価は、 5段階評価で4.5ということでした。
女性アルバイトと男性アルバイト
【司会】業務を外部委託したり、 派遣に頼ったりすれば、 本来は委託会社、 派遣会社に払う手数料の分だけコスト高になるはずです。 ところが実際は安上がりになるということでアウトソーシングがどこの企業でも盛んに行われている。 それは要するに、 身も蓋もない言い方をすれば、 安い給料で働いてくれる若者を 「使い捨て」 できるからですが、 インタビューしたお二人はそんなことを全く感じさせず、 やる気にあふれているようで、 これについては後に議論したいと思います。 次は 「アルバイト職員」。 これは生協が直接雇用している人達ですが、 A生協の場合、 アルバイト契約の有期雇用期間は半年ということです。
【院生】Eさんは、 共同購入の配送センターで、 配送トラックへの商品の積込みと片付けを主に行うアルバイト契約の方です。 35歳の女性で、 契約時間は3時間×週4日。 子どもさんが小学校に入り、 勤務時間帯が合っているのが働くきっかけだそうです。 時給は780円で月に約4万円ほどの収入になり、 自分の好きなものを買う+一部生活費にしておられるそうです。 アルバイトでも有給休暇があってとてもありがたいとのことですが、 仕事のできる人とできない人が同じ時給であることには不満を持っておられます。 少し前に、 時給が良く、 昇給もあるパート職員への申請も考えたが、 勤務時間、 職種変更、 勤務地異動など勤務条件が自分の生活スタイルでは無理と思い、 諦めたそうです。
【院生】FさんもEさんと同じ仕事内容で、 23歳の男性の方です。 契約時間は4時間×4日。 生協に勤めるまで、 工場やガソリンスタンドのアルバイト (当時の時給710~730円) を経験されています。 父親と祖母と3人暮しで、 現在の月収は約5万円。 生活状況はぎりぎりの状態であるが、 なんとかやっているとのことでした。 将来は配送パートへの異動を希望しているが、 まだ道を覚えられず難しいとのこと。 職場の人間環境も良好で、 先輩仲間と飲みに行くこともあるそうです。 労働環境には不満はないそうで、 労働時間がもう少し長い方が嬉しいとのこと。 また驚いたことに、 Fさんは配送業務が担当できるようになりたいということで、 担当地域の道を覚える努力を、 業務時間外に懸命にしているそうです。 さらにできれば正規職員を目指したいとのことでした。
Fさんは、 若者がネットカフェで暮らしているような状況は大きな問題と感じ、 若年層が安定的な生活ができるようにすべきではないかと考えておられました。 ホームレスが減ったとしても、 こうした問題が逆に増えているようでは解決になっていないと考えているとのこと。 身近でも、 比較的成績もよかった、 まじめ人がニートになっているそうです。
パート職員も多様化
【司会】生協のアルバイトというのは、 もともとは主に主婦の方とか、 大学生であるとかの短時間労働を想定して導入されたものと思いますが、 それが現在では 「若年」 男性のメインの仕事にもなってきているわけですね。 A生協では、 アルバイト職員でも有給が取りやすい雰囲気があるようですが、 彼らにとっては非常にありがたいことではないでしょうか。
それでは続いて 「パート職員」 ですが、 A生協の場合、 パートは、 店舗、 共同購入配達、 本部事務といった業務を担当されています。 最近、 「パート職員人事制度」 というものができたそうですが、 これは①面接制度②キャリアアップ制度③役割任用(リーダー)制度④(正規職員への)登用制度というものです。
