『協う』2007年6月号 Book Review 2

三浦 展 編著
『下流同盟-格差社会とファスト風土-』

安田 則子
おおさかパルコープ組合員、 『協う』 編集委員
 

 俗に言う 「格差社会」 を今や感じない人はいないと思うのだが、 まだまだ全体像として捉えきれていないかも知れない。本書の編著者である三浦展あつし氏は、 消費社会研究家・マーケティングアナリストという専門家としての立場から、 経済社会のグローバリゼーション (アメリカ化) の流れを、 「下流社会化」 であり同時に 「ファスト風土化」 であると分析している。彼は、 地方都市郊外の様の変化を、 ファーストフードのように均質なもの…とイメージして 「ファスト風土」 と造語で表現しているのだが、 なるほどと思わせ、 面白い。 ファスト風土化の現れとする、 自然や歴史、 文化、 コミュニティ、 人間関係…それらが次々と破壊され、 新たな原動力は見えつつも 「下流社会・ファスト風土化」 は、 アメリカ、 日本から世界に広がりつつあると、 彼は言い切る。ドイツの社会学者マックス・ウエーバーが提起した 「脱魔術化」 論をあげての社会現象の具体的分析は興味深い。魔術化 (迷信・呪術) からの脱却⇒合理化。 それは伝統的な生活習慣は非合理的なものとして否定され、 伝統の中で意味づけられていた様々な習慣が、 無意味になり無価値になる…。合理化による近代化、 産業発展の一方で魔術によって意味づけられていた世界が 「無意味化」 する、 と90年近く前の社会学者は考えていたのだと言う。現代を予言していたかのようだ。
  三浦氏のレポートでは、 日本やアメリカ的なファスト風土化が進むと、 下流社会化が進み、 体力低下、 学力低下、 犯罪の増加につながることをデータを示しながら危惧している。 住民にとっては、 街や村がどのように変わっていくのかは重要であり、 生活に欠かせない店舗 (商店) の盛衰の影響は大きい。 どの様な店が、 どこへ、 どのような様で現れるのかで、 人の流れも街並みも地域性も大きく変化していくのだ。 第3章のレポートにある群馬県太田市のかつての活気溢れる 「駅前商店街」 から今や 「北関東一の歓楽街」 への変貌ぶりは驚きだ。 具体例を挙げられる太田市も少々気の毒だが、 頑張っている商店が押しのけられ、 商業施設が郊外型・ウォルマート型に変化していく中で、 取り残された地元で新たな 「活気」 が生まれることはいいのだろうが、 そこにはどの様な質の文化が生まれ、 根づいていくのだろうか。 余計なお世話だろうがそこに暮らす人や、 子どもの育成に影響が無いことを見守るばかりだ。 一般市民の受け止め方や心情の変化をもう一歩、 掘り下げて欲しいところだ。
  後半は、 アメリカレポートの中で、 ウォルマートの検証からアメリカの地方の実態が報告されている。 大きく5つにまとめられているが、 内容はそのまま日本にも当てはまると言える。 厳しい現実の中では 「階級の再生産」 が繰り返されると言う。 嫌な言葉だ。 アメリカでは、 民族問題で見えにくくなっているが、 意外にも白人の下流層も悲惨な実態らしい。 日本の社会福祉の問題やワーキングプアー・ネットカフェ難民など呼称される現象がそこに重なる。 ヨーロッパにおける現状では、 特に著者 (7章担当) の専門である都市計画 (街づくり) の視点からフランスの実態を中心にまとめられている。 少々くどい感もあるがマクドナルドを逆の象徴とするスローフードの食文化や、 また 「保全的刷新型都市計画」 の政策から見た景観や住居にこだわり大切にする、 という文化の分析やレポートは、 最大の評価と著者なりの日本への問題提起と読み取れる。
  しかし都市計画の裏を返せば、 ヨーロッパでもグローバル化の中で確実にアメリカや日本に見られるファスト風土化が現実にあると言うことだろう。
世界中で超上流層が形成される一方で、 着々と 「下流同盟」 も結ばれていたのだと言うことを本書で再認識することとなった。
「格差社会」 という言葉に少し耳慣れてしまっていたのだが、 評論家の理屈っぽい論調本かと思いつつ、 まずタイトルの 「下流同盟」 ・ 「ファスト風土」 の文字に興味を持ってしまった。 編著者の三浦氏他四名の執筆者による専門的な視点でのレポートや分析も、 7章に分けられての編集は変化があり読みやすい。 また第1章の終わりに本書構成の説明があり、 編著者の意図や相互の関連も理解し易い。 人ごとではない、 他のせいでもない、 社会の一員としての個人や組織の、 それぞれの立ち位置での責任なり、 課題が見えてくる相関図的なものを本書から感じた。