『協う』2007年6月号 生協のひと・生協のモノ
「松なめこ」 に第2の人生を賭ける!
林 美玉
京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程
京都から車に乗って約3時間、 渓谷の清流の音に出迎えられた。 そこに現れたプレハブ工場2棟と内部に木材を多く使用した事務室が、 山霧につつまれて何だか懐かしい雰囲気にさせる。
京都と岡山の生協に勤務し、 一昨年8月定年退職をむかえた日名泰之 (ひな・やすゆき) さんは、 故郷である岡山県の吉備高原で、 「松なめこ」 を栽培する㈲加賀ファームを営んでいる。
「松なめこ」 で故郷の町おこしを
日名さんが定年退職後、 多額の出資をし新たな挑戦をはじめたのには理由がある。 この25年間、 吉備中央町の人口は約40%も激減し、 特に地元の就職難による若者の故郷離れははなはだだしい。 「このままさびれていく故郷を放っておくまい」 と、 この地がマツタケの産地だったこともあり、 きのこ栽培に向くだろうといろいろ探した結果が 「松なめこ」 である。 また、 「個人的には、 定年退職はしたけど、 まだまだ働けるし、 高校2年生の息子が独立するまでは支えてやりたい。 あと10年は頑張れる」との思いを胸に、 25歳の工場長をはじめ、 地元の青年と農家の主婦たちとともに加賀ファームで汗を流す。
「松なめこ」 は、 マツタケとなめこのコラボレーション
「松なめこ」 とは、 マツタケ菌となめこ菌を合わせた新たな品種の茸のこと。 全体の形はなめこを大きくしたようだが、 なめこより茎が太い。 かさはかわいらしい黄色でなめこのぬるぬる感がある。 まさにマツタケとなめこのコラボレーション。 もともと、 山口県の「東洋きのこ研究所」がマツタケの人工栽培を目指し研究・開発を進めたが、 マツタケまでにはなかなかたどり着けず、 偶然、 副産物として生まれたのが、 この茸だ。 現在、 この 「松なめこ」 を生産している所は、 菌床を購入させてもらっている 「世羅きのこ園」 (広島県)と加賀ファームのみと聞く。
何はともあれ肝心なのは 「松なめこ」 のお味。 「松なめこ」 を出荷する道の駅のレストランで、 「松なめこ」 をとろろ汁に混ぜ、 ご飯にかけて試食した。 茎の食感はマツタケそのもの。 とっても美味しくいただきました。
「松なめこ」 の栽培プロセス
「松なめこ」 は、 茸が生殖する森の状態をエアコンや加湿器で人工的に再現したプレハブの中で生産される。 プレハブ内は四季の移ろいをイメージすればよい。 栽培プロセスは、 平均温度21度、 湿度80%の培養室で120日間、 次に発芽室で10日間、 最後に発生室で7日間。 出荷までおよそ150日はかかるが、 原木栽培の椎茸よりも一ヶ月は短いそうだ。 一つの菌床で2~3回収穫し、 収穫が終わった菌床も農地の有機肥料として再利用される。
第2の人生を迎える皆さんに
オーナーである日名さんは、 「生協職員だった時は、 給料日が待ち遠しかったが、 今は給料日が一番怖いです」と笑う。 特に、 鍋のシーズンが終わる頃から、 「松なめこ」 の需要は急激に減り、 夏を乗り越えるのが一番の課題であるという。
そんな日名さんに、 第2の人生を計画している方々にアドバイスをとお願いすると、「難しいな(笑)。 殆ど休む日もなく大変忙しいですが、 退職をしてからも、 ただ単に趣味で過ごすのではなく、 仕事があったほうが日々の緊張感もあって良いですよ。」
最後に、 我々からも日名さんにエールを送ろう。 「松なめこ」 と日名さんの発展をお祈りします。