【院生】Gさんは、 共同購入の配送パート職員さんで38歳の女性。 約5年前に週3日×4時間の契約を1年続けた後に、 母子家庭となり、 今の8時間×週4日に変更されたそうで、 生協歴は4年。 前から生協の組合員で、 子どものアトピーがひどく生協の食品が気に入っていたのですが、 パートの募集をみて、 自分は車の運転ができるし、 接客も好きだし、 食品も好きだったので、 生協を選んだとのこと。 現在1日に15班を2回、 合計500人に配達されていますが、 組合員の顔と名前はほとんど全員覚えておられます。 生協の給与については、 時給 (約1200円) は良いが、 トータルでは良くも悪くもない感じだそうです。 ただ、 正規職員とほぼ同じ仕事をしているのに・・・という気持ちはあると率直にお話しいただきました。 これから 「パート人事制度」 がスタートするので、 そこで成績を上げていけば正規職員への道も開けるかもしれないと期待されています。
労働条件などは言い出したらいろいろあるが、 支所の雰囲気がとても良いので長く続けていける。 年に数回研修があり、 そこで他の方々と交流もでき、 契約日外の出勤にはなるが、 商品の知識などが得られ役立っている。 ただ、 フルタイムで働いているので、 チーム会議等に出席しているため、 そちらからの情報の方が役に立つことが多い、 といったお話しでした。 職業にするまでの生協の仕事のイメージは、 「配達」 「人と話す」 というものだったが、 実際に働いてみると、 「共済」 や 「新規加入」 など営業目標があって、 組合員とさらに積極的に会話し、 紹介してもらうなど、 やりがいにつながっている反面、 普通のパートさんには目標というのはしんどいのではないかと思う時があるそうです。 委託の個配業務については、 商品を置いて帰ってくるだけで、 コミュニケーションも少ないのでしんどそうですねと言っておられました。 お子さんの将来の夢が 「お母さんと同じ配送パートになりたい」 だそうで、 これには驚きました。 働く場としての生協の総合評価は、 5段階評価で4.5ということでした。
【院生】HさんもGさんと同じ配送パート職員さんですが、 4時間×4日契約の24歳の男性で、 現在、 収入はほとんど得られないけれどもお笑いの舞台に時々立っているというユニークな方でした。 1197円という時給の良さと、 職場の人間関係がとても良好なのが、 仕事を続けている理由とのことでした。 両親と3人暮しで、 いま生活に困ることはないが、 今後は自立していく必要があり、 本音を言わせてもらうなら、 もう少し長い時間、 仕事をすることを希望されています。 組合員さんとの会話がとても楽しく、 舞台の活動の際にも役に立つと思うし、 生協の先輩でトークのうまい方から学んでいるそうで、 将来は芸人を目指しているが、 芸人として一人前になれるまでは、 配送パートの仕事を続けていきたいということです。 近年の 「多様な働き方」 に関しては、 プロ意識を持てると考えており、 積極的な評価をしたいし、 同僚には非正規雇用の方も多いが、 みなさん、 とても能力が高く、 女性のタフさが感じられると話されました。
【院生】3人目の配送パート職員のIさんは、 4時間×3日という契約の29歳女性の方です。 入協して2週間目で研修中だそうで、 初任給もまだなのですが、 月6万程度かと予想されています。 ボーナスがきっちりあることに驚かれていましたが、 夫の扶養家族になる範囲で収入を得たいし、 子どもが小さいので、 午前中だけ働くという契約はありがたいそうです。 将来も、 正規雇用だと家庭に負担になるので、 それは考えていないとのことでした。 なかなか辞める人は少ないと聞くし、 先輩が皆親切な職場で働きだせてよかったと話されていました。 印象的だったのは、 地理にも詳しいし、 知り合いもいるので、 できれば自宅付近を回りたいとおっしゃられたことです。
正規職員は?
【司会】アルバイトと同様に、 主婦以外の方々がパート職員にもなられているし、 パート自体が多様化している現状がよくわかりました。 では 「正規職員」 はいま、 どうなっているのでしょうか。 多様な雇用形態をどう見ているのかも含めて、 お願いします。
【院生】私がインタビューしたJさんは、 生協歴は26年。 大学卒業後、 ずっと生協ひとすじ。 49歳の男性です。 子どもがいないので、 経済的余裕はあり、 趣味も充実している。 「労働環境は非常にいい」 というのは、 他の方々と共通した意見です。 しかし、 「仕事にやりがいを求めることはあまりない。 仕事は苦労するものだと考えているので、 やることはやり、 それ以外の時間は趣味を楽しむ」 と、 はっきり分けています。 その意味では、 「生協の仕事が楽しい」 「車を運転するのが楽しい」 と言って入ってくるパートや委託の人たちとはかなり違う印象でした。 この生協の職場については、 今までリストラはなく、 その点は非常に積極的に評価していましたが、 今の正規と非正規労働との格差については、 「給料や社会保険の面で差があるのはよくない」 と思っているということでした。
【院生】Kさんは、 26歳の男性。 生協に入って1年4ヶ月。 学生時代に生協の店舗でアルバイトをして、 卒業後はIT関係の会社に就職しましたが、 職場としてかなりきついということで退職し、 現在の生協に就職しました。 週1回は朝9時~夕方6時、 週4回は昼1時~夜9時まで。 これに残業を平均1~2時間して帰宅しますが、 自宅でもチーム活動の報告や営業準備のビラを考えたりしているそうです。 現在の生協での働き方については、 「職場は和気あいあいとしていて、 環境も良く、 やりがいも感じるので、 ずっと続けていきたい。 収入も上がっているし、 労働時間は短くなったし、 残業代も出る。 前の職場ではそれもなかった。 いまの仕事に満足している」 ということで、 総合評価も5点満点で4.5でした。 「個配のほうが大変そうで、 委託の人は頑張っている」 という印象を受けているようです。
【正規職員】ただ、 Kさんには、 「自分の上 (役職) は詰まっているから、 たぶん将来も自分はここから変わることはないでしょう」 といった諦観のようなものがあったのがとても印象に残りました。 それはこの人特有のものなのか、 生協の若い正規職員はみんなそんな感じになっているのか、 よくわかりませんが。
立場による違い、 問われる仕事の質
【研究者】正規職員のほうが、 パート・委託・派遣など他の雇用形態の人のことがわりあいわかるのでしょうね。 委託社員の方に対して、 「すまんなあと思う」 と言っていましたから、 格差については十分な認識があるのでしょう。 逆にいえば、 アルバイトや委託の人たちには正規職員の賃金・労働条件はわからないかもしれません。 それが、 職場がすんなりうまくいっている要因かもしれない。
【院生】委託労働の人からすると、 「自分たちとしては、 生協で働いているのではなく、 物流企業の正規社員として働いているのだし、 むしろ自分たちのほうが頑張っているんだ。 これからもっと大きくなって見返してやるぞ」 という気持ちで働いていると思います。 職員は個配に対して 「コミュニケーションがない」 と見ていますが、 実際に個配の現場で働いている人たちは、 しんどさは感じながらも、 コミュニケーションのなかでやりがいを感じたりしているので、 そこには意識のギャップがかなりあるのかなと思いました。
それと、 委託社員さんは、 自分達は生協の 「外部」 の人間だと思っていますが、 現場の生協職員は 「自分たちの職場のことだ」 という考え方がすごく強いのかなと感じました。 派遣に関しても、 「自分はコールセンターで働いているけれども、 他企業と比べたらいい職場だし、 生協さんは優しいよね」 というイメージが派遣の方には強いのですが、 生協のなかでは 「同じ職場で働く仲間として、 少しでも働きやすい環境づくりを」 という配慮がある。 むしろ派遣社員のほうが、 初めから正規社員になることを諦めているようなところがあるし、 「他に行くよりは、 和気あいあいとした生協の職場のほうがいい」 というような感じもあって、 内と外で少し温度差があるような気がしました。
【司会】委託社員に 「すまんなあ」 というのは余計なお世話なんですかね。
【院生】委託社員の中で特にやる気があるのは20代の人、 この人たちは物心ついた時からすでに大不況で、 安定した上昇する社会を見てきていない。 前提になる働き方に対する認識や条件が全然違うような印象があります。
【司会】生協の場合、 いちばん稼ぐのは共同購入事業ですね。 年収200万円とか300万円といった人にやらせることができれば、 いくら間接コストがかかるとしても相当儲かるでしょうから、 正規職員以外の人間を逐次配送にも取り込んできたのは、 コスト経営という点だけで見れば、 当たり前なのかもしれません。 A生協では共同購入は委託していませんが、 そうする生協がどんどん増えていくのでしょうか。
【研究者】先ほどのベテラン正規職員の人で感心したのは、 自分の配達地域のことを非常によく知っているということです。 同じ共同購入で組合員に商品の配達を担当していても、 評価されるのは量だけで、 質の問題はあまり考慮されないのでしょうか。 質を測る尺度はむつかしいでしょうが、 福祉機能なども含めた生活トータルのつなぎ役として担当者の能力が測れないでしょうか。
【司会】昔の共同購入のように、 トラックにまとめて商品を積み込み、 運ばれた商品を班のみんなで分け合う時代であれば、 ベテランが存在意味を主張できたと思いますが、 いまのようにパッキングも分れていて、 ポンと置いてくるだけとなると、 ベテランであろうが新人であろうが、 委託だろうが派遣だろうが、 違いはないんじゃないの? と言われやすい事業形態になっているのでしょうね。 あるいは、 それをめざしたのでしょう。 誰でもできる仕事にしていかなければいけないということで。 いまはむしろ店舗の売り場のほうが、 個々人の資質が大事になっているのかもしれません。
【正規職員】無店舗事業はどんどんシステム化されて、 商品案内も仕組みも一緒です。 労働の質を測りにくいというのは、 担当地域を2~3年サイクルで変えていることもあると思います。 それは意識的にやっているわけですが、 仮に10年、 しかも自分の住んでいる地域を担当すれば、 相当な違いが出てくると思います。 このA生協でいえば、 以前は、 組合員を何人増やしたとか、 この商品を何個売ったかなどが目標になっていましたが、 いまは若い年齢層の組合員拡大をベースにしながらも、 どれだけ供給高を増やすかです。 その方法は、 仲間を増やそうが、 休んでいる組合員さんに復活してもらおうが、 1人あたり利用高を上げようが構いません。 それが指標になってきていると聞いています。
雇用の多様化の内実と生協のスタンス
【司会】生協組合員の全国平均年齢は50歳を超えたぐらいでしょう。 しかも、 生協組合員は、 一般社会よりも平均年収も学歴も高い。 乱暴な言い方ですが、 そういう人達の要求に応えて20~30代の人を 「安く使う」 ことに対して、 私はどうも抵抗があります。 組合員の 「1円でも安いものが欲しい」 という要求に、 生協は必死に応えようとしています。 組合員は 「神様」 ですから、 その要求には応えなければいけないのかもしれませんが、 若い層から不満はないんですか…。 若者 (院生) のみなさんは、 社会一般は別にして、 生協が、 このように多様な雇用形態を開発・採用することについて、 望ましいと思いますか。 低価格化で組合員も喜んでいるし、 当事者も、 少なくとも今回のインタビューでは誰も 「生協はけしからん。 ひどい職場だ」 とは言っていないから、 特に問題はないのでしょうか。
【院生】私がいちばん感じたのは、 やはり年代間での違いです。 今回ヒアリングしたなかで一番上は49歳の正規職員の方でした。 30代の方は派遣、 パートは20~30代、 個配は20代、 アルバイトも20~30代ですが、 ライフサイクルという点から見てどんな問題があるのか。 委託社員の場合、 たしかに現状では不満はあまり出ていないかもしれませんが、 長いライフサイクルで見た場合、 どういう問題が起こるのか、 非常に気になりました。
【院生】トラックで配送するのは、 もし生協の正規職員であれば、 かつては将来に向けた最初の30歳までの土台、 ひとつのステップとして認識されていたのでしょう。 でも、 委託会社の方は、 30歳までこのキャリアを積んだ後、 この会社の中でいったいどこで何をするのだろう。 組織として問題は生じないかもしれませんが、 個人としてどうなのか。 個人として、 かつての正規職員オンリーの生協だった時代とは違う事態が、 おそらく将来、 発生しうるのではないかと、 なんとなく見えてしまうわけです。
【司会】生協の社会的責任という点では、 どこまでやるべきでしょうか。 たとえば環境問題でいえば、 生協は配送車の7割くらいを低公害車にしていますが、 あれは法律で決まっているわけではない。 コストがかかっても、 それ以上のことを生協は社会的使命としてやっているわけです。 では、 雇用の場面ではどうなのか。 たしかに法律には違反していないと思いますが、 他の企業と同じようなことをやっている。 それでいいのでしょうか。 それとも、 それ以上のことをやらなければいけないのでしょうか。
【院生】雇用の場面でも、 生協に一般社会以上のことを期待したいですね。 ただ、 環境問題とも似ていると思いますが、 現実に環境問題で頑張っている企業でも、 直接利益だけで考えてしまうと、 法律ぎりぎりのところでしか実行できない。 生協も、 他の企業と同じような雇用形態の枠組みのなかで競争しようとすると、 他の企業より少し頑張るぐらいで目いっぱいというのが現状なんだと思います。 だから、 「すまんなあ」 とか和気あいあいとした雰囲気に現れるのかもしれませんが、 時給が他より少し高いとか、 手当が他のパートより少し高いということを、 ぎりぎりの闘いのなかで、 それでも生協だから少しはよくしたいと頑張っていると評価するのか、 そもそもそんな制度に乗っかった時点でだめだと切ってしまうのか、 そこは難しいところですね。
【司会】調査対象としたこのA生協は、 少なくとも正規職員に対する態度では、 他の企業より半歩前を行っていると思います。 A生協は、 「リストラはしない」 ということを最低限の方針として掲げています。 場合によっては賃金カットはやらざるを得ないかもしれないけれども、 1人も首は切らないというのです。 でも、 アルバイトの有給休暇取得が他企業と比べて高いといったことの他には、 派遣や委託など新しく出てきた労働形態に対して、 「他の企業とは違う」 というところがまだあまりはっきりとは出ていないのではないでしょうか。 その点で、 たとえば 「うちの生協は時給○○円を最低限にしている。 それ以下でこき使う企業には派遣の依頼をしない」 とか 「うちの生協はサービス残業は絶対に許さない。 そういう企業としか委託契約も派遣契約も結ばない」 とか、 そういうことがひとつでもあれば、 より生協らしいなあと思うんです。 そういう生協はないのでしょう。
【正規職員】あるんじゃないかと思いたいですね。 たとえば職場の雰囲気がいいというのも、 本当はそれじゃないか。 コストの問題については、 現実に市場至上主義のなかでぎりぎりでやっていて、 人件費はあまりにも大きなコストだという意識があると思うんです。 だから人件費には、 環境問題で 「少しずつエコカーに変えていきましょう」 というレベルとはかなり違う次元の負担の大きさがあるのではないか。 そのなかでけっこうぎりぎりの闘いをやっていると思いたい。 そんな感じがあります。
【研究者】先日、 生協の役員の方と話した時は、 「むしろアウトソーシングはしたくない」 と言っていましたが、 一方 「世の中が…」 という話もあります。
【司会】あるいは、 「派遣や委託に頼ることもあるかもしれないけれども、 毎年少なくとも何人は新卒者を雇用します。 それが、 生協が社会的に存在する責任です」 と宣言することはできないでしょうか。 生協に限らず、 民間であっても企業にはそういう責任があるのではないか。 学生の就職状況を見ると、 就職氷河期に遭遇するか、 それとも景気拡大期に卒業するか、 生まれた年によって全然違うわけで、 1~2年の違いで、 「地獄」 のような一生を送る人と 「天国」 のような一生を送る人がいる。 そういう現実を見ていると、 せめて生活協同組合は毎年一定数の採用をするのが社会的義務ではないかと最近考えるようになりました。 経営再建で新規採用をゼロにしたことが思い切った再建策だと功績のように語られるのは、 本当はおかしいのではないでしょうか。
【研究者】たしかに生協の場合、 協同組合的側面から社会的庇護論みたいなものが必要で、 下請けや請け負いに負担をあまり転嫁しないようなことが必要です。 若い人たちが年金にも入れないような現実がありますが、 それは税収にも関係してくるし、 経済の安定にも関わってきます。 協同組合レベルでの公共性について、 ある程度の目安をつけないと、 市場原理主義の立場に立ってしまったらまったく意味がない。 そのことが同時に、 職員のやる気や質みたいなものに関係してくるのではないかと思います。
きびしい現実のなかで問われる生協らしさ
【司会】他の面では生協は、 食品添加物についても、 Zリストなど、 国より一歩進んだ基準をつくってきました。 でも、 雇用に関してはそういうことをほとんど聞かないので、 「働く」 ということに関して積極的でないような感を抱くわけです。 その点をアピールすれば、 いまは本当に大きなアピールになると思うのですが、 それはまったく不可能なのでしょうか。 「若い人が生協に入らない」 と嘆いているけれども、 そういうところでアピールすれば、 非常にイメージアップにもなると思います。
【正規職員】社会的アピールと社会的責任という点では、 NETがほとんど出ない、 すれすれの経営状態のなかで、 どこに利益を配分するかという問題だと思います。 たとえば環境や雇用などいろいろあるなかで、 優先順位のつけ方です。 その際、 環境や食の安全は、 組合員に非常にアピールしやすい。 少なくともいままではそうでした。 でも雇用の問題は、 これまでの生協の組合員との歴史的な関係でいえば、 逆にアピールしにくい問題だったと思います。 だから、 優先順位をつける時、 どうしても雇用の問題は後回しになってきた面があるのではないでしょうか。
【正規職員】雇用の問題は、 話が難しいので避けてきた面があると思います。 たとえば役員退職金については、 「うちのお父さんの退職金に比べて多すぎる」 という話がすぐ出ますし、 給与にしても組合員理事から 「職員はもらいすぎではないか。 時給が高すぎるのではないか」 という意見が出やすい。 いつも出るわけではないし、 最近はそうでもないと思いますが、 そういう意見はわりと出てきます。 なぜかというと、 生協が 「世間の水準よりもう少し頑張って出そう」 と頑張っているために、 世間の水準から見た時に、 「うちのお父さんの給料よりもらってるやん。 それはおかしい」 みたいな声が出てくる面はあると思うので、 なかなか正面切ってやりにくい分野だったのではないかと思います。
【院生】生協という組織自体が、 本来何をしたいのかということが問われると思います。 「運動と事業」 という話がよく出てきますが、 運動とは何か、 事業とは何かと考えると、 たとえば委託する事業というのは生協本来の事業ではない、 だから 「委託」 という発想になると思うんです。 自分たちがやっている事業のなかで、 重要度が低い部分から、 安い労働力でもできるという意味で、 委託・派遣という発想になると思うんです。 雇用形態についてのいろいろな改革も、 もともとは生協がやっていた事業を徐々に外に出して、 その部分は委託する形になってきたのでしょう。
ただ、 「経営がある程度合理的でないと本体がもたない」 という場合、 その 「本体」 とは何なのか。 どんどん委託して、 最後に残るのは何なのか。 本来やりたかった協同組合としての原則みたいなことを言う人たちが正規職員としていて、 その人たちの目的を達成するために委託の人たちがせっせと働いてお金を集めくれるのだから、 正規職員は理念を言っていればいいという話にはならないはずです。 だとしたら、 どこまでが生協本体の事業なのか、 ある程度話し合わないと、 そもそもの生協の存在意義が問われることになると思いました。
【司会】たしかにひとむかし前には 「コアとなる事業は自分たちでやる。 周辺の事業は、 コストの問題を考えて外部にお願いするかもしれない」 という考え方が生協界あるいは研究者にありました。 でも現在は、 多くの生協でまさにコアとなる事業を外部に出しています。 個配は、 これから生協が主力にしようとしている事業ですから、 いちばん大事で、 しかも組合員との接点となる貴重な機会です。 そこを全部、 外部に任せているから、 実際にはもうその理屈は成り立たなくなっているのではないでしょうか。 「商売」 の現場はほとんど全部、 外部に任せている生協のグループもあります。 正規職員がやっているのは、 「事業と運動」 の 「運動」 のほうだけといってもいいかもしれません。
【正規職員】A生協の場合、 本部の正規職員が現場の応援によく入るんです。 配送応援とか店舗応援とか、 トラブルがあれば電話かけを本部が全員一斉にやるとか。 そのために本部職員は自分の仕事を残業でこなしたり、 いい面と悪い面がありますが、 正規職員があらゆる事業の現場に関わろうとしているということはあると思います。 それから労働組合との関係では、 応えられるかどうかは別にして、 一生懸命に非正規の方々の声を聞こうとはしていますし、 委託や派遣の労働問題は、 生協の労働組合からも要求が出されます。 それに対して生協として、 委託会社と話をしていると聞きます。 どこまで実行力を持ってやれるのかはわかりませんが…。
【正規職員】 『協う』 読者の中でも、 生協の非常勤理事の方は、 正規やパート労働のことはご存じだと思いますが、 委託や派遣労働については、 新しい労働形態なので、 今日のような具体的な内容はあまりご存じないのではないかと思います。
【司会】正規やパートだけでなく、 ぜひ派遣や委託、 アルバイトなども含めて、 「働き方」 という面で生協は何が出来るのか、 それぞれの生協で考えていただきたい。 そんな思いから組んでみたのが今回の特集です。 引き続き、 取り組みたいテーマですね。